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1.突然繰り出される謎の断罪


「これが厚化粧で隠されたシュゼットお姉様の正体ですわ!」


え、……貴方、私の正体が分かるほど私と関わり有った?

確かに、色素が薄い白髪碧眼に厚化粧は目立つかもしれない。けれど、この厚化粧には事情が……まぁ、知らせる気もありませんが。


大陸の西北に位置するエルラタ王国の貴族であるエルランジェ侯爵家の次女であり、私の異母妹のミラベル・エルランジェのために開かれた誕生日パーティー。

ミラベルの提案で始まったカードゲームは負けた者が秘密を一つ暴露するというものだった。

ミラベルはゲームのセオリーである『ちょっとした自分の秘密の暴露』ではなく、なぜか姉である私の正体とやらを暴露し始めた。


ミラベルは、ふわふわした自慢の金髪を後ろに払うと、初夏の若葉のような緑色の目を輝かせ、私が大切に仕舞っていたはずの、従者のエリク・イヴェールから貰った誕生日プレゼントのブローチを掲げた。


「そのブローチをなぜあなたが持っているの」

「これがお姉さまの不貞の証拠だからですわ」


不貞って何のこと。それに、人の者を勝手に持ち出す窃盗は問題無いの?


私は口に出す前に周囲を(うかが)った。

この件に荷担している、もしくは賛同している者とそうでない者をある程度推し測るためだ。


招待客の従者やメイドは他の場所で待機している。

エルランジェ侯爵家のメイドと、本日の主役であるミラベル専属のメイドであるノラ・ボルデは広間の隅に控えていた。

ノラ・ボルデの口許は手が当てられていて見えなかったが、その目は元々の大きさより細められていた。

そこから入り口側へ視線を流すと、私の事実上の専属のメイドのロマーヌ・コンベと目が合う前に視線を下げられてしまった。

継母であるパメラ・エルランジェはミラベルとブローチと私に視線をさ迷わせて、拳を震わせている。


「まぁ……」

「なんですの、あれ」

「みすぼらしい……」


 ミラベルの誕生会に招かれているのは、十七歳の私の五歳年下の妹と同世代の令嬢達。

状況に流されるのは仕方ないけれど、もう少し言葉を選ばなくて大丈夫なのだろうか。

そんな中、ミラベルがさらに驚きの発言をした。


「これは、高位貴族が贈るような品ではございませんわ! ジョスタン・ダルシアク様にも確認させて頂いたところ、心当たりは無いとのことでしたわ。お姉さまはダルシアク様の婚約者に相応しくありません!」


ん?


「どういうことなの。説明しなさい。シュゼット!」


異母妹のミラベルに続いて継母のパメラも捲し立てる。


「婚約者……?」


私はいつの間にか婚約者持ちになっていた……?

ジョスタン・ダルシアク様は伯爵家の嫡男で、たしか遠目に一度しか会ったことが無かったはず。

まだ婚約者が決まっていない私を慮ってくださったのかもしれない。けれど……。


 カツっと音がして振り返る。

ミラベルは不意に手を滑らせてブローチを落としてしまったようだ。その拍子に爪先が当たり、ブローチが壁にぶつかって止まった。

使用人が拾ったところを急いで受け取るとまた、私を嘲るように掲げ持ったブローチを周囲に見せる。


ミラベルの手の中にあるブローチは先程より少し欠けてしまっている。


今までずっとこんな理不尽に堪えてきた。けれど、そんな日々を堪えるための希望さえミラベルは簡単に踏みにじろうとする。


もう、いいよね。


まずは、ブローチを取り返さなきゃ。


「ミラベル、そのブローチを返しなさい」

「な、なによ」

「他にも身近な者から頂いた誕生日プレゼントは全部大切にしています。それの何が恥ずべきことですか。返しなさい」


ミラベルはいつもの私の態度と違うので驚いたのか固まっている。

私はその隙にミラベルに近づくとブローチをその手から取り返した。


「まず、ダルシアク様は私との婚約を本当にお望みなの? 少なくとも、私は婚約の話は知りません」

「えぇ?」

「どういうことですの」

「パーティーの余興ですの?ミラベル様ったら、冗談がす」


 何度か互いの家に行き来している令嬢がミラベルに助け船を出そうとする。

いつもならそれを(さえぎ)ったりはしないけれど、今回は()えて遮る。


「父に確認してまいります。皆様、ごきげんよう」

「待ちなさい」


私は自分を呼び止めた継母であるパメラの目をじっと見つめる。

この人に言いたいこと、乞いたいことが沢山あったはずなのに、今はもう言葉が見つからない。


私はパメラから視線を外すと、いつものように淑女としての所作でその場を去った。







 全五話の予定です。よろしくお願い致します。

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