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第二十一話:Ne:二日ぶりの嫁 後編

 ファウから唐突に浮上してきた、不穏な空気。

 それにマウスを強く握り、俺は思わず前のめりになってディスプレイを覗き込む。


【なんだか、私と違っていつも通りだったんですよね(;・・)】


 そして続いて送られてきたメッセージ。

 ネトゲ内の青髪美少女は、どんよりとしたモーションを取っている。


 そんなファウの発言に、俺は。


「……ん?」


 内容がイマイチ理解出来ず、ただ首を傾げる事しかできなかった。


 ……えっと。


【いつも通り、というと?】


 少々混乱しながら、伝えられた言葉への質問をキーボードに打ち込んで送信。


 左下のログに俺のメッセージが表示され、すると間も無く青髪美少女の頭上に「・・・」の吹き出しが現れた。

 余りにもすぐで本当に読んでるのか心配になるが……以前の経験を語ると、基本的にファウはちゃんと読んでいる。


 本当に器用だな。


【あっすみません。少し語弊(ごへい)がありました(゜д゜lll)】

【もちろん、彼はお出かけとしてちゃんと楽しんでいてはくれたと思うんです( ˙꒳˙ )】


「はやっ」


【ただ、いつもより私を意識してくれたか、といいますか】

【なんだか、以前と違って、顔を赤くしたりした様子が伺えなかったのです(´×ω×`)】


「はやいはやい」


【それどころか、平然と恥ずかしい事をしてきたのですよ!!(;`O´)o】


 急いでメッセージを読むが、俺が読み終わる前に次々と送られてくる。

 立て続けに送られてくるものだから、少し焦りながら読んだ。

 タイピングどれだけ速いんだよ……


【なるほどね】


 とりあえず、読み終えることはできた。

 結果としては、あまり良い収穫とは言えないようだ。


 ただ……俺が懸念(けねん)していた問題は杞憂みたいだった。俺は胸を()で下ろす。


【まあ、彼が楽しんでいたのならまだ良かったんじゃないかな?】


【・・・そうでしょうか?】


【うん。僕はそう思うよ】


【・・・わかりました( ˙ω˙ )】


 実を言うと、俺はファウの想い人がファウに戸惑い始めてるんじゃないかと思っていた。


 恋愛相談が始まった日の事。

 ファウとその想い人の距離感を聞いた時に、スキンシップなどは少ないと言っていた。


 その状態から、ファウは手に触れたり、さりげなく身体を近付けたり。

 軽いものではあるが、少なかったスキンシップを図ったんだ。


 だが、それは無いようで安堵した。


【しかし、顔を赤くしていない・・・というのは、少し不安に思ってしまいます(¯•ω•¯)】


 ……顔を赤くした様子はなかった、か。


 何故だろうか。

 ……逆に、もしかしてファウのスキンシップに慣れたとか?


 俺は手を顎に置いて、うーんと唸る。


 ……しかし、流石に情報が少ない。少し考えたが、何も原因が思い浮かばなかった。


「……『恥ずかしい事』ってなんだ?」


 とりあえず、もう少しだけ詳細を聞きだそうと俺はキーボードに手を置いた。


【そういえば、さっき言っていた恥ずかしい事って、何かされたの?】


【・・・すみません。言えません】


「……そりゃそうだ」


 いや、よりによってなんでそこを訊くんだよ俺は。

 悩んでたからとは言え、デリカシーの無いことをしてしまった。


【ごめん】


【あ、大丈夫ですよd('∀'*)】


 すぐに謝ると、なんとか許しを得ることができた。

 再び胸を撫で下ろしつつ……考える。


「うーん……言うべきか」


 情報が少ないのだが、流石にこれ以上はファウから訊きだすことは難しい。

 だから仕方が無く、ファウのスキンシップに慣れたと仮定することにした。


 その解決方法と言えば……考えばわかる単純な事で、スキンシップのレベルを増やすこと。

 だからそれを提案してしまえばいい。……のだが、先程の手前少し悩んでしまっていた。


「……よし」


【・・・怒らないで聞いてよ?】


【怒りませんよ?( ˙꒳˙ )?】


「断言するの早くね?」


 送信してから直ぐに帰ってきたんだけど。


【・・・だったら言うよ】


【はい。ドンと来てくださいщ(゜Д゜щ)】


【手を触れるや体を近づける以上のスキンシップをしてみてもいいと思う】


 勢いでタイピングをした。

 さて……返事は。


【といいますと?( ˙꒳˙ )?】


 あー……そこからか。いや、そりゃそうか。

 最初もどんなスキンシップが良いのか、俺に訊いてきたしな。


「えーっと……」


 俺は少し考えて……

 ファウが女性であることも考慮して……


 なんとか捻り出した。


【肩をくっつけてみる、とか】


【さりげなく体を近付けることの、ステップアップみたいなものと考えて欲しい】


 相変わらず恥ずかしいなコレ。

 俺、男だぞ?なんだか妄想乙とか気持ち悪がられないか?不安だ……


【・・・さりげなく体を近づけて、さりげなく肩をくっつける、という感じですか?】


「そう具体的に言わないでくれ……」


 死ぬ。精神的ダメージで死んでしまう。

 が、その通りなので俺はキーボードに手を置いた。


【そう】


【なるほど・・・わかりました!ありがとうございます!('ω')】

【では、少し早いですが落ちますね】


【わかった。お疲れ様】


【はい!お疲れ様でした〜(・ω・)ノシ】


 少しすると、青髪の美少女はログアウトした。


「ふう〜……」


 それを見届けて、俺は大きく息を吐く。


 今日はいっぱい頭を使った気がする。

 まあ授業はなかったから、主に恋愛相談での話だけど。


「……まあ、やっぱり成就して欲しいよな」


 そう呟いて、俺はその後もネトゲに勤しんだのだった。


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