風の章②
疾風は再び目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。どのくらい寝ていたのだろう。
スマホの画面を見ると午後9時を少し回ったくらいだった。
疾風はキッチンから持ってきたカップうどんを食べようと、キッチンにお湯を作りに向かった。
リビングに行くと明かりがついていた。母は夜勤であるため、父がそこにいることは明白であった。
自分が不登校になってから、もう数えきれないぐらい父とは喧嘩をしており、顔を合わせるだけでも、向こうから「いい加減学校に行け、もう私たちに恥をかかせるな」と口癖のように言葉をついてくる。
疾風は父親と会うくらいなら晩飯なんていらないと、父に気づかれないように足音を立てずに、自室に戻っていった。
部屋に戻った疾風は、SNSのアプリでクラスメイトのつぶやきを見た。
ほとんどの投稿が「授業マジだるい」「あの教師いなくなんねぇかなぁw」「今年もぼっち辛み・・」
である。こんなのは一時の感情を誰かに聞いて欲しいだけのつまらないものだ。こいつらにはきっと自分のことなんて理解できないに決まってる。自分の悩みなんて、自分でしか解決できないのに・・
疾風はまたベットに入り、目をつぶった。夜は人の声が少なくなり、昼よりも環境音がダイレクトに伝わってくる。非常に心地よい。この世界は言葉を必要としない。自分に文句を言う輩もいない。自分が世界そのものである。言葉、コミュニケーションがあるから、人は傷つけあい、人を追い込む。そんなことをしてもなにもいいことはないのに。だったら最初からこの世界に閉じこもっていたほうが有意義だ。
ピロンッッ!
疾風が眠りに着こうとしたその時、それを妨げるかのようにスマホが鳴った。
なんだ。この世界を満喫していたのに。だから他人との関わりなんて必要ないんだ。
疾風は内心イライラしながらも、薄目でスマホ画面を覗いた。
よく見ると、自分の知らないメールアドレスからだった。疾風は余計にイライラした。
本当にに何なんだ!知り合いならまだしも、全く知らない奴からの連絡なんて時間の無駄すぎる。
どうせチェーンメールや迷惑メールの類だろう。疾風は面白半分で、差出人不明のメールを開いた。
「君を助けにきた。また近々会うだろう。それでは」
メールにはこの一文のみ書かれており、メールの中にも差出人の名前はなかった。
疾風は困惑した。なんだこのメールは。
迷惑メールの類であれば、こんな内容のものがあってもおかしくはない。だがそういうメールには、たいてい変なサイトへのURLも一緒に記載されているものである。だがこのメールには、この一文しかない。普段ならすぐに削除するのだが、疾風は削除しなかった。というより出来なかった。
疾風はこのメールを保存しまた眠りについた。さっきまでのイライラは不思議と消えていた。
「ごめんくださーい!誰かいませんかー!」
翌日の朝、目覚まし時計ではなく、高らかな女性の大声で目が覚めた。
誰も出ないあたり、両親はまだ寝ているのだろう。仕方なく疾風は急ぎ足で玄関に向かった。
「はぁーい。どなたでしょうか?」
玄関のドアを開けながら、疾風は来訪者に尋ねた。そこには、おおよそ20代後半と思われる女性が立っていた。身長は女性にしては高いほうで、整った顔をしていた。長い綺麗な髪が、風になびき一瞬ドキッとしてしまった。
「お!君が疾風君かな?私は上杉朧!君を助けに来たスーパーマンさ!」
と威勢高々に疾風に向かって、ポーズを取った。