表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

2話

 翌朝から私はツェルニー領に戻るために荷造りを始めた。


 アエラやエリス、イリアに私の4人で着替えやら日用品などをスーツケースやボストンバックに詰めていく。とりあえずは4日後に出立予定だが。父上が本邸に私が帰ると手紙で知らせてくれたようだ。助かったとは思う。まあ、父上からすると王太子殿下から婚約解消をされた私を厄介払いしたいのもあるかもしれない。でもあんな野郎と結婚するよりはマシだろうな。本邸なら王都邸よりはのびのびと過ごせるのは確かだ。しばらくは色恋や結婚からも遠ざかりたいのが本音だし。兄上達や姉上、母上と久しぶりにゆっくりと話せる。そう思いながらクローゼットに向かうのだった。


 翌日も荷造りに精を出す。父上や母上が贈ってくれたドレスや自分で購入したものやらをバッグに詰めていく。まあ、キーラン王太子殿下からの贈り物は全て王都邸に置いていくつもりだ。ちなみに私が婚約者に選ばれたのは今から6年前になる。当時でまだ10歳だった。現在、16歳になったが。ちなみにキーラン殿下は私よりも3歳上で19歳だったか。新しい婚約者であるサリビ子爵家のニーナ嬢は18歳であったはず。つまりは殿下もニーナ嬢も私よりは年上だ。

 なのに、何故か2人からは馬鹿にされている。私の方が年下だからか。そんな、詮無い事を考えながらも手は止めない。一心にバッグに詰め込むのを続けたのだった。


 4日はあっという間に過ぎる。荷造りも終わり、朝早くから身支度をしていた。アエラが髪をブラシで梳いてくれる。前もって、香油を塗り込んではいるが。私の髪質は若干柔らかいので香油を使わないと、纏めにくいのだ。すぐ、ふわふわとしてしまう。アエラは髪を梳き終わると、私の瞳の色に合わせて藍色のリボンを鏡台の引き出しから取り出す。サイドを緩く編み込んでから、リボンで纏めた。いわゆるハーフアップだ。


「お嬢様、もう領地に行く日になりましたね」


「そうね」


「キーラン殿下はご存知なんでしょうかね」


「知らないと思うわ」


「でしょうね、詮無い事を訊きました」


 アエラはそう言って、私を立たせる。服を着替えるためだ。今、着ているのは夜着のネグリジェだし。エリスが素早く旅装のワンピースを持って来てくれる。ネグリジェを脱いで、ワンピースに袖を通す。色は淡い水色でタートルネックに長袖のシンプルなデザインだ。丈は足首まであり、意外と動きやすく仕立てられている。着替えが終わり、寝室を出た。ちなみに付いて来てくれるアエラやエリス、イリアも旅装の出で立ちだ。


「では、行きましょう。皆」


「はい、どこまでも付いて行きます!お嬢様」


 私は頷くと、自室を出る。アエラ達も付いて来てくれた。ツェルニー領には母上や兄上達がいる。また、会えるのだと思うと気持ちは自然と上向きになった。足取りも軽くなったような気がしたのだった。


 エントランスホールを出て門前に向かう。父上や家令、メイド長が見送りをしてくれていた。3人にはそれぞれに別れを告げる。父上は涙ぐみながらも肩に手を置く。


「……リア、達者でな」


「はい、父上もお元気で」


 肩から手を離すと父上はハンケチーフを胸ポケットから取り出す。目元に軽く当てながら、悲しげにしている。次は家令だ。幼い頃は爺やと呼び、後を追いかけたものだった。懐かしく思いながら、家令に向き合う。


「お嬢様、旦那様と同じくお達者で。ツェルニー領は王都より暑いですから。夏バテには気をつけてください」


「わかったわ」


「また、王都からお嬢様の好きなお菓子や茶葉を送りますので」


「ありがとう、楽しみにしているわ」


「はい」


 家令はそう言って、穏やかに笑いかけてくれた。目じりのしわが昔よりちょっと増えたかな。けど、こういう細やかな気配りができる所は変わっていない。私は泣きそうになるのをぐっと我慢した。隣にいるメイド長に近寄る。


「お嬢様、ツェルニー領に行ってもお元気で。家令のダンさんと同じく、お嬢様に似合うドレスなどを送りますね」


「ええ、楽しみにしているわ」


「……本当に、お嬢様がこんなに大きくなられるとは。時間が経つのは早いものです」


 メイド長はそう言いながらにっこりと笑う。私は感極まって、メイド長に抱きついていた。


「お、お嬢様?!」


「リタ、本当に元気でね!」


「ええ、お嬢様」


 メイド長もとい、リタは抱きしめ返してくれた。2人してしばらくはそうしていたのだった。


 馬車に乗り、王都を出立した。私はエリスやイリア、アエラと4人で1輌の馬車に乗っている。


「アエラ、ツェルニーに戻ったら姉上もいるかしら」


「確か、ダンさんから聞いた話だと。姉君も帰っていらっしゃるそうですよ」


「成程、なら。久しぶりに会えるわね」


 私は嬉しくなってつい、ふふと笑ってしまう。姉上は明るいし朗らかな人だ。きっと、甥っ子や姪っ子も一緒なんだろうな。そう思ったらさらに楽しみになったのだった。


 3日が過ぎ、ツェルニー領まで後少しになった。今日はまずまずの宿屋に泊まる事になっているが。大丈夫だろうかと心配だ。ちなみに部屋割りは私とアエラが2人部屋、イリアとエリスも同様に護衛の騎士の3人も1人部屋と2人部屋にそれぞれ寝泊まりする。御者は1人部屋だ。早速、馬を宿屋の厩舎に預けて中に入った。騎士の内の1人が部屋の鍵をもらいに行く。ほうと息をついたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ