第二章 一流への道 2-自給自足!?
新たなメンバーが加入した後、今までハミエルの経理をロンが担当していたことが明らかになった。
その話を聞いたダルクはロンにNoir L'aubeの経理をお願いしたのであった。
「ということで、経理を担当することになりました、ロンです」
と、ロンの肩に座るオウム……クロワールが悠然と喋っている。これは会議でのことだ。
「正直に言うと、今のままの経営では、このレストランは、長く持ちません。ボクの計算によると、おそらく三ヶ月で、このお店はつぶれます」
ロンの話に全員は一度黙り込み、重たいため息が出た。
「意外と早いね……」
「いや、待てよ。こちとら修行して料理のレベルは上がってんだ。これから客も増えてきて経営も安定してくるんじゃねーのか」
スヴァンの言葉にダルクは「そう願いたいな」とうなずく。
「一番お金がかかってるのはどれなのー?」
シューレの質問に、ロンは再びクロワールに耳打ちした。
「食材費、です!」
「やっぱそうだよねぇ」
トレインの言葉に皆が「うーん……」と悩む中。
「そんじゃあ自分たちで食材調達したら実質タダじゃね?」
スヴァンのとんでもない言葉が飛び出て、
「なるほどな!!それで行こう!」
……オールバックのバカがGOサインを出した。
その様子をハミエルは何も言わずににこやかに見つめている。
「えっと……魚釣り、とかですか?」
アレンの言葉にダルクたちはうんうんとうなずく。
「そうだぞ。他にもそうだな……山菜取りや鹿やイノシシも捕まえに行くか!」
「すごい!! ワクワクします!」
ロンは引きつった笑みを見せているが、
「まぁ、可能性をつぶすのはよくないので、とりあえずやるだけやってみましょう」
とクロワールづてに伝えたのだった。
***
次の休業日。
「山菜取りだー!!」
なんだかテンションが上がってるダルクがそう声をあげ、
「採るぞー!!」
アレンは楽しそうに拳を上にあげた。
ハミエルは日の光がダメなので、シューレと共に留守番している。
そうして一同は近くの山に意気揚々と入っていったのであった。
*
……三十分後。
「きゃあああああああああああ!!!」
聞こえたのはスヴァンの絶叫。山だから虫がいるのは当然である。
アレンはスヴァンが見てしまった虫を追い払い、ダルクとトレインとクロワールは無視して山菜を集める。そうして拾ってはロンに見せ、ロンは毎回図鑑を開き、うなずきか首を横に振ることで食べられるのか判断していた。
しかし十分後、言い出しっぺのシェフはこう言った。
「もー無理だ!身が持たねぇ!」
「早くないか!? まだ十分くらいしか経ってないぞ!」
「まぁ、こうなる未来は想像できたよ、僕は……」
「あ、スヴァンさん、足元にイモムシです」
「きゃあああああああああああ!!!」
結果、採れた山菜はごくわずかだった。
*
「肉獲るぞー!!」
「わーい!!」
またもやテンションを上げたダルクとアレンが叫ぶ。
一同がやってきたのは草むらだ。
「情報によると、ここではイノシシの目撃情報がたくさん出ているんだよ」
得意げにそう話すトレインの背後を見たクロワールは慌てて叫ぶ。
「トレイン、後ろ、イノシシ!!」
「えぇぇぇ!?」
早速迫ってきたイノシシに追いかけられるトレイン。それを見たスヴァンはナイフを構えた。
「よっしゃ、任せろ」
そう言って目にも止まらぬ速さでナイフをイノシシの首に刺し、倒す。
「血抜きしねーとまずくなるって話だから……」
独り言を言いながらそのままイノシシの首を切って、逆さに吊るした。
「これでよし、と」
すると背後で鼻をすする音が聞こえる。「ん?」と疑問が浮かぶスヴァンの肩に、トレインが気の毒そうにぽんと手を置いた。
「アレン君が泣いてる……」
「はぁ!? さっきまでやる気満々だっただろ!」
ロンは静かに泣くアレンの頭を撫で、クロワールはくるくるとその頭上を舞い、ダルクはアレンと目線を合わせて肩に手を置く。
「アレン、わかるな? こうして俺たちは動物から命をもらってるんだ」
その言葉にアレンは何度もうなずいた。
「ごめんなさい……、頭でわかってるつもりだったのに、目の前で見たら怖くなっちゃって……」
しばらくしてアレンが泣き止んだ頃、傍を猟師が通りかかる。
「こんにちは。ナイフで仕留めるなんて珍しいね」
「そうか?」
「こんにちは。そうだ、僕たちはイノシシの解体ができないんだけど、業者に頼むならどこに持っていけばいいかな?」
「それならこの道を右に曲がって……」
トレインのスムーズな会話の運びで、イノシシを解体してもらった一同。しかし。
業者の建物からロンとダルクが肉を持って出てきたが、その顔は暗かった。
「どうしたんだい、二人とも? 表情が暗いね」
「……高かった」
「え」
「結論から言うと、肉を市場で買った方が安い!」
「はぁ!? おかしいだろ、おい!」
……ということで、この案も没になった。
*
「魚釣りだー!!」
「釣るぞー!!」
テンションを持ち直したダルクとアレンはまた叫ぶ。
一同は次にバルト海へ赴いた。アレンとロンは初めて見た海に目をキラキラとさせている。
「うん、やはり海は良いものだね」
「潮臭ぇ」
「これも醍醐味だぞ、スヴァン。潮風が気持ちいいじゃないか」
そうして堤防に座ったのだが。
「ん、なんだこれ。……きゃああああああああああ!!!!!」
再びスヴァンの絶叫。ダルクが鞄からとりだした透明な容器の中には大量の虫がいた。
「スヴァン、しょうがないだろ。これは魚の餌なんだから」
そう言って難なく虫を釣り針に取り付けるダルク。さすがにあまりやりたくなさそうなトレインとロンの分はアレンが取り付けてあげていた。
「スヴァンさんのも付けましょうか?」
アレンが気を遣ってスヴァンに声をかけるが、
「無理だ……俺には近づけないでくれ。持ってる竿の先にあの虫がいると思っただけで震える……」
と、全力で拒否した。
「せーのっ」
ダルクの掛け声に合わせてスヴァン以外の皆が釣り針を海へ投げる。願うは魚が釣れますように、と。
しかし。
「釣れないねぇ……」
数時間経っても一人も釣れていなかった。一人か二人はヒットしたものの普段から魚釣りをしてるわけではないため、手間取っているうちに逃げられたのである。
辺りはすでに夕暮れで、一同は諦めることしたのだった。何もしてないくせにシェフは叫ぶ。
「俺の叫びを返せぇぇぇぇ!!!!」
***
その日の夜。
げっそりした一同はハミエルとシューレに迎え入れられ、Noir L'aubeのホールで再び会議。
「駄目だ……。クロワールぅ……なんかいい方法ねぇか?」
鳥の手も借りたいスヴァンがそう聞くと、クロワールは少し考えた後。
「チョット待ってろ」
と言って開いてる窓から飛び立っていった。
ハミエルはその様子を見て。
「おやおや。外も暗いから心配だな。ちょっとクロワールがどこに行くのか、外を見てくるよ」
と言って、席を外した。
*
数十分後、外に立っていたハミエルは窓から中にいる皆に声をかけた。
「クロワールが戻ってきたよ」
そうして戻ってきたクロワールのくちばしには高価そうな宝石がついたネックレスがひっさげられている。
「おや? クロワール、これは……」
ハミエルが不思議そうに首を傾げ、スヴァンは食い気味で反応した。
「おまっ……どこで盗んできたんだよ、最高じゃねーか!! 売れば金になるぜ!」
「いや、ダメだろ。クロワール、持ち主に返してやれ」
ダルクの言葉にクロワールはバサバサと翼を動かしながら何度も飛び上がる。
「ちがう! ちがう! くれた! くれた!」
「くれたって言うのかい? どこかに気前の良いご婦人でもいるのかな」
ハミエルは「ふむ……」と少し考え、
「この子は嘘をつかないからなぁ」
と言うと、傍らのロンもうなずいた。
「そうなのかい? じゃあここは甘えさせてもらおうじゃないか!」
「それもそうか。ではこのネックレスを売って資金の足しにしよう」
***
クロワールが起こした奇跡はまだ終わらなかった。
それは二日後のこと。今度はクロワールが高そうな指輪を持って帰ってきたのだ。
「これも、クレタ!」
「クロワール、いったい誰が僕らにこんな資金援助をしてくれてるんだい?」
トレインの問いかけにクロワールは首を横に振る。
「言えない! 秘密にしてって、言われてる!」
ダルクは「ふむ……」と考えて。
「そのご婦人、俺らがもらった物を売りに出してることは知ってるのか?」
「知ってる! クロワール、教えた! それでもくれた!」
「いいじゃねーか。お言葉に甘えようぜ。……俺らのファンかもしれねーし」
*
また二日後。今度はブレスレットを持って帰ってきた。
そしてさらに二日後、今度はイヤリングを持って帰ってきた。
「信じられないよ、このご婦人の物のおかげで約五百万ビターくらいもらえたんじゃないかな!」
「でも、ちょっと不安だねー」
シューレの言葉に一同は不思議そうな顔をすると。
「だって、こんな高価なものを次々とくれるんだよー? 今まで集めていた高価なものを人にタダであげるなんて……そのご婦人悪いこと考えてないといいんだけどー」
つまり、命の危険である。一同は各々シューレの言わんとしてることがわかり、青ざめる。
しかしクロワールは慌てて否定した。
「ちがう! ちがう! あの人はそんなこと、シナイ!」
「それならいいんだけどー」
「ロン君、これでしばらくお金は大丈夫なの?」
アレンの問いかけにロンはうなずき、クロワールに耳打ちする。
「うん。これで、半年はやっていけそう!」
スヴァンは腕組みをしながら宙を見る。
「しっかし誰なんだろうな。名乗り出てくれてもいいと思うんだけどよー」
「そうだな」
ダルクはそう言いつつ、これがロゼさんだったらいいのにな、と密かに思っていたのだった。