7話
2ヶ月ぶりくらいの更新になります。
お待たせしました。
私はツェルニー領の本邸に帰ってきた。
ジェフ様は、ベレトの背から私を降ろしてくれる。意外と高くて鐙に足を掛ける時は苦労した。見兼ねてジェフ様が半ば、抱える状態で地面に降ろす。
「……大丈夫か?」
「すみません」
謝ると、苦笑いでジェフ様は私の頭を撫でた。
「仕方ないよ、今後慣れていけばいい」
「……はい」
「じゃあ、俺はベレトを厩舎に繋いでくるから。母君達に挨拶もしておきたいしね」
私は頷くと一足先に邸に入る。エントランスホールには家令や母が待ち構えていた。
「おかえりなさい、ナタリア」
「只今、帰りました。母上」
「ジェファーソンさんとのデートはどうだったの?」
「えっ?!」
「……あらあら、鈍いわね。殿方と二人きりでお出かけしたんだから。普通はそう言うでしょう?」
母はにっこりと笑いながら、そう宣った。私はいきなりのことに返答できない。家令が見かねて言った。
「奥様、お嬢様が困っておられますよ」
「あら、ダナンたら。私は冗談のつもりで言っただけよ」
「それでもです、お嬢様はあまりこういったことには不慣れでいらっしゃいますから」
家令もといダナンはそう言って苦笑いをする。よく見ているなと思う。
「……仕方ないわね、リア。疲れているでしょうから。部屋へ行きなさいな」
「わかりました、失礼します。母上」
私は軽くお辞儀をして、自室に行った。
乗馬服を脱いだら、軽く湯浴みをした。アエラ、イリア、エリスは一所懸命に髪や体を洗ってくれる。そこまでしなくてもと思うくらいにはだが。
湯浴みが終わり、髪を乾かしながら夜着に袖を通す。淡い水色のネグリジェだ。けど、今はまだ夕方に近い時刻よ?
不思議に思いながら、アエラに問いかけた。
「アエラ、何でネグリジェなの?」
「お嬢様は疲れているでしょう、だからです」
「……あんまり、疲れてはいないのだけど」
そう言ってはみた。けど、問答無用で寝室に連れて行かれる。
「……お嬢様、今日はもう休んでください。スカーレット様が心配しておられましたから」
「姉上が?」
「はい、イリノア様が無理に連れ回しただろうからとの事でして」
私は姉に凄く心配をかけていることにようやく気がついた。まだ、妊娠中なのに。お腹の子供に差し障りがあったら、どうしたらいいのか。そう、気にしていたが。アエラは苦笑いする。
「お嬢様、私達も心配していました。スカーレット様はああ見えて過保護な所がありますし」
「アエラ」
「姉君として、ナタリア様の婚約を上手く進めたいと思っておられるようです。けど、イリノア様がまだ信用できないともおっしゃっていました」
私は姉がそう思っているらしいことを聞いて、驚いた。まさか、ジェフ様をまだ信用できないとは。仕方ないかとも思う。まだ、彼と知り合ってから2ヶ月と経っていないし。アエラは一礼するとそのまま、部屋を出ていった。私はなんとはなしにため息をついた。
朝になるまで、私は寝室にいた。しょうがないからベッドに入り、瞼を閉じたが。なかなかに眠れそうにない。目が冴えてしまっている。
ふうとまた、息をついた。ゴロンと仰向けになって瞼を開ける。天井を睨みつけた。ジェフ様とたくさんお話をした。ベレトに関する秘密も聞いたし。湖に関する伝説も聞かせてもらい、盛りだくさんな1日だった。
まあ、母からからかわれはしたが。まさか、デートとはっきり言われるとはね。確かにその通りではあるのだが。周りが過保護過ぎるきらいはある。けど、私は一度は婚約解消をした身だ。
そのせいではあるのだと今更ながらに思い至る。両親も兄達や姉も気を揉んでいるのだろう。
理由がわかると何だか、モヤモヤしていた物がスッキリしたように思えた。再び、瞼を閉じた。
明け方近くに目が覚める。ちょっと、まだ早いかしら。そう思いながらも上半身を起こす。伸びをしてから欠伸をする。ふうと息をつく。ベッドから試しに降りてみた。朝方特有のヒヤリとした空気が足元から這い上がってくる。ちょっと、ふるりと震えたが。まあ、今は夏に近いから知れたものだ。
私はそのまま、窓辺に近寄る。カーテンを開けて窓を開け放つ。丁度良く、朝日が昇る瞬間を見られた。オレンジから藍色に変わりゆく空は息を飲む程に美しい。雲が棚引いていて、清々しさを感じさせた。
良い物を見られたわ。そう思いながら、しばらくは爽やかな空気を堪能したのだった。
1時間もしない内に、アエラ達がやってきた。身支度を済ませて朝食をとりに食堂に向かう。途中で姉と会った。
「あら、おはよう。リア」
「おはようございます、姉上」
姉が大きなお腹を撫でながら、挨拶をしてくる。返答をすると姉はにっこりと笑った。
「……昨日は楽しかった?」
「え、ええ。まあ」
「けど、イリノア様はちょっと強引過ぎるわ。女性の身支度には時間が掛かるのよと昨日に釘は刺しておいたけど」
そう言って姉は渋い顔をした。
「くれぐれも気をつけなさいね、リア。私はあなたがまた騙されないか心配だわ」
「姉上……」
「さ、こんな所で立ち話もなんだから。行きましょう」
私は渋々頷いた。姉もそれ以上は話さず、食堂に向かった。2人でちょっと気まずい雰囲気の中、歩き出したのだった。