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8話

 私がジェフ様と婚約して、3ヶ月が過ぎた。


 姉のスカーレットも妊娠8ヶ月目に入ったらしい。前から大きいお腹だったが。より、大きくなったように思う。それを本人に言ったら、カラカラ笑いながら言い返された。


「それはそうでしょ、何せ双子らしいから」


「え、そうなんですか?!」


「性別はわからないけどね、けど。なんとなく、男の子のように思うの」


 姉はそう言ってお腹を撫でる。その仕草は母としての慈愛がにじみ出ていてドキリとさせられた。姉でもこんな表情をするのだと気付かされたというか。


「……2人も男の子が生まれたら、侯爵家も安泰ね」


「それはそうね、けど。育てるのが大変よ」


「確かにね、姉上なら大丈夫だと思いますけど」


「ふふっ、励ましてくれてるの?」


「はい、それなりには」


 頷くと、姉はくすぐったそうに笑う。私に近寄ると頭を軽く撫でてきた。


「今日もイリノア様は来るようね、あなたも早めに授かりそうだわ」


「あ、姉上?!」


「冗談よ、まあ。イリノア様をちょっとは信用してはいるの。あなたの事を大事にしてくれているしね」


 姉はにんまりと笑った。からかう時の笑い方だ。私は恥ずかしくなりながらもしばらく、されるがままになっていた。


 季節は真夏の真っ盛りになっている。アエラが気を利かせて、アイスティーとお菓子を持って来てくれた。


「お嬢様、お菓子を持って来ましたよ」


「あら、珍しいわね。中には桃が入っているの?」


「はい、異国ではカンテンというらしいです。いわゆるカンテンのゼリーですね」


「へえ、涼しげでいいわ」


「私も思います、早めに召し上がってくださいね」


 私は頷くとスプーンを手に取る。カンテンのゼリーを一口掬うとふるりと揺れた。口に運ぶと独特の少し固めだがぷるぷるした食感と桃の甘酸っぱい果汁が溢れ出す。ひんやりともしていて、なかなかに美味しい。アイスティーも甘さ控えめでよく合う。気がついたら、ゼリーを食べきっていた。


「ごちそうさま、美味しかったわ」


「ようございました、アイスティーのお代わりはいかがですか?」


「いただくわ」


 私が言うとアエラは、アイスティーをカップに注いでくれた。ポットの中にはいくつか氷が入っている。ひんやりとしたアイスティーはルイボスティーのようだ。しばらくはアエラと話をしながら、涼んだ。


 夜になり、私は湯浴みを済ませる。後はベッドに入って寝るだけだった。ふと、窓際に寄り、カーテンを開けた。空にはぽっかりと満月が輝いている。それをなんとはなしに眺めた。

 白銀の光の下、私はジェフ様を思い浮かべる。けど、すぐに脳裏にはあの時の光景が蘇った。

 キーラン殿下に婚約解消を迫られた時のだ。キーラン殿下は私を昔から嫌っていた。頭の中では、いつ婚約を白紙にできるかと考えていたのだろう。まあ、おかげで私は晴れて独身に戻れたが。もし、あのまま結婚していたら。白く冷めた生活が待っていた事だろう。

 そして、行き着く先は白い結婚の上での離縁になったはずだ。キーラン殿下がバカで助かったわ。ほうとため息をまた、ついた。


 翌朝、身支度を済ませたら。イリアが慌てて、自室にやってきた。


「あ、あの。お嬢様、大変です!」


「どうしたの、イリア?」


「実はイリノア様がいらっしゃって」


 イリノアと聞いて、ジェフ様だとすぐにわかる。けど、こんなに朝早くからどうしたのだろう。私が疑問に思っていると、イリアはこう言った。


「お嬢様、イリノア様はエントランスにて待っておられます。来てください!」


「わ、わかったわ。今から一緒に行きましょう」


「はい、こちらです!」


 イリアは頷いてエントランスホールまで連れて行ってくれた。


 エントランスホールに着くと確かにジェフ様が待っていた。


「ああ、おはよう。ナタリア」


「はい、おはようございます。ジェフ様」


「こんな早朝から悪い、ちょっと用事が出来てね」


「用事ですか?」


「ああ、うちの両親がナタリアに挨拶に来てほしいと言っていてね。迎えに来た」


 いきなりの事に私は驚きを隠せない。辺境伯ご夫妻が私に来てほしいって。どういう事なの?


「……本当に悪いとは思っているんだ、ちゃんと手紙で知らせた方が良かったんだが」


「はあ、まあ。身支度はできているからいいのですけど」


「そうか、なら。馬車で今日は来ているから。一緒に行こう」


「わかりました」


「すまない、両親は非常に多忙でね。今日辺りにどうにか時間ができたとかで。だから、こんな事態になってしまったんだ」


 私は「はあ」と言うしかなかった。辺境伯ご夫妻はかなり多忙らしい。まあ、詳しい事は後ね。再び、頷いてジェフ様と外に向かった。


 馬車に乗り込み、邸から出立した。ジェフ様は苦笑いしながら、「すまないな」とまた言ってくる。私は首を横に振った。


「あまり、気にしていませんので。お構いなく」


「まあ、君はそう言うだろうなとは思っていた。うちの両親もなかなかにせっかちでね。君が俺の婚約者になったから、前々から連れてこいとせっつかれてはいたんだが」


 私はやっと、ジェフ様が急ぎで迎えに来た理由がわかった。ご夫妻は以前から、私に会いたいと言っていたのか。すとんと腑に落ちたのだった。

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