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第3話 上が下?わけわからん。



「すっげぇこれやべぇぇぇぇ!!!」



彼の視界は今、横切る雲と地平線を映す。


速度はマッハを超え、“音”と並行して空を駆けるのは、一匹のドラゴンとその上に乗る1人の少年。



「暴れないでくれよ?加護がついてるから君は吹っ飛ばないけれど、範囲外に出れば君の体は塵になるよ。」


「おいおい、もうガキじゃねえんだから世話焼くなよ母ちゃん。じゃなくてウェドだったか?」



『ウェド』


ドラゴンにして新川汰百の婚約相手になってしまった彼女の名前である。


「君が僕の婚約者じゃ無ければ一瞬で振り落とすところだったよ。この短時間で何十回も命拾いしている。運がいいってもんじゃないよ。」


「そりゃお前の匙加減だろ我妻よ?俺だってこんな不可抗力の婚約破棄してえよ。どうにかなんねえのか?」


「ならないね。心に許した人間にしか接吻は許されない。僕がまずソレを許すと思うかい?」



確かにその通りである。


いくら悪巧みをして既成事実を作ろうとも、目の前のこの光景を見る限り、まず物理的に不可能だろう。


一足先にウェドが気づいて消し飛ばすのが落ちだ。


つまりこれは不可抗力の婚約だ!などと謳った所で誰も信じないのだ。


しかし、あの時数センチでも転移の座標が合っていなければ、悪巧みのハート盗賊と間違えられて彼の華やかな人生は幕を閉じていたかもしれない。


呼ばれて潰されグシャシャシャーンなんてたまったもんじゃない。



「こええなお前。その性格じゃ彼氏の1人も出来ねえのは当たり前か…。」


「失敬だね。これでも幾国の軍を動かす程の魅力は持ってるんだよ?」


「なんだそれ。どうなったらお前の鱗ボディの魅力と繋がるんだよ。」


「僕の故郷はね…結構有名な場所で、君と交した接吻の婚約条件が人間の国にも噂として広まってるんだ。それを知った国王達が僕の力を欲しがってね…。国と国でぶつかり合ってたよ。」


「やめて!あたしのためにあらそわないで!!ってやつか。お前そんなすげえのかよ。」



気色の悪い裏声で茶化すが、彼の背筋には悪寒が走っていた。


国を動かす程の力を持つ自分の嫁は、自分をいつ尻に敷いて生活し出すか分からない。


今尻に敷いているのは彼だが。



(余興とか言いながら裸になった俺を踊らせては、火のついた煙草を飲ますとかやらねえよな…。そう遠くない未来の俺の姿なのか?)



彼は泣きたくなった。



「何だ、そんな芸があるのかい?」


「キャー!!ウェドさんのえっち!!勝手に頭の敷居を跨ぐなんて…!!つかさ、これどこ向かってんの?」


「王都さ。さっき話した大戦争の一国だよ。ちょっとツテがあってね。今は奴隷商の商人なんだけれど、そいつなら異世界の事とか何か知ってるかもと思ってさ。」


(奴隷か…。そんな物もこの世界にはあるんだな。みなさん仲良くお手手繋ぎなんて剣と魔法が主流であろう皆様だと余計厳しいのかね?)



生物は力を持てば持つほど上下に拘る傾向にある。


元の世界でも、彼はその目に見えない力比べをニュースなどで見る度にうんざりしていた。


しかしそう考えると、自分がドラゴンの上に乗っているこの状況は、非常に歪に見えてくる。



「どれ位でつくの?お前硬い。尻痛いよ。」


「我慢しなよ。あと数分で着くからさ。」




パリン!




不意にそんな音が耳に飛び込むと、彼の視界は天変地異を引き起こした。



「加護が破壊された…!?」



ウェドのその声は、空気と耳が擦れ合う音でかき消され、彼には届かなかった。


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