第一章 レストラン創業! 3-資金調達!
ダルクは弾丸の数を数える。それは彼らの切り札の数だ。
「お、久々に見るね。ダルクの相棒」
トレインはリビングに置かれたダルクの銃を見てそう言う。
「銃の弾がもう少し安ければいくらでも出番をやれるんだがな」
ダルクは苦笑した。
この世界は銃の脅威を減らすため、どの国でも弾丸の値段を釣り上げている。
警察は自由に使えたのだが、ここ数年で警察が私事で銃を悪用するケースが増えてきたため、位の高い警察のみが自由に使えるように法律が変わったのだとか。
だから未だに民間に銃はあまり普及していないのだ。
「その代わりに俺が出番をもらうってわけだな」
スヴァンがナイフを造作もなくくるくると回した。
トレインがうんうんと頷いてる姿に今度はダルクが問いかける。
「お前は今回も何も持ってかないのか?」
「あぁ、そうだよ。あまり両手がふさがるのは好きじゃないんだ。大丈夫、情報ならここにある」
そしてトレインはその金髪の頭をこんこんと軽くつついた。
「でもよぉ、お前の頭ん中に情報あってもそれだけじゃ困るときがねぇか? 前はそれで俺とダルクがターゲットの家で迷ったじゃねーか」
スヴァンの心配そうな声に、トレインは「そこは考慮済みだよ」と言ってふふんと笑う。
「ダルク、紙とペンをくれないか。地図を描いておこう」
トレインは記憶力がとてもよく、一度見ただけで地図や図面を完璧に覚えることができたのだ。
さらさらと地図を描き、できたと言って彼が顔を上げたのを見てダルクとトレインはその紙をのぞき込んで一言。
「「下手だな」」
……そう、ただし彼には絵心がなかった。
「えー、じゃあ地図の説明をするよ」
「下手すぎだろお前、どうやったらこーなるんだよ」
「このぐねぐねした線を描けるというのも一種の才能なのかな」
「ちょっと君たち! 僕を嗤うのはいい加減やめてくれ!」
トレインは指をさして声を荒げるが、スヴァンはスルーしてしれっとペンを持ち。
「お前言葉は巧みなんだからその地図の中身話せよ。俺が描き直してみる」
「ほう、良い案じゃないか」
ダルクもその案に乗っかり見守る中、スヴァンとトレインは連携して地図を再び作り始める。
スヴァンは意外にも絵が上手く、見違えるほど良い地図が出来上がった。
「なるほど、よくわかったぞ。すごいじゃないか二人とも!」
ダルクが感嘆の声を発し、スヴァンが一仕事終えたようにふぅと息を吐く。トレインは自分の言葉の表現力に誇らしげにうんうんとうなずいた。
「じゃあもう一度説明させてくれるかい?」
そう言ってトレインは地図の入り口部分を指さす。
「ここに見張りの男が一人いるんだ。ここは交代制になっていてね、二人の殺し屋ともう二人の非戦闘員の手下の四人が時間で交代することになっている。狙い目は、まさに今日。一か月に一回だけ、二回連続で非戦闘員の番が立て続けに発生する」
ダルクとスヴァンは腕組みをしてうんうんと聞いている。
「なるほど、この非戦闘員をどうにかして進むんだな。ここはさすがに薬を嗅がせて眠らせようか。戦えないやつを倒す気にはどうにもならない。危害を加えてくるやつだけ制裁しよう」
「甘っちょろい考え方だぜ。ま、いいけどよ」
二人の話が一段落したのを見てトレインは説明を続ける。
「それで、この先は大広間になっていて二つドアがあるはずなんだ。右奥のドアは、確定情報ではないがおそらく非戦闘員の手下たちの部屋だと思う。僕たちの目的地はここではなく、大広間の中央奥のドアの先だ。その部屋が建物の最奥で、お金やその他の金目の物もここにあるはず。そしてステレッド兄弟と殺し屋の二人がいる場所でもある」
「思ったんだが、ステレッド兄弟は戦えるんだろうか」
ダルクの問いかけにトレインは首を横に振る。
「いや、彼らは戦えないはず。一応彼ら兄弟の顔がわかってると良いと思って写真を用意したよ。ほら、これ」
ダルクとスヴァンは差し出された写真をのぞき込む。
「なるほどな」
「こいつらも殺さねーってことかよ? 悪党だろ、領民を苦しめてる」
「でも僕らはこの人たちを粛清する権利もないだろう? きっと正義がいつか彼らに鉄槌を下すさ。ちなみにこの部屋には隠し通路があってね。もしこの先に逃げられたらどうしようか?」
ダルクは「うーん」と考えて決断した。
「追わなくていいことにしよう。大丈夫だ、きっとステレッド兄弟は逃げることしかできない」
「情報屋にバレてるなんてどこが『隠し通路』だっつーの」
「そうだよねぇ。ま、建物の説明はこんなとこかな。あとは建物の近くにリヤカー置き場があるから、入口に戻ってリヤカーに物を載せて帰ろう」
「リヤカーってマジかよ……。あれ、お前がこの前運転してた黒い車は? あれ使えば速ぇじゃん?」
自分の思いついた案が名案だと確信したスヴァンだが、それはすぐにつぶされる。
「あれは僕の車じゃないよ? レンタカーさ」
「うーわ、こんな時にだますのに成功してんじゃねーよ、くそ」
「まぁまぁ。じゃあリヤカーだな。わかった」
諸々の説明が終わったのを見てスヴァンは伸びをした。
「それにしても俺がんばったわ。これで気持ちよく寝られ……」
「ないよ。襲撃しに行かなきゃ!」
「そうだぞ、主戦力にやる気を出してもらわないと失敗する」
「わーったよ、やるって!」
そして時刻は夜の九時。三人は黒っぽい服に着替え、目出し帽をかぶって出発した。
*
狙うはステレッド兄弟が所有するアジトだ。本当は邸宅の方も狙いたかったが、そこは使用人たちが多くいるため狙うのをやめた。
しかしステレッド兄弟が悪だくみで稼いだ金はアジトに隠しているため、こちらを狙うだけで十分だろう。
夜の帳の中、アジトを近くしてトレインは今さらなことを聞いた。
「ところで肝心なことを聞くよ。思えば最初に聞いておくべきだった。ダルク、このアーシェルヴィアで僕とスヴァンは顔が警察に割れていない。君はどうだ?」
「そうだな、その点については問題ないだろう。――……なにせザコ中のザコだからな、警察にマークすらされてなかった」
「うわ、だっさ! カッコわる!」
……スヴァンはこれでも小声である。
「悲しいが不幸中の幸いだねぇ……」
「あー恥ずかし。こんなザコ中のザコと一緒に行動してるとか親に顔向けできねぇ」
「君もっと顔向けできないこと散々やってるよね!?」
そんなことを喋りながら路地を曲がる手前で三人は足を止め、目的の場所を見やった。
見張りの男が一人、退屈そうに立っている。あれが非戦闘員だろう。
「あれか」
ダルクの問いかけにトレインは無言でうなずく。そして手元の時計で時刻を見た。
「もうすぐだよ」
少しして見張りの男も時計を見て、あくびをしながらアジトの入り口へ入ろうとして……
「ちょっとごめんよ」
音もなく近づいたダルクに後ろから薬を嗅がされ、力なく倒れた。
ちょうど開いた扉からスヴァンを先頭にして中に入っていく。部屋の中は薄暗く、ほどほどに広いが物がひとつも置かれていなかった。
右端と奥に扉が一つずつあるが、三人は先ほどの地図を頭に思い浮かべる。トレインの説明だと、目的地は奥の扉だ。
スヴァンが奥へと歩みを進めようとした時、右の扉が開いて白衣を着た誰かが出てくる……!
「ふぐっ!!」
手早くスヴァンがその人間の口を手でふさぎ、床へと押し倒してナイフをかざしたその時。
「ってあれ、シューレか?」
その人物に見覚えがあったのだろう、スヴァンは何もせずにナイフをおろした。
ダルクとトレインは目を見合わせ、一方でシューレと呼ばれた少しふくよかな丸メガネの男は口を押さえられたままジタバタともがき、必死にうんうんとうなずいている。
スヴァンは後方の二人を一度見て、次に白衣の男に言った。
「よう、シューレ。こっちの部屋に誰かいる?」
スヴァンが指さしたのは男が今しがた出てきた部屋で、ようやく口を解放された男は首を振った。
「そ、その声はスヴァンかい……? お、重いよ……! えっと、こっちの部屋は誰もいないよ、奥にはボスたちがいるけど……」
「おっけー、ちょっとお前に話聞くわ」
スヴァンが男と右の扉に入ろうとして、ダルクとトレインに手招きする。
「ちょっとスヴァン、大丈夫かい? その人嘘ついたりしない?」
トレインの心配そうな言葉に、
「大丈夫。こいつは昔から嘘はつかないから」
自信があるらしいスヴァンはそう言い切って部屋に入っていく。
「スヴァンがそう言うんだから行ってみよう」
ダルクはまだ疑っているトレインの背をポンと叩いて、後に続いた。