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第一章 レストラン創業! 1-開店準備1


「……と、いうわけで土地と建物を用意した」


「展開が早くないかい!?」



三人が今いるのはバルト海に面するシンフォニア王国の南側、首都アーシェルヴィアのとある一角。街の西部の貧民街にほど近い場所だが人通りは悪くなかった。石畳が続く通りにはヨーロッパ風の街灯や建物が並び、朱色やオレンジ色の暖色が使われた三角屋根が立ち並んでいる。


しかし目の前の建物は周囲に比べてめずらしく、屋根の代わりに屋上があって白を基調とした四角い建物だった。向かって左側の一部分はまるで城の一部を切り取ったかのような円柱の、不思議な形状をしている。しかし雰囲気はかなり良さそうな外観であった。その側面の白い壁は少し汚れているものの掃除をすればなんとかなりそうな具合。建物の広さはかなり広く、小さなレストランを予想していたスヴァンとトレインの予想を上回った。


スヴァンは意外と悪くない建物の様子に「ふーん」と彼なりの感嘆の声を漏らす。



「すげーじゃん。どうしたんだよ、この建物」



ダルクはこの建物に期待のまなざしを向けながら「昔のツテだ」と一言だけ返した。

トレインはフッと微笑み手を一度パンッと鳴らす。



「よし、出だしは良い感じだね。それじゃあ僕は図書館にレストラン経営の本を探しにいってくるよ。さすがの僕もこれに関しては知識がないんでね」


「俺たちはどーしてりゃあいいんだ?」


「スヴァンはダルクと中に入って店の名前でも決めていてくれよ。僕も気に入りそうな……そうだな、オシャレなフランス語とかでも使って」



その言葉にダルクは任せてくれと言わんばかりにうなずいた。



「フランス語なら、いくらか単語は知ってるぞ。じゃあ情報収集はトレインに任せて俺たちは中で待っていよう」


「おう」





スヴァンは好奇心が勝り、すぐさま建物の中を探検し始める。

木製の黒い両開きのドアを開ければ広い室内。レンガのような黒いタイル張りの床に、多く取り付けられた窓から日が差し込みキラキラと輝いていた。

右側には厨房らしき場所へつながる戸がついており、右奥にはトイレの看板がついていた。そして左奥には螺旋階段があり、スヴァンは目を光らせ楽しそうにそこを上っていく。


建物の二階も窓は多めで解放感に満ちていた。その中の一角は外から見たときにあった城の一部のような場所だろう、円形のそのスペースは少し豪華な丸テーブルなどを置いて飾ればまるで本当にどこかの姫がお茶でもしていそうな雰囲気である。スヴァンはなんとなく、レストランなんだからここを特別席にすれば注文が殺到しそうだと思った。


その円形のスペースにある窓の一つを開けて両肘をついたスヴァンはふう、と息を吐く。


あのダルクが用意する建物だ、何かしらまたやらかしてくるんだろうと思っていたのだが。



「……わりと、いいじゃねぇか」



自分がこのレストランで何をするかなんて想像もつかない。というか、ダルクもトレインもレストランなんか本当に経営できると思っているんだろうか。

そんな疑問は浮かぶが、この窓の外から吸い込む空気と少し高いところから見る街並みは新しい何かを運んでくる気がして、気分は悪くなかった。



「スヴァン」



階下からダルクの呼ぶ声が聞こえ、スヴァンは階段を降りていく。

ダルクは三つほど席があるカウンター席に座って紙とペンを用意した。



「早速だがこの店の名前を決めようと思う」


「おう」


「どんなのがいいかな。あ、言っとくけどお前が好きそうな……たとえば『血の祝祭』とかそういうレストランに似つかわしくない名前はやめてくれ」


「てめぇ俺をなんだと思ってんだ」



スヴァンはダルクの手元に置いてある紙を見てみるが、やはりそこには『店の名前 候補』しか書いていない。



「そもそもトレインがフランス語みたいの使えって言ってたじゃねぇか。お前どんな単語知ってんの」


「んー、たとえば色の名前とかかな。ルージュ、ジョーンヌ、ブル、ヴェール、ノワール……」


「待った、ルージュとノワールかっけぇから候補な。それ何色?」


「赤と黒」


「最高じゃん、もうそれでよくね?」


「本気か? せめて意味を持たせたいだろ。赤いなんとか~とか、黒いなんとか~とか」


「赤い……、赤い閃光。黒い空……」



考え始めたと思えば、こじらせた少年のような発想をするスヴァンにダルクはため息をつく。



「……なに言ってるんだ。でもそうだな、それを訳すなら……多分『ルージュ・エクレール』、『ノワール・シエル』かな」


「なんだよかっけぇじゃねーか。フランス語最強じゃん」


「そうだな。んー、『閃光』はちょっとなんか違うんだ。でも空は綺麗な感じがする」


「空ぁ? 綺麗か??」



スヴァンは退屈そうにその場を離れて窓から空を見上げる。この日は快晴。青空は澄み渡っている。

正直スヴァンは自分にこんな空は似合わないことを知っている。似合うとしたらそれはもっと鬱屈とした曇り空のような。

しかし、まぁこれは……



「……綺麗、なのかもな」



ダルクも宙を見上げる。ひとしきり沈黙が続いた。

彼が見据えるのはこの場所の未来の姿。きっと輝かしい未来があるはずだ、自分のような犯罪者でもそれくらいの夢を見たっていいだろう。

ここから始まるんだ、ここから。



「あ」



ダルクは何か思いついたように書き始める。スヴァンはその背中を見て興味が湧いたように近づいていく。

その気配に、ダルクは振り返りながらニッと笑った。



「できたぞスヴァン、いい名前だ」


「ほう。聞こうじゃねーか」


「黒い夜明け。――Noir(ノワール) L'aube(ローブ)



***



数時間後トレインは何冊かの本を抱えて戻ってきた。その機嫌がよさそうな表情を見るに、情報はつかめたようだ。



「ただいま。情報はある程度揃ったよ。君たちの方はどうだい、店名は決まったかな」



するとダルクとスヴァンは一度目配せをして腕を組み始める。



「決まったぜ。驚くなよ、トレイン」


「その名も……Noir(ノワール) L'aube(ローブ)だ!」


「ああ、いい名前じゃないか! でもちょっと違うかな、確か色の単語は後ろにつくはず……」



表情をさらに明るくしたトレインは悪気もなく指摘し始めるが、



「え」



ダルクとスヴァンの顔が凍り付いていく。



「……なにか? 僕、悪いことでも言った?」



スヴァンは真剣に焦り始めた。



「おいダルク、やべーじゃん」



ダルクは目元を手で押さえてうつむく。



「看板……発注してしまった……」


「……っ、えええええええ!?」



さすがはやらかす男、ダルク。



「でもまぁやっちまったもんはしゃあねーだろ」



至極どうでもよさそうにつぶやくスヴァンに、トレインは恨みがましい目を向けた。



「君はなんでこうも前向きなんだ……」


「すまない、トレイン……」



ダルクは本当に申し訳なさそうに謝る。その様子を見て頭を掻いたトレインはため息をひとつ。



「わかったよ。じゃあ店名も看板もそれでよしということで。じゃあえっと……そう、次は身だしなみだ! 僕たちのコスチュームだよ」


「あぁ、それのことだが。俺もそこまでは考えたんだ」


「なんだい、何か案があるのかい?」


「いや、金をもう使い果たしてしまった」



ダルクの言葉にこくこくとうなずくスヴァン。トレインはさすがに絶叫した。



「君たち何やってるんだい!?」


「じゃあ金稼がねーとな。資金調達ってわけだ」



ケロッといつも通りの口調で物を言うスヴァンにトレインは指をさす。



「だからなんで君はこうも前向きなんだ!!」



そうして三人が次に行うのは資金調達に決まったのであった。



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