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第1話 全部悪いが、強いて言うならタイミング。

2話までは高校の時に書いた小説です。

恥ずくて投稿できなかったんですけど、こんなのあったなぁってな感じで何となく投稿してみます。

読んでくれたら様子見て続き書きますね。



「呼んだ!ついに呼んじまったぞおい!こら!この野郎!えぇ!?」



澄んだ空気に雲一つない青空の下。


秋の終わり頃乾燥した冷たい風が吹く中で、学校の屋上では1人季節に反した熱苦しい男がはしゃいでいた。



「うおおお!!ヤバい緊張してきたああ!!」



さっきまで屋上には何人か生徒が賑わっていたが、騒ぎながらシャドウボクシングを繰り広げたり急に側転をし出したりする男が現れ、気付けばこの場には誰一人として居なくなっていた。



「OK!コンディションもバッチリだ。後は...」


(彼女を待つだけだ。そうだ。呼んだんだ…!)



今日彼は…『新川汰百』は『島田花蓮』に想いを伝える。


島田花蓮


汰百が昔から長らく憧れていた人物である。


小学校から今までクラスが違った事は1度もない。


その為常に近くにいたはずだった。


しかし、その容姿と聡明さもあり周囲からの人気も高い為、自分とはどうしてもかけ離れた存在である事もまた、近くに居るからこそ誰よりも自覚させられていた。


何故か席はいつも隣だったのだが、物理的に近くてもほんの少しでも近付く事が出来ない。


1メートルもない机と机の間が、こんなにも遠く感じてしまう。


彼は、そんな自分が嫌で嫌で仕方が無かった。


何度も「お前には高嶺の花だ」と罵られ、悔し涙を流した日も数え切れない。


だが、それでも汰百は諦めなかった。


彼女に見合う男になる為、トレーニングも美容も全て手をつけた。


元が良かった用で、中学生活後半から徐々にモテ始めた。

そして…血反吐が出る程の猛勉強。



(正直これが一番キツかった…。)



拒絶反応で湿疹が出た事もあった。


しかし、これにより自分の実力がどれ程の物なのかを嫌という程実感出来た。


こうした日々の努力を積み重ねて少しでも近付こうと抗い続けた末に、新の自分の姿を掴み取ったのだ。



(昔の侮蔑嵐浴びせてきたあいつらには1発食らわしてえな。法律とキャリアがそれを許してくれないがな…。)



まあそんなこんなでついに私立の超エリート高校、島田花蓮のいる高校に特待生として入学する事が出来た訳だ。


そしてそれはまだ目標達成の下準備に過ぎない。



(今日こそが、本番なんだ。だから落ち着け、足音はもう聞こえている…もうすぐだ。)



扉が開く音がした。



「新川くん。突然呼び出して、どう...したの...?」


「あぁ、急に呼び出してすまん。寒いのに悪いな。」



彼女はその言葉に、気にしないでと言う意味合いを兼ねて首を横に振る。


汰百は笑顔で応じた。


不意に風が吹き、汰百を見つめる彼女の銀髪を揺らした。

その姿に自然に鼓動が高鳴る。



(あぁ…、やっぱ俺は本気で惚れてんだ。失敗は許されない。ここまでの苦労を無下にできるかってんだ。)


「それで…」


「あぁ、今日は折り入って話があって呼んだんだ。えぇと...、いや、もう単刀直入に言うわ…」


(言わなきゃ。そうだ、言うぞ。行け!俺!)


「その...好きだ!俺と付き合ってくれ!!」



深くお辞儀をする。


ついに言った。


その瞬間は不思議と風が止み、暫くの静寂が訪れた。

拾う音のない耳がキンキン言い始める。


しかしおかしい。



(あれ、どうしたんだろう。返事が無い、まさか失敗したか?急ぎすぎたか?)



静かすぎるこの状況に汰百は狼狽える。



(そう言えば口調が少し偉そうだった気もする。不味い完全にやらかしたかもしれない。早急に弁解しなければ本当にヤバい!)



そんな思考を巡らしながら急いで顔を上げると目に飛び込んで来た光景に彼は唖然とした。



「ぐすっ...うぅ...ほんとぉ?......ぐすっ...夢じゃ...ないよねぇ?.........うっ...」


「ん?」


どういう事だろうか?


泣いている理由も、言っている意味も彼には理解できなかった。


そして瞬時に脳が働き出す。



(今はそれよりもやるべき事があるはずだ…!)


「えっと…大丈夫か?はい、ハンカチ。」


「うぅっ...ありがとうぅ......ぐすっ。」



急で驚いたが、鍛え抜いてきたイケメン力ですぐさま対応する。



(ナイス俺。にしても泣いてる姿もなんて可愛い...違うそうじゃない。島田の言葉がどんな意味合いなのかを聞かなくては。)



汰百は彼女を近くのベンチに座らせ、その狭い背中を泣き止むまで摩った。



「ど?落ち着いた?」


「...うん、ごめんね...突然。意味わかんないよね、分かるように全部話すから。」


「あぁ、ゆっくりでいいからな。」



彼女は汰百のハンカチで涙を拭き、自分を落ち着かせるよう深く息を吐いた。


そして語り始める。



「覚えてるかな...。小学生の頃なんだけれど、私があの学校に転入してきて同じクラスになったんだよね。」


「え?覚えてたの?」



突如現れた誰しも目を奪われるほどの美貌を持つ転入生は、当然の如く瞬く間にその名を轟かせていた。


だが転入生紹介の時、彼は寝坊で大遅刻していた。


走って教室に向かっている途中廊下ですれ違った際に彼女に完全に一目惚れしたのだ。



(そこからどんどん島田の情報漁り始めたんだっけ。自分でも思うがあの頃はちょっとキモかったな...。当時の俺は隅で密かに生きる虫みたいなもんだ。同じクラスではあるけど当然認知などされていないものだと思っていたし、覚えててくれてるとかマジでビビるな。)


「あの時の私、廊下ですれ違った時からさ、君に一目惚れしちゃってたんだ...よね。」


「んん?」


(え?どういう事だろう。つまりそういう事なんだろうけれど?いやごめん分からん。説明くれ。)



彼は取り敢えず周りを見渡す。



(何?ドッキリ?これ本当に信じて良さげ?まあドッキリだったらそいつの道徳心犯罪者レベルだけどさ。)



彼は困惑で頭がどうにかなりそうだった。


彼女は赤らめた顔を隠すようにそっぽを向いたまま語りだす。



「それでね、その時から君の情報を隈無くかき集めたりしたんだ...。気付いてないかもだけど夏休みの家族旅行なんかもこっそりついて行ってるぐらい。」


「おう。...うん?」


(すまん島田。さっきキモイとか言ってしまった。)



そう心の中で謝りつつ、彼女の言葉から信憑性を見つけていた。


彼女がここまで自分にゾッコンだったのは信じ難い話ではあるが、どうやら信じるしかない証拠が一点隆起している。


当時彼は悲しい事に小学生の頃から友達と呼べる者は誰一人いない状況が続いていた。


そんなぼっちに家族旅行の話をする機会なんてなかったはずなのだ。



(と言うか誰にも話してないんだ。まさかまじで着いて来てたのか?温泉旅行...。)


「もうここまで来たら全部言っちゃうけど、ずっと同じクラスだったのってお父さんに頼んでたからなんだよね。学校に投資して頼み事聞いて貰ってたの。」


「へぇ、すげぇ。」



返す言葉が見つからなかった。



(え、勝手に運命感じてたあの頃の俺すげえ恥ずかしいじゃん。島田の父親ってそういやどっかのお偉いさんだったよな。お金と権力だけでそんな事までして良かったっけ?そういや俺の通う学校やたらと施設が綺麗だった覚えがあるけど。)



この後も様々なカミングアウトがあった。


どれも自分の想像していた島田花蓮のイメージとは全く別物のエピソードで驚きを顔に出さずにはいられなかった。



「さて、ここまで大丈夫かな、付いてこれてる?すっごい微妙な顔してるけれど。」


「あー、さっきゆっくりでいいって言ったはずなのに構わず溢れ帰りそうな情報量を投げつけてくれた事に感謝するわ。おかげで全然理解できていない。つまりどういうこと?」



本当は薄々でもなく理解できている。


だが何より彼女自身の言葉を自分の耳でハッキリと聞きたかった。



「そうだね、つまりは私も君が好きってこと。」


「こんなこと聞くのも何だが、これは現実なのか?」


「酷いなぁ、結構勇気出したんだよ?今の。なんならもう一度言うけれど…。」



とても嬉しい筈なのだが、あまりに唐突で過激な告白の連続に思考が追いついていなかった。


パンクしそうな頭を働かせる。


しかし、彼女の言葉は必死に回している思考にブレーキをかけた。



「好きだよ、新川くん。」



そして、堰き止めていた何かが崩壊するのを感じた。


急に視界がぼやけ始め、熱いものが込み上げてくる。



(結構我慢してたんだがな、これ以上抑えるのは無理そうだ…。)


「あの、島田。少し向こう向いてくれないか?数秒後の俺めっちゃダサくなるからさ。」



今にも崩れそうな声でそう言うと、彼女は無言で汰百の肩を抱き寄せた。


暖かく柔らかい感触で、酷使した頭の中から幸福感が湧き上がり始める。



「私は今までの全ての君を見てきたんだよ?それもひっくるめて好きなんだから、私の目は気にしなくていい。安心していいんだよ。」



心が満たされた気がした。



(前の自分も、変わった後の自分も、全ての自分を本気で好いてくれている…。今まで努力してきた理由は少しでも魅力を上げるためだと思ってここまで頑張ってきたつもりだ。だが、今この瞬間気づいた。あの日銀髪の少女とすれ違った時から、俺は“勇気”を身につけるために今日この瞬間まで努力してきたのか…。)



今までの努力がこの瞬間に報われたと思うと涙が止まらなかった。



「それにほら、どうしてもっていうなら、こうすれば顔も見えないでしょ。」


「あぁ、ありがとう…。すまんがもう少し時間が欲しい。」


「いいよ。私もこの時間は幸せなんだ。」



彼女の全ての言葉が優しさに満ちていた。


彼は数分だけそれに甘え、気持ちと涙で濡れた顔を整えて落ち着く事が出来た。



「島田。改めて、好きだ。」


「うん、私もだよ。」


そして彼は、雰囲気に流されるように顔を上げては口元に目をやった。


相手もそれに気付き、目を瞑って全てを受け入れる体制に入っていた。


彼は彼女の肩を掴み口元に顔をゆっくりと近づける。



(落ち着け、シュミレーションは毎晩していたし準備はバッチリなはずだ。する上で絶対に外せないOKサインのチェックは確認済み。後はかましていくだけだ…!)



亀の歩みより遅く、緩やかに彼女の口元に近づいていく。


そして、夢にまで見た念願のキスが叶った、




━━━━━━━━感触はした。




目を開けると超絶美少女島田ちゃんの姿は無い。


おそらくキスのOKサインまで出してたので汰百の彼女という事で問題ない島田花蓮の姿は、周りの景色、匂い、音など諸共全てが消え去り、代わりに爬虫類の皮で出来たような壁が現れた。


そして彼は、その壁に歯が当たりそうな程に思いっきり口を付けていたのだ。



「あらら困るなぁ、それは。本当に困る。」



妙にハッキリと聞こえたその声は、呆れたような、はたまた言葉通り困ったような印象を持たせた。


彼は、その声の正体を暴こうと壁から離れ辺りを見渡す。


周りは薄暗く、小さな光が遠くから差し込んでいるだけであった。



「なぁ、誰かは知らないがいずれ同じ墓に入るであろう天才銀髪美少女といい感じになってた所で急にテレポートしちまったみたいなんだ。どうなってんだ?」


「何言ってるかわからないね。何者だい?君。」



(というかそんな事はどうでも良い。どっか転移したのは分かったんだ。問題はキスが出来たのかどうかなんだよ。)



目を瞑っていたせいで、口と口が触れた瞬間に転移したのか、はたまた口が触れる前の目を瞑っていた間に転移していたのか判別が付いていなかった。



「というか、問題はそこじゃないんだよね。」


「そうなんだよ!無事に俺はキスを果たす事が出来たんだろうな!?」



そう叫ぶと、キスマークがくっきり残った『壁』がゆっくりと動き出し始めた。



「んんん?」



さっきまで目の前にあった壁はどんどん遠くなって行く。


そして、ゲームやアニメなどでしか見たことも無いシルエットが徐々に浮かび上がる。


大分暗さに慣れてきた目が映し出したのは、さっきまで目の前にあった壁が竜の頭部であるという真実だった。



「うん、無事成功したみたいだね。だから本当に困るんだ。」



そして、思ってた以上に真実は残酷であった。


目の前の光景とその真実に、汰百は深く絶望した。



「君には責任を取ってもらわなきゃ。」



どうやら彼は、竜にファーストキスを捧げたらしい。



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