14話
私はジェフと2人で王都へ行く事になった。
両親やジェフの父君や母君も、賛成してくれた。実は後でイリノア辺境伯邸にも手紙を出して、知らせておいたのだ。そうしたら、半日もしない内に返事が届いた。
<ナタリアさんへ
手紙は読んだ。
うちの息子となら、ちょっとは心強いだろう。
君を振ったという王太子殿下にもしっかりと見せつけて差し上げなさい。
息子は、武芸の心得もあるから。
いざという時には頼りになるはずだし。
それでは健闘を祈る。
ステファン・イリノア>
お義父様の直筆らしい。私は笑ってしまいそうになるのを堪えた。お義父様らしいというか。
私は自室にて、内容を確認していたが。お義父様からの手紙は私用の書斎にある机の抽斗に入れたのだった。
その後、母と2人でツェルニー領にあるブティックに行き、ドレスを何着か注文した。宝飾品や靴なども買いに行った。ジェフからもドレスなどを贈られた。助かったが、ちょっと気恥ずかしくもある。元婚約者はここまでの気遣いもなかったのもあった。
私もお礼として、手紙とジェフの名前のスペルを刺繍したハンケチーフを贈ったが。結構、喜んでくれたと家令が教えてくれた。そんなこんなで王都へ行く日は迫っていた。
当日の朝、私はいつもよりも2時間も早くに起こされる。アエラやイリア、エリスがテキパキと動く。まず、旅装用のワンピースなどを用意した。次に、私は歯磨きなどを済ませる。そうして、髪をアエラが丁寧に梳いたら、一本の三編みにしてくれた。グルグルと巻いて幾つかのヘアピンで留める。アシアナネットで纏めたら、シニヨンの出来上がりだ。
薄くお化粧もして、最後にワンピースに袖を通す。ちなみに、薄い水色で長袖に足首丈のものになる。編み上げのブーツを履き、つばが広い帽子も被った。
「ナタリア様、身支度はできましたし。イリノア様がもう少しでいらっしゃいますよ」
「こんな朝早くに?」
「はい、朝の6の刻には迎えに行くとか」
アエラに言われて驚きを隠せない。まさか、そんな早くに来るとは。私はしばらくは茫然としていた。
軽く朝食も済ませたら、ジェフが言葉通りに迎えに来た。私は急いでエントランスホールに行き、挨拶をする。
「おはよう、ジェフ」
「おはよう、ナータ。早速で悪いが。そろそろ、行こう」
「分かった、荷物を持って行くから」
ジェフが頷いてくれた。私はアエラ達と一緒に、自室へ戻る。小走りでボストンバッグやキャリーケースを持って来た。
「よし、護衛の者や御者もいるから。運ぶよ」
「急いでいるのに、ごめんなさい」
「いや、謝罪は良いよ。女性には色々と必要な物があるからな」
ジェフは笑いながら、言った。エントランスホールにジェフ付きの護衛の騎士や御者が入って来る。私の荷物を馬車に運び入れてくれた。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
頷いたら、ジェフと共に外へ出る。アエラ達には手を振っておいた。見送りはいいからと昨日に言ってある。馬車に乗り込み、出立したのだった。
ツェルニー領から王都までは片道で4日は掛かる。今回はジェフも一緒だ。なので、喋り相手がいるという事で。私はポツポツと窓から見える景色を眺めながら、会話を楽しんだ。
「久しぶりになるわ、王都に行くのはね」
「それはそうだろうな」
「ジェフが一緒だと、周りの風景も違って見えるわ」
私が不意に言ったら、ジェフは目を見開いた。じわじわと彼の顔が赤くなる。私、余計な事を言ったかしら?
「……あの、ジェフ。顔が赤いわ」
「な、何でもない。ちょっと、俺は寝るぞ」
「分かった、お休みなさい」
ジェフは顔を赤らめたままで瞼を閉じる。熱でもあるのかしら、そう思いながらもまた、窓に視線を移した。
4日が経ち、ジェフと一緒に王都に入る。馬車はそのまま、進んで私は王都にあるタウンハウスに行く。と思いきや、ジェフが驚きの一言を放った。
「ナータ、このままでイリノア辺境伯家のタウンハウスに行くぞ」
「えっ、本当に行くの?!」
「ああ、実は君のご両親に頼まれてな。ナータを1人ではいさせられないとの事だった」
私はそれならと頷いた。ジェフが御者に指示を出し、イリノア辺境伯家のタウンハウスへと向かった。
本当に辺境伯家のタウンハウスに到着した。我が侯爵家よりもかえって、立派で広いのではないかと思う。木造の2階建てだが、なかなかに庭園も広い。門から、エントランス前に入って馬車を停める。
そこには家令らしき初老の男性とメイド長らしき女性が待ち構えていた。
先にジェフが降り、後に私がエスコートされながら降りる。
「ようこそ、いらっしゃいました。ジェファーソン様、ヒルデガルト侯爵令嬢様」
「……私の事は聞いているようですね」
「はい、旦那様から手紙が届きまして。若様と一緒にお越しになると」
「ああ、改めて言うが。こちらが俺の婚約者のナタリア・ヒルデガルト侯爵令嬢だ」
「初めまして、私はこちらの家令をしております。名をゼンと申します」
「私はメイド長をしておりまして、名をゾラと申します」
「ゼン、ゾラメイド長。これからよろしくね」
2人は深々と礼をして「よろしくお願いします」と言ってくれた。こうして、私は辺境伯家のタウンハウスに滞在する事になったのだった。




