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結月祭シリーズ  作者: ホッシー@VTuber
第3章 今ヲ結エル月兎
18/26

6

「「……」」

 警察に保護された俺たちは事情を聞かれた。俗に言う事情聴取である。未成年であるゆかりさんとゆかりが夜遅くに帰るのは危険なため優先的に聞かれた。ゆかりさんが事前に話していたおかげで早めに終わったらしく、先に家に帰った。その後、俺と先輩が事情聴取を受け、今歩いて帰宅中である。まぁ、後日また呼ぶと言っていたが。

「……後輩君」

 少しだけ重い沈黙を破ったのは先輩だった。

「何ですか?」

「今日は、ありがとう。助けてくれて」

「いえ……結局、最後危険な目に遭わせちゃってますから」

 あのテロリストをちゃんと気絶させていればあの時、銃を向けられることはなかった。もっと俺がしっかりしていれば。

「でも、後輩君は罠だってわかっていながら遊園地に来たんだ。私のために」

「……」

「3年前もそうだった。同じ大学だったとは言え、ろくに話したこともない私を守ってくれた」

 まさか大学まで同じだったとは思わず、足を止めてしまう。先輩はそれに気付かずにどんどん先に進む。

「ねぇ、後輩君」

 やっと止まった先輩は俺の方を向いて笑う。先輩が立っている場所は丁度、街灯の下でそれはまるで先輩を照らすスポットライトのようだった。

「神様の試練って知ってるかい?」

「神様の、試練?」

「ああ。前、ゆかりに聞いた話なんだけど……神様の試練を乗り越えると1つだけ願いが叶うらしいんだ」

 知らなかったので首を横に振る。

「まぁ、だからと言うわけじゃないんだが、君のお願いを1つだけ聞こうと思ってね」

「俺の願い……」

「何でも言ってくれ。私にできることだったら何でもするよ」

「……先輩、お願いがあります」

「お? 早速かい? 言ってみなさい」

 俺の願いは決まっていた。





「いつまでも先輩のままでいてください」





 俺は怖いのだ。誰かを失うのが。誰かが変わっていくのが。

 ゆかりさんは電子の世界に帰って自我を失ったかもしれない。

 ゆかりは自殺したかもしれない。

 先輩は殺されたかもしれない。

 俺は今の生活が好きだ。家にゆかりさんがいて、ゆかりがいて、会社には先輩がいて。

 ゆかりさんとゆかりが喧嘩し、それを苦笑しながら止めてその話を先輩にする。そして、先輩は笑う。

 そんな生活が好きだ。

 だから、壊したくない。

「お願いです。先輩……変わらないでください」

「……それは、無理な相談だな」

「え」

 まさか断られるとは思わなくて放心してしまった。

「だって……」

 微笑みながら俺の元まで歩いて来た先輩は俺の頬に手を添えて――。





 ――口付けを交わした。





「っ……」

「私はずっと君のことが好きだったんだ。恋仲になりたいと思ってる」

「え、ええ?」

「ふふ、その様子だと全く気付いていなかったようだね。いやはや、鈍感な男を好きになると苦労するね」

 だって、そんな素振り一度も見せて来なかった。気付けるわけがない。

「い、いつからですか?」

「そうだね……それは言わないでおくよ。ヒントを言うと君に助けられた時かな」

 それは3年前のことを言っているのだろうか。でも、何となく違うような気がする。

「しかし、君の願いを聞くと言ってしまったから断るのも心苦しいな……よし、ならこうしよう」

 そう言いながら先輩は俺の両手を握って口を開いた。

「ずっと君の傍にいよう。例え、恋仲になれなかったとしても君から離れない。先輩として、1人の女として……私は私のまま、変わらず君の傍にいる。今を守る。約束しよう」

 断言した先輩。俺はそれを見てドキッとしてしまった。

「あ、あの……よ、よろしくお願い、します」

「それは恋仲になることを承諾したのかな?」

「い、いえ! それは……」

 俺の頭を過ぎるのはゆかりさんとゆかりの顔だった。

「すまない。意地悪なことを言ったな。許せ」

「え、えっと……」

「それでは帰ろうか」

「……はい」

 頷いた俺を見て先輩は再び、笑った。その顔はとても満足そうで――綺麗だった。






 なぁ、俺は守れたのだろうか。

 またお前に助けられたのではないだろうか。

 あの時、俺の背中を押してくれたのはお前なのではないか。

 そんな疑問ばかり浮かぶ。俺の背中にお前の温もりがあった。とても暖かくて優しい手。

 すでに何かが起こっているのは明白。そして、まだ何も解決していない。

 俺は――守れるのだろうか。

 この不安を心の奥底に押し込んでただ前に進んだ。





 この先に絶望が待っていると知らずに。












「えー、今日から隣に住む。よろしく」

「「「……えええええ!?」」」

 テロ事件から数日後、俺の住んでいたアパートの隣に引っ越して来たのは先輩だった。まさか物理的に傍に来るとは思わず、目を丸くしてしまった。因みにもう片方の部屋はまだ空いている。

「だって、約束しただろう? 傍にいるって」

 あ、待って先輩。今、そんな意味深なことを言ったら。

「マスター、お話しがあります」

「お兄さん、お話ししようか」

「お、落ち着こうか。2人とも」

 絶対零度の視線を向けて来るゆかりーズから逃げるように部屋へ戻る。ゆかりさんとゆかりも追いかけて来た。すぐに捕まって正座させられる。

「はは、本当に君たちは面白いな」

 騒ぎの元凶である先輩は笑っていた。あれから例の頭痛は起きず、一先ず先輩の命の危険はなくなったらしい。

(でも……結局、誰なんだろう? 犯人)

 そんな疑問を頭に思い浮かべた時だった。












「ふふ、ふふふ」









 突然、聞き覚えのない笑い声が部屋に響いた。すぐに立ち上がって壁に立てかけていた竹刀を取り出し構える。ゆかりさんたちもキョロキョロと辺りを見渡して警戒していた。

「ああ……そう。その眼です。その眼ですよ。貴方様」

 そんな声と共に俺たちの目の前にスッと誰かが現れた。そう、文字通り現れたのである。

「「この声……」」

 ゆかりさんとゆかりが同時に呟いた時、やっと現れた人物の全貌が明らかになった。腰まで伸びた黒髪。服装は白いワンピース。顔は絶世の美女と言っても過言ではないほど美しい。そして何より――おっぱいがでかかった。

「で、でかいッ……」

 呟いた瞬間、3人に頭を殴られた。

「ふふ……ずっと、ずっとこの時を待っていました。お会いしたかった」

 殴られた頭を擦っているとおっぱいさんが俺の腕に抱き着き、ダイナマイトを押し付ける。

「あ、貴女は……一体」

 後頭部に突き刺さる視線を気にしないようにしながら問いかけた。

「私ですか? そうですね。私はずっと見て来ましたが、顔を合わせるのは初めてですよね」

 微笑んだ彼女は俺の手を取り――。








 ――むにゅ。







 ――手をダイナマイトに埋めた。

「はああああああああああああ!?」

 しっかりと手に伝わる感触を感じながら叫ぶ。脳内を支配するのは柔らかな感触のみ。

「感じますか? 私のこのドキドキ。ああ、心待ちにしていたんです。この瞬間を」

「い、いい加減にしてください!」

 そこでゆかりさんがおっぱいさんから俺を引き剥がす。ちっとも惜しいなんて思っていない。

「貴女、一体何者なんですか!?」

「何を言っているんですか? 貴女は私に会ったこと……いえ、私の声を聞いたことがあるはずですよ? 8月6日に」

「8月6日……ま、まさか!?」

 そう、その日は『ゆかりさんが消えた日の前日』。そして、それを伝えたのは――。













「そうです。私は――神様です。ずっと見守っていましたよ。貴方様」











 おっぱいさんは神様でした。

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