12話
久しぶりの投稿になります。
私はこの日の昼間には、実家のツェルニー侯爵領に帰る事にした。
馬車に乗り、ジェフ様と2人で向かう。ここで世話になったキャロルやクリスとはお別れだ。2人は笑顔で送り出してくれる。私も笑顔で手を振りながら、別れを述べた。こうして実家に向けて出立した。
ジェフ様と2人で向かい合わせに座りながら、私は喋る。
「……ナタリア、君の事はナータと呼んでいいか?」
「構いませんけど」
「後、俺に対しては敬語はいらない。様付けもな」
ジェフ様の言葉に面食らう。まさか、年上の方からそう言われるとは思わなかったからだ。
「意外かな?」
「はい、まさか。敬語はいらないと言われるとは思わなかったわ」
「いや、君とはもっと打ち解けたいとは思っていたからな」
ジェフ様もとい、ジェフは照れながら言った。年上ではあるのだが、可愛いと思ってしまう。いつの間にやら、笑ってしまっていた。
「……ナータ、ニヤニヤ笑いはやめてくれ」
「あら、つい。ごめん遊ばせ」
「まあいい、後で覚えてろよ」
ホホと上品に笑いながら、誤魔化した。ジェフはそっぽを向いてしまう。けど、耳は真っ赤だ。余計に笑ってしまうのだった。
その後、ツェルニー侯爵領にある本邸に私は帰ってきた。母や兄、姉達が出迎える。家令やメイド長もだ。
「お帰りなさい、ナタリア。ジェファーソン様、ありがとうございます」
「いえ、婚約者としては当たり前の事をしただけですよ」
「それでも、娘の事が心配でしたので。ナタリア、良い方を見つけたわね」
母は涙ぐみながら言った。私は照れくさいやら、恥ずかしいやらで曖昧に笑う。
「ジェファーソン様、またいらしてくださいね」
「はい、それでは。俺はこれで失礼します」
「ええ」
母が頷くとジェフは私に手を振る。同じようにすると、彼は近づいてきた。顔がすぐ近くにまで来て、左側の頬に暖かく柔らかな何かが触れる。すぐに離れていったが。
「あらあら!」
「……なっ、リア?!」
母や兄が素っ頓狂な声をあげる。姉もあ然とした表情でこちらを見ていた。
「ではな、ナータ」
「ええ、ジェフ」
私は動揺を押し隠して、頷いた。ジェフは機嫌良く笑いながら、踵を返す。馬車に乗った。そのまま、行ってしまう。しばらくは黙って見送ったのだった。
馬車が見えなくなった頃に兄が駆け寄ってくる。珍しく、慌てていた。
「ナ、ナタリア!!」
「兄上、大きな声で言わなくても分かっています」
「いや、それはそうだが。さっきのあれは何なんだ?!」
「……確かにそうですね、私も思いました」
「しかも、ナータって。お前、愛称呼びまで許したのか?」
私はため息をつきながらも頷いた。兄は目を開き、固まる。
「そ、そうか。ジェファーソン君がお前にキスまでしているから、ちょっと。驚いてしまった」
「え、やっぱり。あれはキスだったんですか」
「わからなかったのか……」
兄はついに、脱力して片手で顔を覆ってしまった。私が気づかなかった事に呆れているらしい。
「あらあら、やるわね。ジェファーソン様も」
「本当に、ね。リア!」
ニヨニヨしながら母が言ったら、姉も同じように笑う。兄は黄昏れているし。私は返答に困るのだった。
夕方になり、私は自室にて食事を摂る。今日は母が手ずから作った野菜たっぷりのトマトスープに黒パンを薄く切ったもの、プレーンオムレツだ。侯爵夫人ながらも料理や刺繍が趣味だと本人も言っていた。
「うん、やっぱり。母上の料理は美味しいわ」
「そうですね、ナタリア様」
アエラが頷いた。イリアやエリスも嬉しそうだ。
「それにしても、お嬢様がいきなりイリノア様と一緒に行かれた時は驚きました」
「それはそうよね」
「私、イリノア様があんなに強引だとは思いませんでした。まあ、悪い方ではないんですけど」
「うーん、私も思ったわ」
「……お嬢様、イリノア様を呼び捨てになさって。かなり、距離を縮めましたね」
アエラに言われて、私は顔が熱くなるのがわかった。特に両頬に熱が集まる。たぶん、真っ赤になっているだろう。
「あら、満更でもなさそうですね」
「ちょっ、アエラ!」
「ふふっ、冗談ですよ」
アエラはニヨニヨと笑う。あ、昼間の母や姉と似たような表情だわ。そう思いながらも食事に集中した。
食事を済ませたら、読書をする。湯浴みはしばらく後にすると言ったら、アエラ達は続き部屋に退出していった。1人で黙々と小説を読み進める。
今、読んでいるのは冒険小説だ。実は兄が貸してくれたのだが。珍しい事もあるな。心中で呟きながらもページを捲る。
この小説の主人公はかつて実在した勇者らしい。彼の伝承を元に描かれていた。なかなかに活劇と言った感じで読みやすい。主人公は若い男性だが、明るいながらも苦労性だ。ちょっと、兄に似ている。
ジェフにも読んでもらいたいな。ふと、そう思いながらもまたページを捲った。




