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結月祭シリーズ  作者: ホッシー@VTuber
第3章 今ヲ結エル月兎
16/26

4

「うわぁ!」

 遊園地に到着した俺たちは一日フリーパスを買って園内に入った。すぐにゆかりさんが目をキラキラさせてアトラクションを眺める。

「ゆかりさん……今日は」

「へ? あ、わ、わかっていますよ? ええ、わかっています。今は先輩を探さなきゃいけませんよね。はい、わかっていますよ」

 そう言っているがものすごく落ち込んでいる。まぁ、遊園地には初めて来たし無理もないか。

「……全部、終わったらまた来よう」

「っ……はい!」

「それじゃ、先輩を探そうか」

「わかりました。携帯の方に遊園地の地図、送っておきますね」

 頷いたゆかりさんは少しの間、目を閉じた後、スマホを操作して俺にメールを送って来た。もちろん、メールアドレスも教えていない。だが、今は時間が惜しい。

 スマホを操作してゆかりさんから送られてきた地図を見た。

 この遊園地は大きく分けて5つのエリアに分かれている。東西南北+中央エリアだ。

 今、俺たちがいるのは南エリア。ここは入場口やお土産屋が多い。

 西エリアはアトラクションエリアその1。ジェットコースターやバイキングなど絶叫系が建っている。

 その反対側の東エリアはコーヒーカップやメリーゴーランドのような比較的落ち着いたアトラクションが並んでいるらしい。

 北エリアは少し変わっており、アトラクションは観覧車のみ。しかし、レストランなどの飲食店がある。

 残った中央エリアはステージだけだ。季節にあったステージパフォーマンスが行われるらしい。

(それにしても……この地図……)

 なんというかパンフレットっぽくない。不自然なほど無骨なのだ。エリアの紹介も箇条書きで書かなくてもよさそうなことまで書いてある。ステージの装置を操作する施設は中ではなくステージの外にある小屋にあるとか、消化器のある場所とか。

「くっ……」

 無理やり疑問を振り払い、地図から目を離して周囲を見渡すが人が多すぎる。ゆかりさんによるとこの遊園地は今日、オープンしたようだ。人も自然と集まる。この中から先輩を探さなくてはならない。

「あ、マスター! いました!」

「何っ!?」

 ゆかりさんが指さした方向を見ると遠くの方に先輩らしき人影を見つける。あの方向は……西エリアだ。

「ゆかりさん、行こう!」

「はい!」

 はぐれないように手を繋いで先輩の後を追いかけた。










「あれ……どこに行ったんだ?」

「人が多くてすぐに見失ってしまいましたね」

 俺もゆかりさんも先輩を見失ってしまった。現在地は西エリアなのだが、ここは絶叫系のアトラクションが多いため、大人が多い。子供は身長制限のせいで乗れないアトラクションがあるからだ。そのせいで視界いっぱいに人がいて探しにくい。ジェットコースターの前で立ち止まった。

「これからどうす……」





 ――バチッ!





 今後のことを話し合おうとしたらまた頭痛。今度はどんな運命に――。

「では、どうぞー」

「「え?」」

 笑顔で俺たちに言う男性。服装を見るからに遊園地の関係者のようだが。

「ほら、後ろの人が詰まっていますから」

「あ、はい……すみません」

 振り返るとかなりの人が並んでいた。これはもしかすると『俺とゆかりさんがアトラクションに乗る運命』に変わったのだろうか。こんなことならジェットコースターの前で立ち止まらなければよかった。俺に改変は通じないが他の人を改変して『俺たちもジェットコースターの列に並んでいるかのように見えるように』配置すれば巻き込めるようだ。さっきまでいなかったが俺たちの前にお客さんもいたし。

 促されるまま、俺とゆかりさんは前へ進む。

「ま、マスター……これは一体?」

「えっと、流されたけど。俺たちはジェットコースターに乗るらしい」

「じぇっとこーすたー、ですか?」

「まぁ……乗ればわかるよ」

 そう言えば、今回ゆかりさんは改変されていないようだ。犯人は何を考えているのだろう。

(これで犯人は俺以外の人を改変させて俺を巻き込めることと改変する相手を選べることがわかったな)

 ジェットコースターに乗り込みながら思考を巡らせる。

「マスターマスター! 格好いいですね、これ!」

 隣に座ってはしゃいでいるゆかりさんを見られたので満足です。可愛い。

「では、いってらっしゃーい!」

 係りのお姉さんが手を振って俺たちを見送るとジェットコースターが動き始めた。

「マスター! 見てください、すっごく高いです!」

 この可愛い生き物をどうすればいいのだろうか。先輩には悪いが少しの間、楽しもう。

「ああ、そうだね。でも、ジェットコースターの真骨頂はここからだよ」

「へ?」

「ほら、来るよ!」

 俺がそう言った瞬間、ジェットコースターはレールに沿って急降下を始めた。隣でゆかりさんの悲鳴を聞きながら俺も大声を上げた。ジェットコースターで大声を上げるのは礼儀だと思う。









「マスター! もう一回乗りましょう!」

 ジェットコースターから降りたゆかりさんは興奮しながら叫ぶ。最初は驚きのあまり、悲鳴をあげていたが途中から楽しくなったのか嬉しそうに叫んでいた。ゆかりさんは絶叫系が大丈夫な人らしい。むしろ、好んでいる。

「ゆかりさん、目的を忘れちゃダメだよ……」

「目的……あ、知っていますよ? 先輩を探すためにもう一度ジェットコースターに乗るんですよ。ほら、高い場所から探すのよくあるじゃないですか」

 時々、ゆかりさんはアホの子になってしまうようだ。それにテンションが上がると周りのことが見えなくなってしまうタイプみたいだ。お祭りの時もはしゃいでいたし。

「ジェットコースターにのりながら人は探せないでしょ……視界ブレブレだよ?」

「……ぶぅ」

 拗ねたゆかりさん、可愛い。

「さて……ん?」

 先輩を探そうと顔を上げたら見つけた。中央エリアの方に向かっている。

「ゆかりさん! いた!」

「あ、先輩です!」

 気持ちを切り替えて俺たちは先輩の後を追いかけた。だが、人が多くて上手く進めず、先輩との距離はなかなか縮まらない。中央エリアのステージを通り過ぎ、東エリアへ入った。

「マスター……先輩の様子、おかしくないですか?」

「……ああ」

 その間、先輩の背中を見るがいつも何かが違う。言葉にしにくいのだが、先輩らしくないというか。

「どこか操られているような……」

 そう、ゆかりさんの言葉がぴったりだった。つまり、今の先輩は犯人に操られていてどこかに向かっている。東エリアに入ってから北エリアの方に歩いていた。一体、何が――。




 ――パンっ!




 その時、少し遠いところからそんな音が聞こえる。

「なんでしょう、今の音」

先輩から目を離さないようにしながら問いかけてくるゆかりさん。でも、俺は答えられなかった。

「今の……」

 日々を暮らしていて聞くことのない音。しかし、俺にとってあの音は聞き覚えのあるものだった。

『あーあー。テステス。皆さん聞こえますかー?』

 あまりにも唐突な出来事に呆然としていると今度は放送がかかった。

『あー……なんというか、今の音聞こえたか? 聞こえたよな? 結構大きな音だったし。さて、何事かと思ってるかもしれないが簡単に言うと我々がこの遊園地を占拠しました』

 気だるそうに語る男。その声は聞いたことはない。でも、嫌な予感が頭をよぎった。

『証拠というか多分、そろそろ聞こえると思うけど……中央エリアにいる人たちはステージに注目してくださーい。行きますよー』

 男がそう言った後、またあの音が再度聞こえた。そして、悲鳴。

『はい。というわけで今、一人撃ちました。もちろん、銃で。そろそろ各エリアに俺たちの仲間が行くからその人たちの指示に従って行動してくれ。反抗した人はその場で撃つ。ほらこんな感じで』

 また銃声。誰か抵抗したのだろう。先ほどと同じような悲鳴がここまで聞こえる。

『んー、制限時間は適当に決めるから放送、聞いておいて。それじゃ皆、よろしく』

 ぶち、と乱暴に放送が終わった。すると、どこからかヘルメットを被った人たちが現われる。その一人が空に銃を向けて。

 ――パンっ!

 凄まじい轟音が響いた。

「それでは我々についてきてください。抵抗したら撃ちますので」

 銃を撃った奴は淡々と説明して他のお客さんを集めていく。先ほどの放送のせいか暴れる人はおらず、素直についていった。

「マスター……どうしましょう」

 俺の手を握って不安そうにゆかりさんが質問して来る。でも、俺はすぐに答えられなかった。

(あいつの服についてるワッペン……まさか!?)

 忘れたくても忘れられない。そう、3年前に電車をジャックしたあのテロリストたちが付けていた物と同じ物だから。つまり、今この遊園地を占拠しようとしている奴らは3年前のあいつらの仲間。

「大丈夫ですか? 顔、真っ青ですよ?」

 答えられなかった俺の顔を覗き込んで心配そうな表情を浮かべていた。そうだ。今はゆかりさんがいる。もう、あの時の悲劇を繰り返してはならない。そのためにも――。

「ゆかりさん、ついてきて」

「え、でもあの人たちのところへ行かなきゃ撃たれてしまうのでは?」

「さっき、チラリと見たんだけど先輩が北エリアに向かってた。多分、犯人に操られたままだ」

「犯人って……マスターの頭痛の原因の?」

「うん。今は時間がない。先輩を正気に戻して中央エリアに向かおう」

「わかりました」

 俺たちは奴らの目を盗んで北エリアへ向かった。















「くそ……いない」

 北エリアは飲食店が多く、隠れるスペースがたくさんある。そのおかげで今も奴らに見つかることなく先輩を探すことができた。

 ここまででわかったことは奴らは2人か3人でチームを組み、徘徊していること。だが、そこまで人数はいるわけではないようで一つのエリアに3人または4人ほどしかいない。この遊園地はさほど大きいわけではないのでそれぐらいで十分なのだろう。北エリアは2チーム徘徊していた。つまり、4人のテロリストがいるのだ。

「ゆかりさん、ここ北エリアのどこら辺?」

 休憩がてら物陰に隠れている時に質問した。俺が周囲を警戒し、ゆかりさんが地図を見てナビゲートしてくれている。上を見上げれば観覧車は見えるがそれだけで現在地を把握するのは厳しい。

「えっと……丁度、観覧車の真後ろって感じですね。私たちがいる反対側に観覧車の乗り場があります」

「……これだけ探していないとなると別のエリアに行ったのか」

「そうですね……ん? あのマスター、あれなんですか?」

 何かに気づいたのか不思議そうな顔で指をさすゆかりさん。彼女の視線の先には防犯カメラがあった。

「ああ、あれは防犯カメラだよ。悪いことをしてる人がいないか監視してるんだ」

「へー。じゃあ、あれを使えば先輩を見つけられるのでは?」

「そうかもしれないけどすぐに見られるわけじゃないし。そもそもどこで見られるかもわからな――」

「――いました」

「……はい?」

 意味が分からず、ゆかりさんを見ると彼女は携帯の画面を凝視していた。

「マスター、携帯貸してください」

「あ、はい」

 ポケットから携帯を取り出し、手渡した。さっき買ったとは思えないほどスムーズに画面を操作して遊園地の地図を出した。

「……なるほど。先輩は北エリアのここにいるみたいです」

「ゆ、ゆかりさん……今、何を?」

「え? 普通に防犯カメラの映像(・・・・・・・・)携帯に映しただけ(・・・・・・・・)ですよ?」

 さも当たり前のように言うゆかりさんだったが、驚きのあまり言葉を無くしてしまった。

「さ、マスター。テロリストさんたちは私が防犯カメラで監視しておきますので先輩のところに行きましょう」

「あ、ああ……」

 とにかく、今は先輩だ。急いで彼女を回収してゆかりさんに事情を聞かないと。そう決心して俺たちはまた移動を再開した。















「先輩!」

 ゆかりさんのおかげでテロリストに会うことなく先輩を見つけることができた。俺の声が聞こえたのか振り返った彼女だったが何の反応も示さない。近づくと目に光が宿っていなかった。本当に操られているらしい。

「しっかりしてください!」

「先輩、お気を確かに!」

「……あ、れ?」

 俺とゆかりさんが声をかけるとやっと目に光が戻った。先輩は掠れた声を漏らしながら周囲を見渡し、俺たちを捉える。

「後輩、君? それにゆかりさんも……なんで家に? デートしてたんじゃ?」

「よく見てください。ここは遊園地です」

「遊園地……どうしてこんなところに」

 混乱している先輩に手短に説明しようと口を開く。

『あー、テステス。聞こえますかー?』

 だが、それを放送に止められてしまった。

(まずい……)

「先輩、こっちです! ゆかりさんは防犯カメラであいつらの動きを監視!」

「はい!」

「え、えっと……」

 何か言おうとしている先輩の手を掴んで俺たちは飲食店と飲食店の間の狭い路地に入る。かなり狭いが何とか通ることができた。

「ゆかりさん、状況は?」

「……芳しくないですね。走りながら放送を聞いていましたが、タイムオーバーらしいです」

「もし、見つかった場合は?」

「殺すと言っていました」

 さすがテロリスト。やることが物騒だ。

「こ、後輩君! そろそろ説明してくれないか!?」

 痺れを切らしたのか先輩が声を荒げる。すぐに彼女の口に手を当てて押さえた。

「先輩、落ち着いてください。今、騒ぐと見つかってしまいます」

「……わかった」

 ジッと先輩の目を見つめると落ち着きを取り戻したのか息を吐いて頷いてくれた。

「ゆかりさんは防犯カメラと……できれば、あいつらの通信とか聞こえるようにできる?」

「やってみます。できました」

 承諾して1秒で完了していた。先輩に事情を説明した後、どうやってやっているのか絶対に聞こう。

「それじゃ、録音しておいて。俺の携帯も使っていいから」

「では、マスターの携帯に入っていた破廉恥な画像や映像に上書きしておきます」

「やめてえええええええええええええええ!」

 俺の秘蔵コレクションがああああああああ!

「コントしてないで早く教えてくれよ」

 俺の秘蔵コレクションがどんどん消えていく中、涙を流しながら先輩に今まであったことを説明する。事ある毎に『へー、マスターってこんなのが好きなんですか。そうですか。結局女はおっぱいですか』、『ふむふむ。なるほど、マスターは制服好きなんですね』、『あ、わ、私……こんなの書く人もいるんですね……参考までに私の携帯に送っておきましょう。いつか……私も……』と言う呟きが聞こえたが無視した。主に俺の精神を守るために。後半部分など満身創痍で何も聞こえなかった。

「なるほど……運命を改変する力、か。ありえるな」

 事情を説明するついでに考えた仮説を話すと先輩も納得してくれた。

「それでこれからどうします? このまま逃げますか?」

「それは無理だと思います」

 俺の提案をゆかりさんがバッサリと切り捨てる。ほんの少し顔が紅いのは気のせいだと思う。

「ステージ周辺の音を録音しながら聞いていたのですが、向こうも防犯カメラの映像を見ているそうです。他の遊園地はわかりませんが、この遊園地の出入り口は南エリアにある入口しかありません。他の場所から出るのは不可能です」

「入口から逃げようにも防犯カメラで見つかってしまう、か。入口に見張りを置いているだろうから見つかったらすぐに蜂の巣だろうな」

「……ねぇ、気になったんだけど。なんで二人共そんなに落ち着いていられるの?」

 真剣な表情で話し合っているゆかりさんと先輩に素朴な疑問をぶつけてみる。普通、こんな事件に巻き込まれたら慌てると思うのだが。こんな時に聞くようなことではないが、どうせタイムオーバーしているのだ。少しぐらいのんびりしてもいいだろう。

「なんでって……マスターがいるからですよ」

「お、おう……」

 真っ直ぐな信頼に思わず、ビックリしてしまった。恥ずかしくなって顔を背ける。それを見てゆかりさんも自分の発言を思い出したのか顔を真っ赤にして俯いた。何とも言えない空気が流れる。

「……そろそろ、潮時かな」

 そんなよくわからない空気を先輩の声が破った。なんだろうと先輩の顔を見ると覚悟を決めたような表情で俺を見ていた。

「後輩君……驚かないで聞いて欲しい」

「は、はい」

「……3年前。君は電車ジャック事件に巻き込まれたね?」

「そうです、ね」

「その時の生存者は二人。一人は後輩君……そして、もう一人は君と行動していた子だ」

 それを聞いて俺は目を丸くした。生存者が二人いることも俺が生き残ったことも新聞に載ったから知っていてもおかしくない。俺のプロフィールを見た先輩じゃなくても新聞を見ればすぐにわかることだ。だが、もう一人の生存者が俺と一緒に行動していたという情報は俺とあいつ、そしてその子しか知らない。あいつはもうこの世にいないから俺とその生存者の子しか知りえない情報だった。

「……まさか」

 先輩が俺の家に来た日、彼女は3年前のことについて話すと言っていた。しかも、覚悟を決めたような表情で。それほど辛いことだったのだと自己解決していたのだが、今思いついたことが本当だとしたら辻褄が合う。

「わかったかな? そうだよ。私が……あの時の生存者。後輩君と君の親友に守られたか弱い女の子さ」

「……」

 なんと言えばいいのかわからなかった。髪型もそうだが、あの時の子と今の先輩の雰囲気は全く違う。確かによく見れば目や口元はあの子と似ている。いや、本人だから似ているという言葉はおかしいのだが。

「ずっと、言えなくてすまなかった。あの頃の君は本当に、危なかった。もし、私が生存者だと言ったらどうなるかわからなかったから……本当にすまない」

「謝らないでください。あの頃の俺は……先輩の言った通り、危なかったですから。俺だって言えませんよ。そんな状況なら。それにしても……」

 先輩があの時のあの子、か。先輩を疑っているわけではないが未だに信じられない。

「どうしたんだ、後輩君?」

「その……あの子と先輩が同一人物だと信じられなくて」

 当時の先輩は結構、弱々しいイメージだった。俺と話す時はおろおろしていたし。口調も今と全く違う。昔は女の子っぽい口調だったが、今は全く安定しない。どこか無理しているような感じだ。

「……あの、失礼かもしれませんが先輩の口調が安定しないのってあいつの真似をしてるからですか?」

「っ!? よくわかったな」

「先輩、何だか負い目を感じてるみたいでしたから……ですが、もう大丈夫ですよ? 無理しなくても」

 今の俺にはゆかりさんやゆかり、そして先輩がいる。自暴自棄になっていたあの時とは違う。俺を支えてくれる人たちがいるのだ。

「あー……そのことなんだけど、なんか変な癖が付いちゃって。元に戻そうにも戻せないのだ」

「なんというかごめんなさい」

 先輩の口調が変になってしまったのは俺のせいだ。頭を下げて謝った。

「謝る必要はない。こうなったのは私の意志だ。むしろ、感謝したいぐらいだよ。あの頃の私は弱かった。何をするにも勇気が足りなくて何もできなかった。でも、後輩君と出会って私は少し変われた。だからありがとう」

「……いえ、こちらこそありがとうございます」

「ああ、そうだ。さっきの質問の答えだが……私も同じだ」

「え?」

「君がそばにいてくれるなら安心できる。あの時(・・・)のように私を守ってくれ」

 その言葉を聞いて俺はゆかりさんと先輩を見た。こんな俺を信頼して隣にいてくれる。それはとても嬉しくて幸せなことだ。今の俺にあの頃の動きはできない。でも、二人を守りたいという気持ちはあの時以上だ。

(なぁ、見てるか?)

 心の中であいつに呼びかける。俺を守ってくれたあいつの笑顔が脳裏をよぎる。しかし、もう震えない。怖くない。怯えない。迷わない。

「二人共、よく聞いてくれ」

 だから、俺は行動する。守りたい人を守るために動く。最善を尽くすのだ。

「テロリストを倒すぞ」

 皮肉にも3年前と同じ台詞を言う。もうあの時の悲劇を繰り返さないために。

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