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第二章 一流への道 4-思い出の料理をもう一度



ある日曜日の夜、業務が終わった後に皆で後片付けをしていると、一冊の本を持ったハミエルが珍しくレストランの厨房に顔を出した。



「スヴァン君、ちょっといいかな」


「ん? なんだよハミエル」


「物を整理していたら妻が書いていた日記が出てきたんだ。それで……ちょっと妻の事を思い出したくなってしまって。すまないが、妻の得意料理を作ってあの味を再現してくれないだろうか?」



その会話を遠くで聞いていたダルクたちも集まってくる。



「いいじゃないか! スヴァン、作ってやってくれ」


「今は亡き奥さんの味を食べたいだなんて、なんて感動的なんだ……! 僕たちも応援するよ!」


「どんな味なんだろうねー? みんなで試食会をしてもいいんじゃないー?」


「楽しみです!」



皆の反応を見たスヴァンは鼻を高くし、



「よっしゃ、俺がその味を再現してやろーじゃねーか! かかってこい!」



と高らかに言い放った。そうしてスヴァンの挑戦が始まったのである。



「とりあえず、一般的な料理を作ってみて思い出の味との違いを見てみよーじゃねぇか。なんの料理だったんだ?」


「ありがとう、スヴァン君。妻の得意料理はミネストローネだよ」


「ふーん。上等だぜ、作ってやるよ!」





スヴァンはあっという間にミネストローネを作ってみせた。



「まずは食べてみてくれ」


「ああ。わかったよ」



しかし、ここから難局に陥るのである。



「うーん、ちょっと違うなぁ……」





「これならどうだ?」


「うーん、コクが増えたがこういうコクじゃないんだ。でもあの味はまろやかだったと思う」



少し厨房を離れていたダルクがやってきてトレインに進展を聞くが、トレインは残念そうに首を横に振った。



「バターも魚のだし汁とかも試したけど、どれも違ったよ」


「そうか……」



アレンはシューレにこんなことを聞いた。



「そういえば、ミネストローネってどこの食べ物なんですか?」


「ん-と、確かあれはー……」



それを聞いてトレインは指を鳴らす。



「それだ!! ハミエルさん、奥さんの出身はどこだったんだい? それを紐解けば近づけるかもしれないよ!」


「なるほどな……。良い案だ、トレイン」


「妻の出身地かい? イタリアだが……」


「イタリア料理の隠し味っつーとソフリットか?」



スヴァンの言葉がわからず聞き返すトレイン。



「ソフリット? なんだいそれは」


「あー、簡単に言うと人参や玉ねぎ、セロリを炒めたものだな」


「スヴァン君、作ってみてくれないか?」


「おう」



スヴァンは気合いを入れなおして料理にとりかかる。しかし……。



「うーん、すまないスヴァン君、これでもないよ。もう少し、こう……甘味があったような」


「スヴァン、甘いもので隠し味になりそうなものは何かあるか?」



ダルクの問いかけにスヴァンは「いくらか思いつく」と言って少し黙り。



「……!! はちみつか!?」



何かひらめいたようでまた作り出す。ダルクはその様子を見て微笑み、うたた寝をしていたアレンを抱き上げてホールに連れていった。

しかし数分後厨房からはスヴァンの悲痛な叫びが聞こえたため、おそらく違ったとみられる。





二時間後。



「これだ……! これだよスヴァン君!!」



厨房から歓喜に満ちたハミエルの声が聞こえたため、ホールに居たダルクたちは顔を上げる。



「できたのか!」



ダルクたちが厨房に駆けつけると、そこには……。



「……なんで頭を抱えてしゃがんでるんだ? スヴァン」



その言葉の通り、頭を抱えてしゃがみ込んで呻いているスヴァンがいた。



「嘘だろ……、なんでこんなもん入れてんだ……」


「え」


「まぁ、できたからいいじゃないー。僕たちも食べてみようよー」



シューレの提案にダルクはうなずきで返す。

しかし出てきたものを見て一同は「ひっ」と声をあげた。



「んん? ハミエルさん……確か奥さんの得意料理はミネストローネ、じゃなかったかい……?」


トレインの顔が引きつっていた。

そこにあるのは、茶色いミネストローネ。



一同が恐る恐るミネストローネを口に運ぶと、感想は。



「「「「……甘っ!?」」」」



だった。美味しいとは言えない、妙な味だった。



「も、もしかしてスヴァン、これは……」



ダルクは舌が利く。もう答えはわかったようだ。



「何を入れたんだい、こんなまずいもの……」


「ばか、これはハミエルさんの奥さんの思い出の味だぞ!」



トレインの失言にダルクが軽く平手打ちをした。


するとげっそりした顔でスヴァンはつぶやく。



「ミルク、チョコ……」



その発言に辺りは凍り付く。



「ミネストローネに甘いチョコを入れてたのかー。大事故だねー」


「う……」


「無理して食べなくて大丈夫だよー、アレン君」



しかし、ハミエルだけは喜んだ顔をしている。なんなら、うっすら涙を浮かべている。



「嬉しいな……。彼女の料理をまた食べられるなんて。彼女のこの料理はまだ小さかったロンも苦手で、いつもどうやって食べないようにするかあの手この手を使っていたな。懐かしいよ……」


「そんな目に見えてまずいもんを料理人に作らせんな!!」





翌日。



「う……」



そのミネストローネをロンが食べると、すごくまずそうな顔をして、頭を抱えたのだった。




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