第5話 王都(嘔吐)襲来!?
「おろろろろろろろろろろろろろ。」
汰百は木陰で盛大に胃液をぶちまける。
あの速さであるが故に、たった数分間の空旅ではあった。
だが、かかるGは並大抵ではないことに汰百は気づかないでいた。
「軟弱だなぁ。不便じゃないかい?人間って。」
「畜生!!誰しもお前みたいなゴリラドラゴンだと思うなよろろろろろろろ!!あっ今朝食べた卵焼〜。」
「なんだいゴリラドラゴンって。」
彼も聞きたかった。
「いやぁでも背の上で吐かれなくてよかったよ。いくら洗浄魔法があるにしても気分的にいいものでは無いからね。」
「すげえなおいそんなもんも使えるのかよ。万能ドラゴンすぎるだろ。」
「地道な努力の賜物さ。暇だったんだ。」
褒めるとどこか誇らしげにするこのデカブツが、少しだけ可愛らしくも見えてしまう彼であった。
(まだ体調治ってねえなこりゃ。)
彼はぐったりと軟体化するかのように木陰で休む。
「大丈夫かい?大丈夫じゃなくてもとりあえず聞いててほしいのだけど。あそこに見えるのが『スクラブ王国』だよ。僕もあまり詳しくなくてね…。さっき説明した情報ぐらいしか持ってないんだよ。」
「なんだよ、万能じゃねえのかよ…。」
「酷い言い草だね…。仕方ないだろう?色々いざこざがあって近づかないようにしてたんだからさ。」
2人はウェドの持つ“ツテ”を当てに、この王国まで来ている。
しかし彼女の話を聞けば聞くほど、汰百の目は鋭く研磨されていく。
「ほぉんとに大丈夫かぁ?それ。つまみ出されたりしねえか?まず俺、格好も危ういし言葉が通じるかも分からねえぞ。」
彼は召喚されて間もない。
ウェドはいくらでも姿かたちを変えれるが、彼の格好はもちろん学生服のまま。
加えて言葉はウェド相手だからこそ通じるものの、国民はただの人間である。
言語の壁にぶち当たれば先行きの霧がみるみる濃くなる一方だ。
「君にこれを預けよう。」
「なんだ?麦わら帽か?要らねえぞ。」
「君はこれが麦わら帽に見えるのかい?ただの魔道具だよ。」
ウェドから渡されたのは、形からして彼のいた世界で使われていたワイヤレスイヤホンのようなものだ。
「これは言っちゃえば通訳機さ。こっちの世界の言語に慣れるまではこの魔道具を使うといい。僕の魔力が込められているから、精度は今の僕との会話とほとんど相違ないよ。」
「すげえな。これ見たらあの青狸も泣くぞ。こんにゃくみたいな消耗品じゃないんだからよ。一生モンじゃん!」
「君のいた世界にも同じような道具があったのかい?」
当然意味がわからないだろう。
彼は、こっちの世界ではネタが通じない事に少しだけ滲み出た寂しさを胸にしまい、貰った魔道具を付けた。
「準備は万端だな。行こうか、ママ。」
「次そう呼んだら四肢もいで首の向き反対に回すよ。」
「ごめん。」
(君は1度体験してるんだけどね。)
彼女は内心馬鹿にしながらも、どちらも準備が万端だと“勘違い”をして王都へと歩いた。
そして、門番に入国手続きの話を持ちかけようとしたところで、咄嗟に銃を向けられた。
「「え?」」
「なぜこんな辺境にドラゴンが!!」
「構うな!!撃てえええ!!」
彼らは全く持って初歩的なミスをしていたのだった。
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