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結月祭シリーズ  作者: ホッシー@VTuber
第1章 夏秋ヲ結エル月兎
6/26

マスターとゆかりのお買い物

 ゆかりさんが三次元に召喚されてから一夜、明けた。昨日の夜はとんでもないことがあったけど、ゆかりさんはあまり気にしていないようで朝には普通に接してくれた。

「買い物に行こう」

「……はい?」

 俺の提案に対して首を傾げながら聞き返すゆかりさん。

「だって、一緒に暮らすんだから必要な物もあるでしょ? 布団とか」

 昨日、寝ようとしたがゆかりさんの寝る場所を考えておらず、緊急会議が開かれたのだ。因みにゆかりさんは俺と一緒にベッドで寝てもいいと言ったが、丁重にお断りした。寝られるはずがない。そのため、冬用の掛布団を床に敷いて何もかけずに寝た。ちょっと寒かった。

「そうですが……お金は大丈夫なんですか?」

「うぐっ……」

 確かに布団はかなり、高いはず。貯金を崩せば何とかなるだろうが、あまりしたくない。

「し、仕方ないさ」

「涙目で何を言ってるんですか……昨日、言ったように私は別に一緒に寝てもいいんですよ?」

「俺が寝れないの! それに他にも必要な物があるはず! 今からリストアップして出かけるよ!」

「は、はい。わかりました」

 少しだけ顔を引き攣らせながらゆかりさんが頷く。







「布団、たかッ!?」

 デパートのフロアにマスターの悲鳴が響き渡ります。何事かと他のお客さんがこちらをチラチラと見始めました。

「ちょ、ちょっとマスター! あまりうるさくすると他の人に迷惑ですよ!」

「そ、そうか。ゴメン」

 ハッとして周りを見渡したマスターはすぐに謝りました。

「ちょっと、自分の彼女にマスターって言わせてるの?」

「うわぁ、無いわぁ……」

 ですが、今度は別の理由で注目を浴びています。

「……一旦、違う物を買いに行こうか」

「……はい、そうしましょう」

 俯きがちにマスターと私は布団売り場から離れました。








「……」

「ん? どうしたの?」

 デパートの中を歩いていると突然、ゆかりさんが止まった。

「い、いえ。何でもありません」

 何かを誤魔化すようにゆかりさんはそう答え、俺を追い越す。

「……」

 ゆかりさんが見ていた方をチラリと見た後、俺は急いでゆかりさんの後を追った。






「くそ……貯金が、貯金がぁ」

 マスターはベンチに座ってそう何度も呟いています。結局、布団を買うために貯金を崩したようです。

「本当にすみません。私のために」

 私が三次元に召喚されなければこうはなりませんでした。申し訳なく思い、謝ります。

「……そうか」

 ですが、私の言葉を聞いたマスターは何か思いついたようです。

「マスター?」

「そうだよ! ゆかりさんのためなんだ! なら全然、大丈夫!!」

 立ち上がったマスターはそう叫びます。

「……マスター、ちょっと近づかないでください」

「え!? 何で!?」

「だって、ちょっと気持ち悪くて」

 ここまで来たらマスターではなく、変態とでも呼ぶべきなのでしょうか?

「す、すみませんでした……」

 マスターがすぐに謝ったので許すことにしました。

「では、行きます……」

 私もベンチから立ち上がろうとしましたが、その時、目に入ったテナントでとんでもないことに気付いてしまいました。

「ん? ゆかりさん?」

「ま、マスター。私、買いたい物がありました」

「そう? 何でも言ってよ」

「……です」

 恥ずかしくて声が小さくなってしまいました。

「え? 何だって?」

「下着、です」

「……ゴメン。もう一回言ってくれない?」

「下着です。私、今付けてるの以外、持ってません」

「……OH」

 とりあえず、殴っておきました。







『はい、もしもし?』

「せ、先輩ですか? 俺です」

『ちょっと、オレオレ詐欺は遠慮しているので』

「電話に俺の名前が出たでしょう!?」

『はいはい、わかってるからそんなに興奮しなさんな。後輩君』

 電話の向こうから聞こえる先輩の声。少しダルそうなのはいつも通りだ。

『で? 休日に何の用かな?』

「女物の下着ってどう買えばいいんですか?」

『……ちょっと待ってね。警察に連絡して来るから』

「あああ!? 違うんです! これには訳が!!」

『犯人は皆、そう言うんだよ……それで? 何があったの?』

 こういう時、先輩はすぐにこちらの状況を把握してくれる。まだ、1年ほどの付き合いなのに。

「えっとですね。従妹が今、俺の家に泊まっていまして」

 ゆかりさんのことをそのまま、伝えるわけにも行かなかったのでこうした。

『従妹? へぇ、従妹がいたんだ?』

「まぁ、そうなんですが……実は、替えの下着を持って来るのを忘れたようで……」

『ああ、だから替えの下着を買おうとしてるんだ。しかし、自分で買えるんじゃないのかね?』

 確かに普通の女の子だったら自分で買えるだろう。でも、ゆかりさんは普通じゃない。

「なんか、今まで親と一緒に買っていたのでちゃんと自分のサイズに合う下着を買えるかどうか、心配なようなんです」

『あらぁ、それはまた、大変だこと。それなら、わかった。電話を切った後にメールで送るよ』

「ありがとうございます!」

『でも、貸しだからね?』

「はい、わかりました。何か奢りますよ」

 今日、かなり財布に痛手を負ったが。

『それじゃ、楽しみにしてるよ』

 そう言って先輩が電話を切った。安堵のため息を吐きつつ、携帯をポケットに仕舞う。

「マスター、どうでした?」

「うん、教えてくれるって。今、メール待ち」

「それはよかったです」

 ゆかりさんも安心したようだ。

「あ、メール来た」

 ポケットの中で震えている携帯を取り出し、メールを確認する。詳しくは読んでいないが、下着の買い方について書いてあるようだ。

「じゃあ、これを読んで下着、買って来て」

「え? マスターは来てくれないんですか?」

「さすがに男は入れないよ……これにお金、入ってるから好きなのをいくつか買っておいで」

 財布の中には諭吉さんが数人いたはずだ。女物の下着は高いって言うけれど諭吉軍団がいれば大丈夫だろう。

「あ、ありがとうございます」

 おそるおそると言ったように財布と携帯を受け取ったゆかりさん。

「あ、ゴメン。財布、一回返して」

 そこであることを思い付き、ゆかりさんから財布を返して貰い、諭吉さんを1人だけ抜き取った。

「何かあったら困るから1万円だけ持って行くね」

 そう、言い訳しておく。

「あ、はい。わかりました。では、行って来ます」

 財布と携帯をパーカーのポケットに突っ込んだゆかりさんはそのまま、下着売り場に向かった。

「買い終わったら1階にあるレストランに集合ね!」

「了解です!!」

 ゆかりさんの姿が見えなくなった後、俺は歩き出した。








「……嘘」

「ごめんなさい。まさか、下着があそこまで高いとは思いませんでした」

 諭吉軍団、全滅しました。マスターに財布を返しながら私は謝ります。

「そ、そんな……ま、まぁ、ゆかりさんの為。ゆかりさんの為。ゆかりさんの為」

 呪文のように気持ち悪いことを繰り返し呟くマスター。

「ご、ごめんなさい」

「だ、大丈夫! 大丈夫だから! うん、大丈夫……それより、良いの買えた?」

 何気ないマスターの質問ですが、それは私の心を抉ります。

「……ええ。可愛いのが買えました」

「あれ? ゆかりさん、目が死んでるけどどうしたの?」

「いえ、何でもないんですよ……はい、何でもないんです。何でもないってことにしてください」

 もう、死にたい。

「う、うん……じゃあ、帰ろっか?」

 そう言いながらマスターは歩き始めます。

「ぁ……」

「ん? どうしたの?」

「い、いえ……何でもないです」

 さすがにこれ以上、ワガママを言うわけにはいきません。結局、何も言わずに私たちは帰路に着きました。






「ただいまー」

「ただいまです」

 大量の荷物を抱えたマスターの代わりにドアを開け、家の中に入ります。

「いやー、色々買ったね」

「はい、本当にありがとうございました」

 下着の入った袋を床に置いた後、頭を下げながらお礼を言います。

「ううん。気にしないで。これから、よろしくね。ゆかりさん」

「はい、よろしくお願いします」

 マスターとの二人暮らし。少しだけですが、不安です。私はちゃんと暮らせるのでしょうか?

「あ、そうだ。ゆかりさん、これ」

「え?」

 マスターが袋から何かを渡して来ます。包装されており、中身はわかりませんでした。

「これは?」

「いいから開けてみて」

 ニコニコしながらマスター。不思議に思いながら包装を剥がします。

「こ、これ!?」

 デパートで見つけた月と兎が刻まれたガラスのコップでした。とても可愛らしくて欲しかったのですが、値段を見て諦めた物です。

「う、嘘……マスター、これ!?」

「ゆかりさん、これの前を通るたびに見てたでしょ? だから、欲しかったのかなって」

 そう言えば、やたらとこのコップの前を通った気がします。

「もしかして、私が欲しい物を見つける為にわざとあの通路を?」

「まぁ、ね。最初からこのコップなんだろうなって予想はしてたんだけど間違えちゃったら恥ずかしいし」

 少しだけ顔を紅くしながらマスターは言います。

「……マスター」

「ん? ゆかりさん、何?」

「本当にありがとうございます。こんな私の為に」

 私はボイスロイドでありながら、三次元に召喚された得体の知れない存在なのですから。

「こんなって言っちゃ駄目だよ」

「え?」

「ゆかりさんはゆかりさん。ボイスロイドでも三次元に召喚されてもそれは変わらない。だって、ゆかりさんなんだから。こうやって、ゆかりさんをお話し出来て俺は幸せだよ?」

「……はい、ありがとうございます」

 ちょっと、ドキッとしてしまいました。どうして、マスターは時々、そんなに優しい笑顔で優しい言葉を言うのでしょうか?

 恥ずかしくて俯いているとチャイムが鳴りました。

「あ、布団が届いたみたいだね。ちょっと出て来るよ」

 マスターは立ち上がって玄関に向かいます。ですが、途中で私が置いた袋を蹴飛ばしてしまいます。蹴飛ばされた袋から私の下着が飛び出してしまいました。

「あ、ゆかりさん、ゴメン!」

「あ、駄目!!」

 私の制止を聞かずにマスターが急いで下着を袋の中に入れようとしますが、見てしまったようです。サイズを。

「……こ、これは」

「きゃあああああ!! み、見ないでください!! このへんたあああああいい!!」

「ガハッ!?」

 両手はコップで塞がれているので必殺ハイキックで思い切り、マスターの顎を蹴り上げました。

「ど、どうしてマスターはいつもいつも!!」

「ご、ごめんなさい……」

「知りません!!」

 私は下着を袋にブチ込んでお風呂場へ向かいます。買い物で汗を掻いたのでシャワーを浴びたかったのです。

(本当に! 三次元に召喚される前からですが、マスターには困ったものです!)

 声に出すわけにも行かなかったので、頭の中で文句を言いながら服を脱ごうとします。ですが、手が塞がれている事に気付きました。マスターが買ってくれたコップをまだ、両手で持っていたのです。

「……ふふ」

 思わず、お風呂場に持って来てしまったコップを見て笑ってしまいました。

(あーあ……なんか、もうどうでもよくなっちゃいました)

 あんなに怒っていたのにどうしてか、マスターのことを許してあげたくなりました。やっぱり、このコップを買ってくれたのは嬉しかったし、何より、私の不安が解消されているのです。いや、それだけじゃありません。私は何となく、察していました。




 これからの生活。マスターと一緒ならとても楽しいものになりそうです。

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