第4話 アマデウス
突然の事だった。
この世に生を受けて1200とそこいらの年月。
数えるのも煩わしいと感じ始めるほどに生きているウェドは、それでもたった1度だけの経験であるこの現象を忘れもしなかった。
ふと、目端を探る。
できたばかりの夫は、見るも無惨な姿だった。
四肢はもげ、頭は180°反対を向いて、しかしその状態で彼は“生きて”静止していた。
そして、それは彼だけではなかった。
地上の草木、太陽の動き、風の流れ。
何もかも静止して、世界に突如静寂が訪れたのだ。
彼女は目を瞑り、妖艶に笑う。
「やっぱり君の仕業だったのか。女神アルテ。」
「ウェドちゃんと会うのは2度目だね!元気してた?」
ウェドはこの時に生じる圧倒的な魔力の術式や構造を記憶していた。
突如虚空から姿を現したのは『アルテ』と呼ばれる少女だった。
しかし、前回同様顔だけははっきり見えない。正確には“形作れない”。
「僕の都合のいい存在になろうとしないでよ。顔がおかしいよ。」
「仕方ないじゃん…。あたしはその人にとってなって欲しい顔があたしの顔になるんだから。」
ウェドにとって、今のアルテの顔は今まで見てきた人間の顔はもちろん、虫や哺乳類と言った生物の顔まで入り交じって不気味な顔になっていた。
「それよりどうするんだ。僕の新しい夫、ぐちゃぐちゃじゃないか。」
「ああ、そうそうそれについて話に来たの。詳しいことはまだ話せないんだけどね、その子に『アマデウス』を付与することにしたんだ。」
「なんだい?それは。意味がわからない。それにもうこうなったら助からないよ。」
ウェドはため息をついて、汰百の死骸になりかけた体を口元でつまみ、放り投げた。
しかし、アルテの目の前でまた軌道が止まる。
「そうじゃないよ…汰百君は死なないんだよ?彼はあたしの都合で生かされるんだ!そして彼の都合もあたしが聞くってこと!」
アルテは腕を振っては過剰な熱弁をする。
その説明にどうも引っかかる所があった。
「君、この子の召喚にかなり関与してるね。君が呼んだのかい?」
「詳しくは教えられないよ!」
女神は笑顔で答える。
(思考を読んでも何も見つからない。読めはするんだが中身は空っていうこの感じ…気持ち悪いなぁ。)
アルテは転移してウェドの鼻先を歩き始めた。
「関係ないなんて嘘はつけないのか。随分正直者なんだね。」
「ウェドちゃんの目的はあたしでもあるでしょ?この子に関わるのは何かと都合がいいんじゃない?」
「つくづく腹立たしいね君は。」
両手で口元を押え、禍々しい風貌の竜を平気で小馬鹿にする。
「だいたいね、女神を殺すなんて無理無理!いくら世界最強なんて謳われてるウェドちゃんでも適うわけないよ?なんてったってあたしがルールそのものなんだから!」
「だから殺すんじゃないか。この世界そのものを変えるためにさ。」
「でも結局あたしに停められてたよね?あたしにとって都合が悪いから。」
彼女は1度、世界を終わらそうとしたことがある。
アルテとの出会いはそこからだった。
「はぁ…彼は妙に運がいい。きっと君の言うアマデウスの力なのかい?」
「そう!虚弱な彼一人じゃ生きていけるはずがないからね。くっついてもらったよ?不本意だけど」
(不本意…?)
「じゃ、あたしこれ伝えに来ただけだから!それに実際見た方が早いでしょ?」
「…?」
そう言うとアルテはウェドに笑顔で手を振ってまた虚空へ姿を消す。
━━━━━━━━━━途端。
わずか数秒、世界の時間が逆再生されていった。
壊れたはずの加護は元通りに修復され、また別の時間軸を世界が歩み出す。
先程と変わらない既に見慣れた美しい景色、そして後ろに乗る慣れない1人の少年の感触。
そういう事か。
と、ウェドは呆れ気味にまた笑みを浮かべた。
「君、嫌な奴に好かれちゃったね。」
「なんの事だ急に?」
彼『新川汰百』は、この世界に来た瞬間から、女神に愛されていたのだった。
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