クリスティー・三白眼
彼女とは中学の図書室で出会ったと記憶している。その後会話を重ねて分かったことだが、僕たちは小学五年生の時に同じクラスで机を並べていたらしい。当時三十人もいないクラスメイトの中に知らない顔があるなんて考えにくいけれど、それほど当時の僕は他人に興味を持てない人間であり、彼女もまた非常に影の薄い人間だった。
ともかく僕が彼女を初めて認識したのは中学二年生の秋、図書委員の仕事について教わった時である。
僕は読書感想文の課題に際して、『赤毛組合』の感想文に『三人ガリデブ』の感想を書いて提出してみたところ、国語教師の独断により市の中学生文芸展なるものに推薦されてしまい、後日彼の些細な遊び心が露見すると思いのほか多くの大人から真剣に叱責される羽目になった。その罰の一環として欠員の出ていた図書委員を押し付けられた。
担当教諭から説明を受けていたのか、彼女は僕が放課後に図書室を訪れると直ぐに図書委員の仕事について話し始めた。彼女は中学二年生とは思えないほど穏やかな、要領を得た語り口で、貸し出しの最終工程である押印まで教えると、カウンター袖に置いていた文庫本を開き自分の世界へ戻っていく。セーラー服の襟まである髪は黒々と妖しく蛍光灯の光を飲み込み、長いまつ毛の隙間から覗う大きな瞳と不釣り合いな控えめな黒目が上下する様に、僕は激しく動揺させられた。
彼女は多くの人が振り返るような目に見え易い美しさではなく、残り香のような、さりげない魅力を持ち合わせており、それに気づいてしまった僕は、その日から彼女を無意識に目で追うようになっていた。