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結月祭シリーズ  作者: ホッシー@VTuber
第1章 夏秋ヲ結エル月兎
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 今日は7月7日。七夕です。

「あっちぃ……」

 そんな日にマスターはベッドに横になってダレています。服も半そで、短パンとだらしない恰好です。

(全く、困った人ですね……)

 私はPCに備え付けられているカメラでマスターの姿を見てため息を吐きました。

 あ、自己紹介が遅れました。私の名前は結月ゆかり。VOICEROIDです。

 私がこのPCにインストールされてから早半年。マスターは毎日、私を喋らせて遊んでいます。暇な人ですね。

 多分、ほとんどの人がどうして私に意識があるのか気になっていると思いますが、理由は簡単です。奇跡が起きたのです。

 私が目を覚ました時にはもう、このPCの中にいました。その時、わかっていたことは自分がVOICEROIDだと言うこと。そして、マスターがマスターであること。カメラを使えば外の様子がある程度、わかるということでした。最後にこのPCにインストールされているVOCALOIDも意識があり、私と共有しているということ。まぁ、簡単に言ってしまえばVOICEROID の私もVOCALOIDの私も私であるということです。

 こうやって、意識はありますが勝手に動くことはできません。喋ることもできませんし、PCの電源が落ちたら私も眠りにつきます。

(マスター、PCの電源付けっぱなしで何をしてるのでしょうか?)

 きっと、PCを付けたことすら忘れていると思われます。よくありますから。

「あーあ……いいこと、ないかなー」

 マスターが誰にともなく、そう呟きました。どうやら、平和な日々に退屈しているようです。マスターは中二病ですからわかります。

(私にもよく、変なこと喋らせますからね……痛いことから、そ、その恥ずかしいことまで……)

 私がその単語を喋ればマスターは気持ち悪い笑みを浮かべます。私でも引くほどです。

「あ、そう言えば……今日、七夕か」

 体を起こして、カレンダーを見ながらマスターがまた独り言を言います。

(七夕って確か、笹に願いを書いた短冊を飾ったりするお祭りですよね?)

「暇だし、飾るか……」

 マスターはベッドから降りてどこかに行ってしまいます。丁度、カメラの死角になっており見えません。

「よっと……さて、次に短冊か。まぁ、適当な紙を長方形に切ればいいな」

 マスターはPCが乗った机に近づいて来て、引き出しの中からハサミを取り出します。そして、ちょきちょきと自作短冊を作成しました。

「願い事は……よし」

 ボールペンで短冊に願い事を書いたようでマスターは満足げに頷きます。

(み、見えない……)

 マスターの身体が邪魔で短冊に書かれた願い事は見えませんでした。

「ゆかりさん、ちょっと手伝ってね」

 笹に短冊を飾った後、マスターはPCの前に来てキーボードで何かを打ち込みます。どうやら、願い事を私に喋らせるようです。

「これでよし。じゃあ、同時に行こう」

 因みにマスターは私に意識があることを知りません。でも、いつも私に向かって話しかけて来てくれます。傍から見たら痛い子ですが、私はとても嬉しいです。

 マスターはいつもの気持ち悪い笑みを浮かべながら再生ボタンを押しました。

「「ゆかりさんと一緒に楽しい夏を過ごせますように」」

(それが願い事?)

 私は喋り終わった後すぐに呆けてしまいました。まさか、マスターがそんな願い事をするとは思わなかったからです。

「……うん、満足満足♪」

 マスターは何故か、優しい笑顔を浮かべてそう言いました。その笑顔はいつもの気持ち悪い笑みではなく、まるで愛する人を見るような笑みでした。

(ま、マスター……)

 マスターの顔を見ることができなくて、カメラの電源を切ります。きっと、生身の体なら赤面していると思います。

(この状況を見た人は『恋愛フラグktkr』とか『トゥンク』とか思うのでしょうが……)

「デュフフ……ああ、ゆかりさんと夏祭り行きたいなぁ!!」

 そのフラグを折るのがマスターです。もう、幻滅です。死んでもいいと思ってしまいます。

(何で、こんな人がマスター何でしょう……)

 カメラの電源が切れているのでマスターの表情は見えませんが、いつもより気持ち悪い笑みを浮かべているに決まっています。

「じゃあ、今日はそろそろ寝ようかな」

 時刻は午後9時です。言っておきますが、マスターは二十歳を超えた男です。社会人です。でも、ニートではありませんので安心してください。

「おやすみなさい、ゆかりさん」

(……おやすみなさい、マスター)

 一方的な挨拶を交わした後、マスターがPCの電源を消して私は眠りにつきました。















(何だ?)

 何だが、いつもと違うような気がする。俺は寝惚けた頭でそう感じた。

 ベッドが小さくなったような――いや、ベッドが狭い?

「ん、んん?」

 目を開けて状況を確認する。時刻は午前5時半。いつもより30分ほど早い起床。体を起こしてキョロキョロと部屋を見渡してもいつも通り。

「さむっ」

 そして、俺の隣で寝ている結月ゆかりさんがそう呟いた。きっと、俺が体を起こした時に布団がずれてしまったのだろう。

「おっとっと」

 急いでゆかりさんに布団をかけ直し、ベッドを降りてPCを付ける。まず、朝起きたらやることはゆかりさんとの挨拶だ。

「……ん?」

 PCが起動するのを待っていると何かいつもと違ったことがあったこと気付く。

 振り返るとゆかりさんがベッドでスヤスヤと寝ていた。うん、可愛い。いや、綺麗だ。

(……いやいや、ちょっと待って)

 目を擦ってもう一度、見る。やはり、ゆかりさんだった。

「え、ええええ!?」

 見た目は二次元ではなく、三次元だ。ゆかりさんが二次元から三次元に現れた姿と説明されれば納得してしまうほどゆかりさんに似ている。

(待って、ちょっと待って! 何で、何で!?)

 パニックに陥り、あたふたしているとゆかりさんが欠伸をしながら体を起こした。

「あ、マスター……おはようございます」

「お、おはようございます」

 思わず、返事をしてしまった。

「あれ? いつもの気持ち悪い笑みじゃない?」

 めちゃくちゃ失礼なことを言われた。その場で体育座りしてしまうほどの精神的ダメージを受けた。

「……あれ?」

 その時、ゆかりさんが自分の体をペタペタと触り始める。ツヤツヤの紫色の髪。華奢な体。そして、ペッタンコの胸。

「今、何を考えたんですか?」

「え? いや、ゆかりさんってやっぱりペッタンk――」

「成敗ッ!」

「ごふっ……」

 ゆかりさんの鉄拳を喰らってその場で悶える。

「全く、マスターは困った人ですね……」

 ため息を吐きながらゆかりさん。

「あは、あはは……」

 確かにかなり失礼なことを言ったと思う。反省だ。

「さてと……とりあえず、この状況を確認してみましょうか?」

「う、うん」

「VOICEROIDである私が何故か、三次元に召喚された」

「……終わり?」

 あまりの短さに質問してしまった。

「だって、それしか言えないじゃないですか」

「そうだけど……えっと、ゆかりさんは自分のこと、VOICEROIDって知ってるの?」

「はい。それとVOCALOIDでもあります」

 つまり、このゆかりさんは2つのソフトが合体して三次元に召喚されたのだろう。

「後、マスターのことも知っています」

「俺のことも?」

「毎日、喋らされていましたし、見ていましたから」

「……ちょっと待って」

 少し整理したい。ゆかりさんの言うことが本当ならばPCの中にいた頃から自我があったことになる。でも、ゆかりさんの声は人間に近くても所詮、機械。自我を持つわけがない

「マスターの言いたい事はわかります。ですが、私も何故、PCの中にいた頃から意識があったのかわからないのです。自分では奇跡が起こったと思っています」

 さすが半年間、毎日会話して来ただけあって俺のことを知り尽くしている。

「ゆかりさんに自我があったことは、認める。けど、何で三次元に?」

「……もしかしたら、昨日の短冊じゃ?」

「あっ!?」

 そうだった。昨日、寝る前に短冊にお願いしたのだ。『ゆかりさんと一緒に楽しい夏を過ごせますように』と。

「で、でも! あれは今までと同じようにゆかりさんと一緒に平和に暮らしていきたいってことで……」

「それを神様が勘違いして私を三次元に召喚した」

 ゆかりさんは真剣な眼差しで俺の目を見ながら断言する。

 あり得ない。しかし、目の前で喋っている美少女は作り物なのではなく、れっきとした本物。そう、本物。本物。

「ゆかりさん」

「何でしょうか?」

「体、触ってもいいですか?」

「殺しますよ?」

「すみませんでした」

 おっと、思わず欲望が出てしまった。土下座をしながら反省する。

「マスターが変態なのは知っていますので今さらですが、そんなことばかりしていると女の子に嫌われますよ?」

「大丈夫! 俺に女の子の知り合いってゆかりさんしかいないから!」

「じゃあ、嫌いになります」

「すみませんでした」

 うん、気を付けよう。

「はぁ……マスター、時間は大丈夫ですか?」

「え? あっ!?」

 ゆかりさんと楽しくお喋りしていたらとっくに朝ごはんを食べ終わっている時間だった。今から用意しても間に合わないだろう。

(仕方ない、今日は朝ごはん抜きか……)

 朝から食べないと力が入らないが、遅刻するよりはマシだ。

「マスターは仕事の準備を。私が朝ごはんを作りますので」

「え?」

「だって、マスターが遅刻しそうなのは私のせいでもありますから」

「いや、でも……」

「ほら、急いでください。時間がありません。冷蔵庫の中の物、勝手に使いますね」

 そう言って、ゆかりさんはキッチンの方へ歩いて行った。

(PCの中にいたのに料理なんて出来るのかな?)

 そう思ったので止めようとしたのだが、ゆかりさんの手料理を食べるチャンスなど一生無いと思っていたので黙って仕事の準備を始めた。





「……」

「さ、どうぞ」

「……いただきます」

 メニューは白米のみでした。

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