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転生は運命です。

作者: 茉莉花

物書き初心者が制作しています。


暖かい目で読んでくだされば幸いです。


真の結末を知りたい方は、最後までお読みください。

(日本のとある家、そこに私は住んでいた。結婚して優しい夫がいたけれど、もう手遅れの癌が見つかって、闘病することになった。そして、その人生を終えた。…優しいあの人を残して。あの人は悲しんでるだろう…)




(はっ!!)


目覚めると、視界に入るのは、きらびやかなチェストに、大きすぎるベッド、天井も高ければ、扉も大きい。どう見ても日本家屋ではない。そして、高そうな生地の寝間着を着ている。


(何これ?どういうこと?)


ベッドから降りて鏡の前に立つと、そこには麗しい令嬢の姿が映っていた。


(あ、そうだわ!!私はアリス·ジャルダンだわ)


金色に輝く髪、トパーズの如く輝く金色の瞳、透けるような白い肌、すらっと伸びた手足に、バランスのとれた曲線が美しい身体づき。それは、アリス·ジャルダンのものであった。


「あ、涙が…」


鏡に映る顔には、涙が流れていた。


(ずいぶんと鮮明な夢だったわ。優しい夫との穏やかで温かい日々。とても素敵だった。そして、苦しい病。あの、"花園ゆり"として過ごした時間が、一生が、しっかりと胸に刻まれている…。一生が!?)


そう。夢で見た彼女の、生い立ちから学んだこと、記憶したものまで全て覚えている。


(どういうこと?もうひとつの人生の記憶があるわ)


2つの人生で得た知識を総動員してある答えを出した。


(これって、いわゆる、転生ってことなのかしら?)


ゆりの闘病中に、小説や漫画で読んだことのある異世界ファンタジー。現実とは異なる想像の世界観がとても自分には合っていて、この1ヶ月くらい読んではドキドキを楽しんでいたのだ。


(アリスの人生は、まるで異世界ファンタジーに登場する一人のものだものね)


そして、アリスも、異世界の記憶を持つ聖女と呼ばれるものがいたという言い伝えを聞いたことがある。


(やはり、転生で間違いなさそうね。"アリス·ジャルダン"か)


そっかぁ、と、現実を受け入れていると、扉から一人の女性がノックをして入ってきた。


「失礼いたします。おはようございます。アリス様」


侍女が中に入ってきた。そして、窓辺に行くと、カーテンを開けた。


「…おはよう、アン」


アリスは眩しくて目を細めた。


「今日は良いお天気ですよ!パーティー日和ですね。アリス様、卒業おめでとうございます」


「ありがとう」


この日は王立学院の卒業式と、卒業記念パーティーが予定されていた。


「とびっきり美しくしましょう!私、今日は張り切っているのですよ」


この侍女アンは、明るく社交的で、アリスの性格とは相対する。そこが2人の相性の良さでもある。


支度を終え、居間に行くと、父と母と兄が待っていた。


「まあ、とても美しいわよ!アリス!!」


母エリザベットは歓喜の声をあげた。


「うむ、見事だアリス。父としては鼻が高いなぁ」


父アルベールも満足げだ。


「ああ、アリス、なんて美しいんだ。このまま閉じ込めておきたいよ。他の男に見せたくなどないな」


兄クラージュはいつも溺愛がすぎる。


「ありがとうございます。アンに美しくしてもらいました。さすがでございますわ」


それが聞こえたのか、アンはとても嬉しそうにしている。


「さて、そろそろ出発するとしようか」


クラージュがアリスの手をとる。

そう、今日の卒業記念パーティーのアリスのエスコートはクラージュが行う。婚約者である王太子ファビアンからは、エスコートの約束も、ドレスなどの贈り物もない。


(愛がないから当然なのかもしれないけれど、婚約者へのこの扱い、おかしいですわ。まぁ、お兄様にエスコートしてもらえるからいいけれど)


ファビアンからは何もないと聞いていたクラージュには、ドレスも宝飾品も用意してもらい、エスコートまでしてもらえることになった。


(まあ、今までの夜会でも、お兄様にしてもらってましたけど)


ん?とアリスはある可能性に気づいた。


(卒業記念パーティー?ということは、あのイベントが発生する可能性が高いのでは!?)


うーん、まさかねぇ、とアリスは一旦考えを否定した。そう、認めてしまうと、自分は悪役令嬢であると認めてしまうことになる。



学院のホールに到着すると、二人は会場内のため息に包まれた。


『なんて美しいのかしら』


『あれは、クラージュ·ジャルダン様でいらっしゃるわ』


『今日もアリス様はほんとうに美しいわねぇ』


クラージュもまた、とても美しかった。背が高く、プラチナブロンドの髪が流れ、サファイアの如く青い瞳は、整った顔に輝きを放つ。


(お兄様、とても素敵ですもの。優しくもありますし。なぜ、婚約者がいらっしゃらないのか不思議だわ)


この日は卒業記念パーティーであるため、教師と学生以外はあまり見られなかった。エスコートしてくれた家族らは退席しているのだろう。


「アリス、私は席を外したほうが良いだろう。あちらに我が恩師が見えるから、挨拶をしてくる」


「かしこまりました。ここまでありがとうございます、お兄様」


クラージュが去っていった後だった。最後にホールに現れた王太子ファビアンと、その彼にエスコートされた令嬢が、アリスに向かって歩いてきた。


ファビアンはブロンドにサファイアのように青い瞳、顔立ちは整っており、令嬢の憧れの的である。


(ファビアン殿下もカッコいい……んです

けど、私はお兄様の方が好みですわ)


そして、アリスの前に立つ。







!!!!!!!!!







と、その時!アリスは、稲妻が駆け抜けたような衝撃を受けた。


(こ、これは!私が転生前最後に読んでいた小説『王子様はいただきます!~悪役令嬢はあなたですわよ~』のストーリーだわ!!)




この異世界は、アリスが転生前最後に読んでいた小説だった。主人公の"私"は、王子様に恋をする。どうしてもこの恋を手に入れたくて、あの手この手で近づいていき、やがて、婚約者がいる王子様の愛を得ることになるというストーリーであった。しかし、これは前半部分。前編のタイトルは『Story:B』。なぜ始まりが"B"なのだろうと不思議ではあったが、後編の始まりでちょっとした衝撃を受けるのだ。


前編の終わりの一文『王太子ファビアンは私をエスコートし、彼の婚約者の目の前に立つと、声高々に宣言したのであった』


(たしか、こんな感じだったわよね。そして、なぜ"B"なのか、後編の最初の台詞から始まる一文で理解するのよ)


アリスが思い返していると、小説の通りにファビアンは声高々に宣言した。


『「アリス·ジャルダン、私は貴様と婚約破棄し、真実の愛であるこのベアトリス·クレール男爵令嬢と婚約する。そして、この真実の愛ベアトリスに対する今までの貴様の仕打ちは許されざるものとし、貴様をこの国から追放する!」』


この一文で明らかになる。後編のタイトルは『Story:A』。なぜBから始まりAが後なのかと思ったら、『Story:ベアトリス』と『Story:アリス』という意味だったのだ。


後編は婚約者アリスの話になるだろうと思われるのだが、なんと、転生前の記憶はここで途切れているのだ。



(闘病中だった私はここで意識を失ってしまってるんだわ!?ここからがアリスの話だと思われるのに。サブタイトルにもあるように、悪役令嬢なのでしょうね。断罪される運命なのか、逆転があるお話だったのか。どちらだったのだろう)



先程のファビアンの声に、何事かと会場内は一瞬ざわめいたものの、皆耳をすませているのか、静まりかえった。


「婚約破棄ですか。それは、どのような理由で?あと、国王陛下の決定ですか?」


アリスは毅然とした態度で対応した。


「理由だと?何をとぼけたことを!己の心に聞いてみよ!それと、国王陛下ではなく私の決めたことだ」


「身に覚えのないことを問いかけてもわかりませんことよ。それに、ファビアン殿下と私の婚約は、国王陛下とジャルダン公爵が結んだものであり、私たちに破談にする権利はございませんよ」


「ふん、後に許可を得れば良いだけのこと!貴様の追放とともにな!」


はぁ、とアリスはため息をついた。


「なんだ?怖じ気づいたか?」


「呆れてものが言えなくなったものですの。私には理由がわかりませんから、わかるようにおっしゃってくださいますか?」


アリスの下手にでた物言いに、ファビアンは気分を良くし、話を始めた。


「ああ、では教えてやろうか。まずは、ベアトリスに会った際に、男爵令嬢の分際で声をかけるなと言ったそうではないか」


(そんなこと申し上げたことはないのですけれどね?)


身に覚えがないなぁと考えていると、野次馬の中の令嬢らは、ファビアンの先程の台詞に、異義を囁き合っていた。


『そんな発言ではなかったわよね』

『そうそう。勝手に話しかけてきたベアトリス様に、このような時は、身分が上の方から話しかけるまでは話をしてはいけませんよって説明されてたのを見ましたわよ』


(ほら、ごらんなさいな。私はそんなこと申してないわよ)


アリスを庇う発言が聞こえたのか、ファビアンはバツの悪そうな顔をし、さらに続けた。


「くっ!?他にもあるぞ!ベアトリスに私には近寄るなと脅したそうじゃないか!気安く呼ぶなと!」


これも、ご令嬢らは異義を囁いていた。


『そんな話ではございませんでしたわよね』

『ええ。私も聞いてましたわ。婚約者のいる殿方には触らない方がよろしいわよって話でしたわよね?』

『そうそう。淑女としての品が下がりますよってアドバイスされてましたわ』

『それに、王太子殿下に対してお名前で呼ぶのはいかがかと。殿下とお付けになった方がよろしいわよってこちらもアドバイスされてましたわよね』

『ええ。だって、不敬罪に問われますものねぇ』


(こんなに見られてて、証言があるじゃないの。なんとか、持ちこたえそうだわ。それに、こういうストーリーだったのかもしれないわ)


悪役令嬢であるアリスは、断罪されずに済む可能性が出てきた。


ベアトリスの方が罪に問われるという発言が聞こえ、ファビアンはさらにバツの悪そうな顔をしていた。


「殿下、お聞きになられていましたか?証言がたくさんございますね。言葉とは不思議なものですね。印象が全く変わりますもの。受け手の受けとり方次第では、ひどい言い様にもなるものですわね」


都合の悪くなったファビアンは、さらなる手を出してきた。


「ぐっ!?貴様!それだけではないのだぞ!言葉の暴力だけではない!突き飛ばして足を怪我させたそうじゃないか!この足を見よ!不自由にしているのだぞ!」


(見よと言われても、令嬢の足は、配偶者以外の男性は見れないでしょうに)


ドレスによって隠されているため、裾をたくし上げない限り、足首を覗くことも難しい。


(それに、先程は普通にヒールを履いて歩いていたと思うのですが)


「そうですわよ!見てくださいまし!酷いでしょ!?」


そう言うと、ベアトリスは軽く裾をたくしあげて膝下を出し包帯の巻かれた足首を見せた。


『キャー!』

『なんてことでしょう!?』


淑女のすることではないと、批判の声が上がった。


(この2人、馬鹿なのでしょうか?)



「あの、そのお怪我のことは存じ上げませんけど、場所はどちらで?」


「サロンの前ですわ!すれ違いざまでしたの!」


この学院のサロンは、王族のみしか入れない建物にある。全学生が入れる場所にあるのは談話室と言い分けていた。


「サロンですか?あなたはそこに出入りしていますの?私は王太子殿下の婚約者ですが、王族ではありませんからその建物には入ったことがありませんよ?人違いではなくて?」


「え!?あれ?でも、あ、そうでしたわ。ファビアン様の婚約者でらっしゃるあなたとお会いしたから、そこかと思っていたのですが、思い違いでしたわ。王宮の庭園でしたかしら?」


周りはざわざわとしていた。男爵令嬢ごときが、サロンだけではなく王宮にも出入りしているのかと。


「あなたは、王宮にも出入りしていますの?では、そのお怪我はいつ頃の話なのですか?」


アリスは平日は公爵邸にて、専属家庭教師による王太子教育を受け、週1回は王宮内で教育を受け、ついでに王妃とお茶会をしていたため、王宮には出入りはしていた。


「1ヶ月前のことだ。泣いてすぐに知らせに来てくれたことを覚えているぞ」


ベアトリスではなく、ファビアンが答えた。


「それはおかしなお話しでございますね」


今まで静観していたクラージュが口を挟んだ。


「これは!!義兄上!?」


クラージュのことを尊敬して、一目置いていたファビアンは、狼狽えた。


「まだ、兄ではございません、殿下」


「っ!!クラージュ様、おかしいとはどういう意味ですか?」


「なぜ、怪我を負わせたところは目撃者がいないのでしょうね?他のことには、たくさんの証言があったようですが」


「それは、見えないところで姑息にやったからに他ならないのでは?」


「推測ですか?証拠はないのですか?」


「ベアトリスが言っていたからだ。私に涙ながらに訴えたのだ」


「あなたは、証拠もなく、このベアトリス嬢とやらの証言だけを信じたのですか?」


「ベアトリスを信じているからだ!それが何か?」


はぁ、やれやれとクラージュはため息をついた。


「では、こちらから説明させていただきましょう。1ヶ月前に、学院内でしょうが、王宮でしょうが、アリスから怪我をさせられるのはありえないのですよ。なぜなら、アリスは国内にいなかったのですから」


「「えっ!?」」


それには、ファビアンとベアトリスは驚いていた。

不思議と、他の学生らはそこまで驚いてはいなかった。

『しばらくお見かけしませんでしたものね』

『ええ。結構長い期間でしたから、留学にでも行かれてるのかと思ってましたわ』



「アリスはずっと王太子妃教育を受けてきました。その教育も終わったので、留学と外交も兼ねて、隣国へ2か月ほど行っていたのです。戻ってきたのは1週間前ですよ」


「そ、そんなことはいくらでも言えるだろう!それこそ証拠はあるのか?」


「ええ。今回の外交は、殿下のお母様である王妃陛下とご一緒でしたよ?王妃陛下はずっとご不在でいらっしゃったでしょう?ご存知ありませんでしたか?」


その言葉に、ファビアンは愕然とした。


「で、では、この怪我は?ずっと痛がっているのに?」


「自作自演、もしくは、仮病ではありませんか?先程も颯爽とヒールで歩いていたようでしたが?痛みがあるのにそんな高さのある靴を選ぶとは、おかしいのではないですか?」


そこへベアトリスがしゃしゃり出てきた。


「このヒールは、ファビアン様がこの日のために贈ってくれたものです!だから履いているのです!このドレスも合わせて贈ってくれたのです!」


公爵令息に対する言葉遣いも酷いものだが、令嬢が大声を出すのもどうなんだと、一同冷めた目で見つめていた。


「ファビアン殿下、足を痛めてる令嬢にあのような靴をお贈りになられたのですか?まあ、それは一旦置くとして、ドレスまでもお贈りになられたと?婚約者であるアリスには一切贈り物などなさらなかったのに?」


ファビアンはプレゼント選びに配慮がないと皮肉られたことに、恥ずかしさで顔を赤くした。


「愛のあるものに贈り物をするのが普通であろう?」


「では、その贈り物の資金はどちらから捻出されていらっしゃるのですか?」


「どこって、そんなの、次期王太子妃用の予算からに決まっているだろう?この先は真実の愛であるベアトリスと婚約をするのだから」


「さようですか。国庫が底をつきそうで財政難の王家が、どちらから捻出したのかと思えば、次期王太子妃用の予算からですか。その予算は、我がジャルダン公爵家から、王太子殿下の婚約者であるアリスの品位を維持するためにお使いいただけるようにと献上したものですよ。アリスの公務としての留学や外交や社交用に、また王家からアリスへの贈答品をご用意していただくためにお使いいただけるようにと、お渡ししたものです。ベアトリス嬢用にお使いになられたということは、横領ですよ、王太子殿下。でもそれだけでは無さそうですね。アリスは貴方から一切贈り物は頂いたことがないと言っていましたから、どこへ消えているのでしょうねこの費用は?」


ファビアンは目を見開き驚いている。


「殿下とアリスの婚約ですが、王家が優位な立場だとお思いですか?こちらは王妃を輩出する名誉なんて欲しておりませんから、この話が破談になって困るのは、王家ですよ?こちらは痛くも痒くもございません。公の場で宣言なさったのですから、覚悟してくださいね」


ファビアンは初めて、自分の婚約の目的を理解し、王家の財政難と資金繰りについて知った。


さらに、クラージュは畳み掛けた。


「アリスを王太子妃教育として拘束した期間は、7年です。学院で毎回首席を維持しているアリスで7年ですよ。今からそこの男爵令嬢が努力しても、何年かかるでしょうね。貴族としての所作もマナーも品位も足りないようですから。あ、7年とは言っても、そのうち2年は、殿下がそこの令嬢と逢瀬を重ねていらっしゃった間、殿下が受けなければならなかった王太子教育を代わりに受けたからでしたので、妃教育は実質5年ですかね。できるのでしょうかね。まぁ、こちらはどうでもいい話でしたね」


王太子としても出来損ないであることが露呈され、ファビアンは青ざめた。


「さあ、アリス帰ろう。君の無罪は証明したし、婚約も破棄してもらうために、きちんと父上に報告しよう。彼らはどんな罪に問おうか。まずは、横領罪だろ?アリスに対する侮辱罪?あとは不敬罪かな?」


「私の為に使われなかった資金だけは、返納頂きたいものですわね。お返しいただけるのでしょうか?私が王室に拘束されていた期間も長かったですから本来であれば慰謝料も欲しいのですが」


「ははは、難しいんじゃないかな?この資金に頼らないと不貞も出来ないんじゃ。男として情けないものだな」


そして、アリスは振り返りこう告げた。


「最後に、私との婚約中に不貞を働いてらっしゃったことが公の場で明らかになりましたわね。婚約者を奪い、冤罪にて陥れようとしたベアトリス様は、私からしてみれば、悪役でございますよ」


二人は楽しげに、今後の処分を語りながら、帰路についた。


(なんだか、小説としてはここでお話が終わっても良いような気がするけど、終わりませんわね)


アリスはホールにて自分の口からポンポン台詞が出てくることに驚いた。






公爵邸に戻ると、クラージュがアルベールに報告をした。


「父上!ファビアン殿下の方からアリスに対して婚約破棄を告げられました。さらにアリスを断罪しようとしてましたが、そちらは阻止いたしました」


「ほう、詳しく状況を説明せよ」


「はい。婚約破棄をお告げになったファビアン殿下は、他の令嬢をお連れになっており、その方と婚約するとおっしゃっていました。アリスの為の次期王太子妃用の予算からその方にプレゼントもお贈りになられていたようでしたから、横領罪を訴えてもよろしいかと思います。手口は調べてみてからですが、おそらく、王家総出で横領しているかと思われますね。殿下にはパーティー会場のホールで婚約破棄を宣言されましたので、こちらからは王家の財政難や資金繰りに関して披露して参りましたから、学院に通う子息令嬢を持つ貴族には王家の現実が周知されたかと思います」


「ほう、それで?断罪とは?」


「ええ。アリスがその令嬢を虐めたり、怪我を負わせたといった話を挙げておられ、アリスを国から追放するとおっしゃってました」


「追放!?」


「ええ。お二人からすれば、王家に深く関わっていた婚約者という存在は脅威であるとお考えになられたのでしょう。しかし、その虐めとやらの現場には目撃者も多く、アリスの発言への解釈が違うと異論を唱える証言ばかりでした。怪我を負わせたなどは論外で、アリスにしっかりアリバイがございました。でっち上げだったことが判明しましたので、反論して参った次第です。こちらは名誉毀損と侮辱罪を訴えてもよろしいかと。あとは偽証罪ですかね」


しっかりと無実を証明してきたクラージュに、アルベールはほっと胸を撫で下ろした。


「ちなみに、令嬢は男爵令嬢でして、品位もマナーもなっておらず、王太子殿下や私たちへの不敬罪も訴えてもよろしいかと思います」


「殿下に対するものも?」


「ええ。公の場で、お名前で呼んでおりましたから。こちらはおまけです。それにこれを容認している王太子殿下も本来は令嬢に対して指導をしなければならないお立場ですからね。殿下の不行き届きや怠慢も指摘できるのではないかと思われますが?」


「お前が同行して正解だったな、クラージュ。そしてアリスもご苦労であったな」


静観していたアリスもほっと肩の荷が降りた。


「いえ、こちらこそ、私の存在が公爵家のお役に立てたようですし、何よりです」


「ああ、王家はまだいろいろ抱えてるだろうな。余罪を追及するのは今だな」



元々、王家の財政難や資金繰りに疑問を感じ、国庫の横領を疑っていたジャルダン公爵は、王家を失脚させ、元王女であった母を持つアルベール、つまりジャルダン公爵家が王家に成り代わることを計画していた。資産をたくさん持ち合わせているジャルダン公爵家に、王家から王太子とアリスの婚約を打診されたのを快諾したのは、王家の不正の尻尾を掴むためだったのだ。



調べていくと、次期王太子妃用の予算の横領は、酷いものであった。アリスとともに行動していたものは、全てこの予算から決済していたのだ。王妃とアリスのお茶会も、留学と外交に同行している王妃に対する費用も、さらにそこで王妃が私的に買い物をした費用にも使われていた。




ここからは、順調に事が進んだ。







◇◇◇



たくさんの罪を並べられた王家は失脚し、アルベール·ジャルダンが国王となった。





そんなある日、晩餐中に、クラージュがアルベールに質問した。


「父上、計画が遂行された後、私がお願いしていたことを受け入れてくれるとおっしゃってましたが、そろそろいかがでしょうか?」


「うむ。お前はしっかり役目を果たしてくれたからな、クラージュ。では、話を進めていくとしよう」


クラージュは満面の笑みを浮かべた。


(お兄様があんなに笑うなんて珍しい。どんなお願いだったのでしょう)


アルベールはアリスに向き合うと話し始めた。


「アリスよ。君は私達の娘でいないことは理解しているな?」


そう。アリスはアルベールとエリザベットの本当の娘ではない。王族はみなサファイアの如く青く輝く瞳を持つのだが、王族の血をひくアルベールとクラージュとは違い、アリスの瞳はトパーズのような金色だ。


アリスが幼い頃に捨てられていたのを、クラージュが見つけ、慈悲深いアルベールとエリザベットは温かく養女として迎え入れてくれていたのであった。


「はい。幼いながらも、当時から理解はしておりました」


だから、アリスはサロンには入らなかったのだ。ジャルダン公爵家が王族の血をひくことを知っているものが多いだけに、あの発言は予想していなかったのだろう。


「実は、この王家失脚計画がうまくいった暁には、クラージュを立太子するとともに、アリスを養女から外し改めて、クラージュと婚約を結びたいと考えていたのだ。それが、クラージュが望んでいたことなのだよ」


すると、クラージュはアリスの前に移動すると跪き、手を取って見つめた。


「ずっと、君だけを見てきたし、想ってきた。だから、私と結婚して、永遠にともに生きていきたいんだ、アリス。受け入れてくれるだろうか?」


急な話ではあるが、アリスは心の底から嬉しかった。クラージュの優しさは、妹を想う以上の気持ちであったのだと。ファビアンよりもクラージュの方が素敵だと思っていたのも、自分の気持ちがクラージュにあったからなのだと、改めて感じたのであった。


ふと、転生前の残してきた夫を思い出した。


(この手を取っても良いのだろうか…。幸せを選んでも良いのだろうか…)


自分が死んでしまったからこそ、夫の幸せを奪ってしまったのではないかと後悔していた。


複雑な表情を見せたアリスに、クラージュは不安になり、問いかけた。


「何か、心残りでもあるのかい?誰か好いている人でもいるのかい?」


何て説明をしたら良いのだろうか。いや、しなくても良いだろう。


ただ、転生したと言ってもあまりにも他人事とは思えないことがあった。それは、"名前"だ。


転生前の名は、"花園ゆり"だった。

この世界の言葉に直すと、それは、"リス·ジャルダン·デ·フルール"だ。ここまで一致すると、とても他人事ではなかった。


私は"アリス"でありながら、"ゆり"であるような気がして、他の人を愛して良いのかわからなくなってしまった。


でも、転生した事実を思い出さず知らぬままであったら、こんなに悩むことは無かったのだ。この運命を受け入れよう。この世界を受け入れよう。そうアリスは決意した。



「いいえ、私もお兄様を、クラージュ様をお慕いしていました。あなたとの婚約をお受けいたします。」





(これで良いよね?


ゆうきくん………。)







(!)




そして、アリスは幸せを確信したのであった。






















【もう1つのエンディングをご覧になりたい方は、下へどうぞ】
































sideクラージュ



◇◇◇



罪を並べられた王家は失脚し、アルベール·ジャルダンが国王となった。



そんなある日、晩餐中に、クラージュがアルベールに質問した。


「父上、計画が遂行された後、私がお願いしていたことを受け入れてくれるとおっしゃってましたが、そろそろいかがでしょうか?」


「うむ。お前はしっかり役目を果たしてくれたからな、クラージュ。では、話を進めていくとしよう」


クラージュは満面の笑みを浮かべた。


(やっとこの時が来た!)



アルベールは話を始める。


「アリスよ。君は私達の娘でいないことは理解しているな?」


そう。アリスはアルベールとエリザベットに養女として迎え入れてもらっていたのだ。


「はい。幼いながらも、当時から理解はしていました」


「実は、この王家失脚計画がうまくいった暁には、クラージュを立太子するとともに、アリスを養女から外し改めて、クラージュと婚約を結びたいと考えていたのだ。それが、クラージュが望んでいたことなのだよ」



(ああ、そうだ。私はずっと君と結ばれたかったんだ!君と出会った日から、ずっと!!)



すると、クラージュはアリスの前に移動すると跪き、手を取って見つめた。



「ずっと、君だけを見てきたし、想ってきた。だから、私と結婚して、永遠にともに生きていきたいんだ、アリス。どうか、受け入れてくれるだろうか?」


(やっとこの想いを告げることが出来たぞ!さあ、アリス、私を受け入れてくれ!)


しかし、アリスは複雑な表情を浮かべている。クラージュは不安になり、問いかけた。


(!?、どうしたんだ?何を躊躇っている?)


「何か、心残りでもあるのかい?誰か好いている人でもいるのかい?」


クラージュが問いかけると、アリスは少し考えたのち、すっきりとした笑みを浮かべ、答えた。


「いいえ、私もお兄様を、クラージュ様をお慕いしていました。あなたとの婚約をお受けいたします」



(ああ、たどり着いた…!!!)



「ありがとう、アリス!大切にするよ。ずっと一緒だ。ずっと!!」











(やったぞ!長かった。長かったが、僕はやったぞ!)













クラージュは、上がる口角を抑えることが出来なかった。














(ああ。やっとこの手に入れられたよ。前は手に入ったと思ったら死んでしまったからなぁ。この異世界で再び出会うことが出来てよかったよ。この『小説』うまく出来てただろう?異世界ファンタジーにはまっていた君のために、僕が書いたんだよ。僕らの運命に気づいてくれたかな?











転生したのは君だけじゃないんだよ、"ゆり"。










もう逃がさないからね。








永遠に一緒だよ、








"ゆり"(リス)








この僕、"勇気"(クラージュ)と)




最後までお読みいただき、ありがとうございます。



言語はフランス語を参考にしました。


ホラー?サスペンス?っぽく仕上げたのですが、伝わりましたでしょうか?



世界観や、背景、用語など、調べて注意しながら制作しましたが、至らない点や、誤字、不備などありましたら、お知らせくださると助かります。


より良い作品が生み出せるよう努めていきたいと思います。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前世の旦那さんは後追いしたという事でしょうか? [一言] キレイに纏まったよく有る話ですね、何て思っていたら最後にゾッとしました。 怖い~怖い~怖い~!
[良い点] へぼへぼ王子に礼儀作法も知らない男爵令嬢へのぶった斬りざまぁ、良いですねー。 [気になる点] 後出し情報が多かったと感じました。 出生について [一言] Lis と Courage、そして…
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