1
皆さん、こんにちは。結月ゆかりです。
さて、今、大変なことになっています。私はお茶を飲んでまったりしていますが。
「……」
「……」
そう、マスターの仕事場の先輩が家に押しかけて来て、私たちの秘密を暴いてしまったのです。そして、マスターに私たちのことを説明するように要求しました。ですが、マスター自身――いえ、ここにいる人全員、従妹が私に似ている原因、私が三次元に再召喚された原因を知りません。なので、先ほどからマスターは黙ったままです。
「……ねぇ。後輩君」
痺れを切らしたのか先輩が先に口を開きました。
「は、はい」
「私に説明、出来ないの? 私の中で君とはそれなりに仲の良い先輩後輩の関係を築いていたと思っていたのだが……寂しいな」
「そうじゃないんです!」
シュンとする先輩に叫ぶマスターでしたが、すぐに俯きます。
「その……俺たちもよく状況がわかっていないんです。だから、どうやって説明したらいいのかわからなくて……」
「状況がわからない? てっきり、ゆかりさんとゆかりさん似の従妹を手中に収めてうはうはライフを送っているものかと」
「何ですか、うはうはライフって!? そんな淫らそうな生活なんか送ってませんよ!?」
「うはうはライフ……きゃっ」
マスターが絶叫する中、ずっとマスターの傍を離れない従妹が嬉しそうに顔を紅くします。私は先輩の言っている意味がわからず、思わず首を傾げてしまいました。
「まぁ、冗談はこれぐらいにして……最初からでいい。順番に話してくれ」
「……はぁ。わかりました。結構、長い話になってしまいますが、いいですか?」
「ああ」
先輩の承諾を得たマスターはゆっくりと話し始めました。
今年の夏の七夕に私が三次元に召喚されたこと。
立秋の日に電子の世界に戻ったこと。
それからすぐに私似の従妹がマスターの家に住み始めたこと。
私と従妹が聞いた声のこと。
また私が三次元に再召喚されたこと。
そして――従妹の写真のこと。
「……」
その全てのことを話し終わった後も先輩はしばらく、口を開きませんでした。
「……一つ、いいか?」
「はい? 何でしょう?」
「ゆかりさんとゆかりが聞いた声……確かに、3年前と13年前のことを言っていたんだな?」
「はい、間違いありません」
今でもあの声を鮮明に思い出せます。
(……ん?)
その時、ちょっと違和感を覚えました。
「ゆかりさん、どうしたの?」
それを見ていたのかマスターがすぐに声をかけて来ました。
「いえ……あの時の声、どこかで聞いたことがあるような気がして……」
「え!? 本当に!?」
私の呟きを聞いて従妹が目を丸くします。どうやら、彼女には聞き覚えはなかったようです。
「ええ……ですが、はっきりとそうだとは言えません。何となく、そう感じただけですから」
何でしょう。あの声のことを思い出そうとすると胸の奥がキュっと締め付けられました。そのせいでしょうか、不安になって来ました。
「そっか。情報、ありがと」
あまり役に立ちそうになかった情報でしたが、マスターは微笑んでお礼を言ってくれました。何だか、それだけで胸がポカポカと温かくなります。先ほどの不安など吹き飛んでしまいました。
「……それで? その13年前と3年前の共通点は思い付いたのかい?」
そんな私たちをジト目で見ていた先輩でしたが、すぐにマスターに質問しました。
「いえ……俺が事故に巻き込まれてる以外、何もわかっていません」
「事故? 13年前にも巻き込まれてたの?」
「うん。採掘現場の落石事故だよ」
先輩の疑問に素早く答える従妹。前は落石事故のことを話そうとすると苦しそうな表情を浮かべていた従妹でしたが、今は堂々としていました。
「そうか……すまない、少し考えさせてくれ」
「あ、はい」
「それと、いくつか質問すると思う。出来るだけ答えて欲しい」
先輩の言葉に私たち3人は頷きます。やはり、問題を解決する時は人数が多い方が何かと便利です。自分では思い付かないようなアイディアを他の人が出してくれる可能性があるからです。
「まずは確認だ。後輩君、君は今年の夏に女性用の下着の買い方を教えて欲しいとお願いして来たね?」
「ッ……は、はい」
「しかも、従妹が泊まりに来てると言って」
そう言えば、そんなこともありました。色々と大変だったのを覚えています。まず、出かける前に靴がなかったので、下駄箱に入っていた可愛らしい靴を貸して貰ったり、あのガラスのコップをプレゼントしてくれたり、下着のサイズに絶望したり。
「ちょ、ちょっと!? お兄さん、私の名前を使って何てことを聞いてるの!?」
少しだけブルーな気持ちになっていると、従妹が立ち上がってマスターの胸ぐらを掴み、持ち上げます。すると、マスターの体はいとも簡単に持ち上げられてしまいました。
「ゆ、ゆかりッ……くるしッ」
「ゆかり、落ち着け。これには事情があったみたいだ。な? ゆかりさん?」
腕を組みながら私の方に視線を送って来る先輩はすでに気付いているようです。
「はい、実は私の下着を買うためにマスターが先輩に頼んでくれたのです」
「え?」
「つまり、下着の買い方を教えてくれとお願いして来た時、すでにゆかりさんは三次元に召喚されてたわけだね?」
「そうなります。七夕から二日後のことだったと思いますので」
「なんだ……てっきり、お兄さんがいけない趣味に目覚めたのかと……」
やっと従妹が力を抜きます。ですが――。
「――」
すでにマスターは落ちていました。白目を向いてピクピク痙攣しています。とても、気持ち悪いです。
「あ……」
それに気付いたのか従妹の額から冷や汗が流れ始めました。
「それにしても、ゆかりは怪力なんだな。まさか、成人男性を軽々と持ち上げるとは思わなかった」
「そうですね。私も吃驚です。何かスポーツでもやってるんですか?」
「うわあああああああああああ!! お兄さん、ごめんなさあああああい!」
私の質問はスルーされ、マスターが目覚めるまで従妹はマスターの体を揺すり続けました。
「さて……後輩君も目が覚めたことだし、仕切り直しと行こう」
「……ええ、そうですね」
先輩の言葉に頷くが、まだ意識ははっきりしておらず、フラフラだった。隣でゆかりが申し訳なさそうに縮こまっているので口にはしないが。
「次だ。ゆかり、13年前の事故について質問させて貰う」
「え? あ、うん……」
「本当に採掘現場の落石事故なのか?」
先輩の目が鋭いものに変わった。だが、その問いの意味がわからない。ゆかりがそう言ったのだからそうなのではないのだろうか?
「……」
普通ならば、すぐに肯定するはずがゆかりは俯いたまま、何も話さない。様子がおかしい。
「いや、質問を変えよう。落石事故の原因は何かね?」
「落石事故の原因?」
「……地震。ゆかりさんは聞いたことないかもしれないけど、先輩とお兄さんなら聞いたことあると思う」
「13年前の地震……あっ!?」
そう言えばあの頃、よくテレビでやっていた。復興やら募金やら色々なニュースが流れていたのだ。病室のテレビで見ていた。
「じゃあ、俺たちが巻き込まれたのは……」
「採掘現場の落石事故などではなく、その大地震だ。今、携帯で検索をかけて調べたが、相当な人が被害にあってる」
「……その事故で私はお母さんを亡くしたの。そして、私とお兄さんは採掘現場で遊んでてそのまま、落石に巻き込まれた」
「そんなことが……」
13年前の記憶は曖昧だ。しかも、周りの人も詳しく教えてくれなかった。もし、教えて貰っていたら記憶が戻り、苦しんでしまったかもしれない。それを防いでくれたのだろう。
「ん? 後輩君も巻き込まれたのだろう?」
俺のリアクションがおかしいと思ったのか先輩が訝しげな表情を浮かべて問いかけて来る。
「えっと……その落石事故の時に頭を強く打ったようで記憶が……」
「……君ほどの逸材が落石を躱せなかったのかい?」
「あの時、私を守るために……庇ってくれたから」
ゆかりが即座に補足する。何故、顔を紅くしたのかは聞かないでおいた。
「……あの、すみません。少し気になったことが」
その時、ゆかりさんが手を挙げて発言権を得ようとした。
「どうしたの?」
「いえ……先ほどから先輩の物言いがおかしいなって」
「物言い?」
「先輩はマスターのことを『君ほどの逸材』と言いました。それに『13年前にも』とも……それって3年前にマスターが事故に巻き込まれたって知ってたわけですよね? 先輩はマスターの何を知っているんですか?」
ゆかりさんの言葉を聞いて俺は思わず、先輩を睨んでしまう。
「……何、少しだけ後輩君の過去を知ってるだけさ。前にも言っただろう? プロフィールは見たことあるって」
「……その時に知ったんですか?」
自然と声音が低くなる。
「そんな怖い顔しないでくれ。君らしくない」
「あ、すみません……」
やはり、まだ乗り越えていないようだ。先輩は何も悪くないのに睨んでしまった。自分が嫌になる。
(……いつになったら、前に進めるんだろうな)
「あ、そっか……お兄さんは……」
心の中でそう呟いているとゆかりも思い出したのか、そう言った後すぐに口を閉ざした。
「え? ええ? 私だけ知らない感じですか? 教えてくださいよ!」
俺、ゆかり、先輩を見てゆかりさんは少しだけ涙目になって聞いて来る。
「……」
俺は答えられなかった。いや、答えたくなかった。今更、どうにかなるようなことじゃないから。
「「……」」
ゆかりも先輩も俺と同じなのか、キュッと口を閉ざしていた。
「……教えて、くれないのですね」
そんな俺たちの様子から何か事情があると察してくれたのかゆかりさんが俯いてそうごちる。
「ゴメン……まだ、話したくなくて」
この話をするということは3年前の話をしなくてはならない。
――やめておかねーか? なんか、嫌な予感がする。ほら、徒歩で行こうぜ。
今でも、たまに夢に出て来るあいつの声を思い出して、目の前がぐにゃりと歪む。
「ま、マスター!?」
「お、お兄さん!?」
眩暈のせいでバランスを保てず、慌ててテーブルに手を置くとゆかりさんとゆかりが心配そうな表情を浮かべて両側から支えてくれた。
「あ、ありがと……大丈夫だよ」
あれから3年も経っているのに、まだあの時のことを思い出すと目の前が真っ暗になる。
(早く……忘れないと、な)
「……その様子だと3年前の話はしない方がいいね。また後日にしようか」
そして、そんな俺を見て先輩がそう言った。どうやら、そのことも知っているらしい。
「先輩って……俺のこと、結構、知ってたんですね」
「まぁ、ね。プロフィールに書かれてたから。君がそう書いたんだろう?」
確かに、履歴書に3年前のことを書いたがそこまで見られているとは思わなかった。
(でも……あいつのことも書いたっけ? それに――)
3年前の事件。そして、先輩が話そうとしている3年前のこと。これは、偶然なのだろうか。もしかしたら先輩は――。
「さてと……何だか、空気が重くなってしまったね。結構、長く話してたみたい」
そんなことを思っていると先輩がパンと手を叩いて言った。
「あ、もう7時か……先輩、晩御飯食べて行きます?」
チラリと時計を見るとすでに午後7時を越えていた。今日は色々あって疲れたけれど、お腹は空く。生きているから。
冷蔵庫の中身を思い出しながら立ち上がり、先輩にそう問いかけた。
「いいのかい?」
「ちょっと食材がないので買い出しに行かないといけませんが大丈夫ですよ。俺たちのために来てくれたんですから晩御飯ぐらい出します」
ご馳走すると言っても簡単な物しか出来ないだろうが。
「まぁまぁ、少し待ちたまえ後輩君」
台所へ向かおうとした矢先、先輩に後ろから右肩を掴まれてしまった。嫌な予感がする。
「何を待つんですか?」
「君は今、とても疲れているだろ? まだ顔が真っ青だからわかるさ。そんな君に料理などさせてみろ。包丁で指を切断するかもしれない」
「そんなヘマはしませんって……何年、料理してると思ってるんですか」
「油断大敵。慢心ダメ絶対。気が緩んでる時が一番、危ないんだぞ?」
何となく、先輩の思惑が分かって来た。でも、ゆかりさんとゆかりがいるのだ。何としてでも阻止しなくてはならない。
「駄目ですよ? ゆかりさんとゆかりは未成年なんですから」
「おお、君は私の考えがわかるのかい? さすが、私の後輩君だ」
「お兄さんは私のお兄さんだよ」
「従妹、マスターは私のマスターです」
「はい、そこの2人は黙っててねー。わかってくれました?」
会話に割り込んで来たゆかりーズに軽く手を振って宥めながら先輩に問いかける。
「だが、私は諦めない」
「だから、未成年が2人もいるのに宴会なんかするわけないでしょう!?」
そう、この先輩は何かある毎に飲み会だと言って俺を連れ回すのだ。しかも、かなりの呑兵衛で酔ったところなどほとんど見たことない。そして、酔った場合、とても面倒なことになる。
(服を脱ごうとした時はマジで焦ったなぁ……)
「後輩君、こう考えてはどうだろう?」
苦い思い出を思い出していると先輩がキメ顔で提案して来た。
「君はとても辛いことを思い出した。その顔を見ればわかるよ。その辛い思い出を酒で紛らわすのさ」
「……上手いこと言って宴会を開かせようとしないでください」
まぁ、気分は先輩の言う通り、どん底なので酒で紛らわせたいのは山々だが。
「じゃあ、会社の人に下着の話を――」
「よーし! ゆかり、買い物に付き合え! 今日は宴じゃあああああ!!」
一生、先輩に逆らえないと悟った瞬間だった。
宴会が始まって2時間。もう、俺の部屋はカオスだった。
「あ、あの……私、未成年ですから」
「あぁ? 私の酒が飲めないってぇ?」
「先輩! そのコップ、ちょっと汚れてるみたいなので、代わりのコップをどうぞ!」
たいして汚れていないコップを無理矢理、奪って新品のコップを手渡す。
「おお、すまないね。後輩君」
「ささ、新しいお酒でございます」
そう言いながらリンゴジュースを先輩の持っているコップに注ぐ。
「苦しゅうない苦しゅうない。ほれ、この酒を飲んでみれ。ゆかりさん」
「……わかりました」
俺の一連の動作を見ていたゆかりさんがリンゴジュースの入ったコップを先輩から受け取り、飲み干した。
「いい飲みっぷりだねぇ! ゆかりさん! あっはっはっは!!」
「いえいえ。先輩もどうぞどうぞ」
コップをテーブルに置いて別のコップにビールを注いで先輩に渡すゆかりさん。見た目は社長を接待している女子社員だった。
「ありがと。あれ? ゆかり、君は飲んでないねぇ! ほら、このビールを飲みたまえ!」
「うっ」
テーブルの料理をちまちまと食べていたゆかりを飲んだくれが捉えてしまった。
「おっと、先輩! すみません、どうやらそのビールはあまり冷えていないようなのでお取替えします!」
「え、そう?」
「そうなんですよ。ささ、こっちのコップに入ったビールをどうぞ」
俺は素早く炭酸飲料の入ったコップを渡す。味はオレンジだ。見た目はビールと似ていないけれど、今の先輩なら――。
「後輩君、君は本当に気が利くねぇ! ゆかり、お兄さんがくれたビールだぞ! 飲め飲め!」
――見間違えるだろう。それほど酔っているのだから。
「……うん、ありがと。先輩」
ゆかりは大人しくコップに入っているオレンジ味の炭酸飲料を飲む。それを見ながら先輩はニヤニヤと笑っていた。
(疲れた……)
先輩は酒を飲んで辛い気持ちを紛らわせようと言っていたが、俺が酔う前に先輩が酔ってしまったのだ。そして、ゆかりさんやゆかりに絡んでいるのだった。さすがに未成年にお酒を飲ませるのは駄目なので、さりげなくフォローして難を逃れている。
「いいなぁ、後輩君……こんな可愛い子と一緒に住んでるなんて」
右にゆかりさん、左にゆかりを侍らせながら俺を睨む酔っ払い。俺からしたら今の先輩はキャバクラに通う中年オヤジにしか見えない。
「大変なことも多いですけどね。楽しいですよ」
今は静かだが、よくゆかりさんとゆかりは喧嘩をする。止めるのに苦労するけれど、何だか悪い気がしないのだ。
「……そっか。よかったね――君」
「「え?」」
先輩は何か言ったが、あまりにも声が小さくて上手く聞き取れなかった。しかし、ゆかりさんたちは近くにいたので聞こえたのだろう。目を丸くして先輩を見た。
「ん? どうしたのかな? 2人とも」
焦点の合っていない目で2人に問いかける先輩。まぁ、あれだけ飲めば泥酔するのもわかるが、この酔い方は初めて見る。
(まるで、俺じゃなくて先輩が酒で気持ちを紛らわせようとしてるようだ)
「い、いえ……今、先輩がマスターのことを――」
「――あ! そうだ!」
そんなことを考えているとゆかりさんが戸惑いながらそう言いかけるも先輩がそれを遮ってキョロキョロと辺りを見渡す。何かを探しているようだ。
「どうしたんですか?」
「後輩君、確かお菓子買って来たよね? どこにある?」
「お菓子ならここにありますけど」
ゆかりと一緒にコンビニで買って来て袋に入れたままだったお菓子類を先輩に見せる。
「ちょっと貸してー」
「はいはい」
袋ごと先輩に渡した。
「あるかなー?」
袋に顔を突っ込んでお目当てのお菓子を探すその姿はちょっと可愛く見えた。
「あったあった」
そう言いながら取り出したのは、最近『彼女アイドル』として売れているアイドルがパッケージに書かれた最後までチョコたっぷりな棒状のお菓子だった。なんでそれを取り出したのか俺たち3人が首を傾げている中、封を切る先輩。
「ゲーム、しよ?」
少し顔を紅くしながら先輩が最後までチョコたっぷりな棒状のお菓子を口に咥えながら俺に向かって言う。普段、テキパキと仕事をしている先輩とのギャップが凄まじく、思わずドキっとしてしまった。
「げ、ゲーム……ですか?」
動揺してしまったせいか、噛んでしまう。
「そう、ゲーム……このお菓子の両端からお互いに食べ合うの。そして、先にお菓子から口を離した方が負け。事故が起きても何も文句は言わない。どう?」
一種のチキンレースである。よく宴会などでやるポッ○ーゲームの最後までチョコたっぷりな棒状のお菓子版だ。
「事故……ですか?」
「そう、事故」
先輩が俺の目の前まで移動して来た。そして、俺と視線を合わせてお菓子を突き出す。俺はそれに引き寄せられるようにお菓子の先端を咥え――。
「ちょっと待ってください!」
「ちょっと待った!」
――ようとした時、俺と先輩の間にゆかりさんとゆかりが割り込んだ。どうやら、助けてくれたらしい。
「私がやります!」
「私がやる!」
助けてくれたわけではなく、ポッ○ーゲームがしたかっただけのようだ。
「そう、じゃあ二人でどうぞ」
先輩はそう言いながら新しい最後までチョコたっぷりな棒状のお菓子をゆかりさんの口に突っ込む。
「むぐっ!?」
突然、口にお菓子を突っ込まれたゆかりさんは目を白黒させて俺の方を見た。そのまま、俺の方に寄って来る。しかし、それを止めたのは先輩だった。
「ゆかりもやりたいんだから、2人でやればいいじゃん」
「え!? いや、そう言うわけじゃ……」
「いいからいいから」
「ちょっと! うぐっ!?」
ゆかりさんの顔を右手で固定したまま、ゆかりの頭を左手で掴んで無理矢理、お菓子を咥えさせる。
「さ、ゲームスタート!」
満面の笑みを浮かべてそう宣言した先輩だったが、ゆかりさんとゆかりは動こうとしない。まぁ、まだ頭を先輩に捕まれている状態なので動こうにも動けないのだが。
「ん? どうして動かないのかな?」
「先輩が頭を掴んでるからですよ」
「あ、そっか。じゃあ、これでいいだろう」
俺の指摘を聞いてやっと気付いた彼女は手を離す。頭を開放されたゆかりさんとゆかりはお互いに頷き合い、ちょっとずつお菓子を食べていく。ある程度、食べて同時に口を離そうとしているようだ。
しばらく、お菓子を咀嚼する音が部屋に響く。
「んー、何だか盛り上がらないなぁ」
それを見ていた先輩は首を傾げながら呟いた。無理もない。ここにいる4人中2人がゲームしているのだから盛り上げる人が少ないのだ。
そろそろ、お菓子の長さが半分になって来た。そこで2人とも、食べ進めるのを止めてタイミングを合わせて口を離す。
「ほら、もっと勢いよく食べなきゃ!」
だが、離す前にまた先輩が2人の頭を掴んで押した。
「「っ!?」」
突然、頭を押されたゆかりさんたちはどうすることも出来ずに、その距離をゼロにする。
「あ……」
それを見た俺は思わず、声を漏らしてしまった。俺が呆然とする中、距離を置こうと暴れるゆかりさんとゆかりだったが、先輩が頭から手を離さないのでずっと口をくっ付けたままだった。
「あっはっは! いやぁ、事故が起きちゃったね! あっはっは!」
ゆかりさんたちが先輩の太ももをタップしているも、全くそれに気付かない先輩は大きな声で笑っている。彼女たちの必死なタップもどんどん弱くなっていき、最終的に動かなくなった。
「せ、先輩……いい加減、離してあげてくださいよ」
「あら、ゴメンゴメン。忘れてた」
先輩が手を離すと同時にゆかりさんとゆかりは背中から倒れてしまう。すぐに容態を確認するが、気絶しているだけのようだ。抱っこしてベッドに寝かせ、布団をかけてあげる。2人の寝顔はとても苦々しいもので、うなされていた。
「全く……先輩、はっちゃけるのも大概にしてください……って、寝てるし」
振り返って先輩に注意するも気持ちよさそうに眠っている彼女の姿があった。それを見てため息を吐きながら毛布をかける。
「……これ、俺が片づけるのか」
立ち上がって周りを見渡ながら呻き、途方もない片づけ作業に入った。




