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「おはよう、ゆかりさん」
(おはようございます、マスター)
あの後、私はPCに戻りました。もちろん、意識はあります。
「実は、昨日、親から電話が来たんだ」
今日もマスターは私に話しかけて来ます。その表情は七夕前より優しく、寂しげでした。やはり、まだ引き摺っているようです。
「なんか、親戚が死んでその子供を引き取らなきゃいけないんだって」
カメラに向かってマスターは話します。向こうからはわかりませんが、私は目と目が合ってとても嬉しいです。
「その親戚の子とは昔、何度も遊んだことがあるんだって。あまり、覚えてないけど。向こうは今、18歳だから……8歳差かな?」
(マスター、26歳だったんですね。知りませんでした)
「そ、その……親戚の子が言うにはなんか、俺の家で暮らしたいようで……俺の両親の家で暮らすと学校を転校しなくちゃいけないからって……いいかな?」
(……従妹、ですか)
七夕前と変わったのはマスターだけではありません。私もあります。それは――。
「ああああああ!? ゆかりさん、ソフト消さないで!!」
自分の意志でVOICEROIDソフトを強制終了できるようになりました。
(幸せになってくださいとは言いましたが、早すぎます)
不貞腐れながらも私はソフトを起動させます。これもできるようになりました。
「で、その子が今から来るんだけど、見る? 見るなら、ソフトを消さないで」
(ふむ……ライバルの姿を見ることはいいことです)
「……ソフトを消さないってことは了解したってことだね」
マスターが笑顔で頷くと、チャイムが鳴りました。ライバルが来たようです。
「お、来た来た。俺も顔を覚えてないから楽しみだよ」
(美人だったら、ソフトを付けたり消したりして驚かせてやります)
「いらっしゃい……え?」
カメラには映っていませんがマスターが驚きの声を漏らすのは聞こえました。
「ちょ、ちょっといい? このカメラの前に来て」
「は、はい……」
マスターの従妹の声が聞こえました。それは何だか、どこかで聞いたことのあるような――。
「念のために名前、教えてくれる?」
そう言いながらマスターがPCの前に移動します。カメラはPCの横に付けられているので従妹の姿は見えました。どうやら、私に従妹の顔を見せようとしているようです。
(……え?)
「はい、今日からお世話になる。“結月 ゆかり”です」
そこには私の姿がありました。いえ、髪の色や顔のパーツなど、少しだけ違いますが、似ています。声も同様です。
「お兄さん、お久しぶりです」
「う、うん。そうだね、ゆかりさん」
「もう、昔みたいにゆかりで良いんですよ?」
嬉しそうに微笑むマスターの従妹の頬は紅く染まっています。マスターは驚きで気付いていないようですが、私にはわかりました。
(この子……マスターのことが)
これはマズイです。私似の高校生従妹などマスターの好みにドストライクです。秘蔵の画像フォルダに私と女子高校生の画像がたくさん、入っていますからわかります。
(マスター、逃げて! その子、マスターが目当てですよ! きっと、昔遊んでいた時に助けて貰ったとかで淡い恋心をずっと昔から抱いていた子ですよ! マスタあああああああ!!)
この後すぐ、私の存在が従妹にばれたり、色々とありましたがそれはまた、別のお話。
でも、それはとても騒がしくて、楽しくて、色んな縁を結えるお話。




