シャッター
目の前の光景から少し、それを分けてもらう。彼女と彼は並んで、違う形のカメラで同じ風景を覗き込んだ。しかし、焦点が二人はまったく違っていた。
「何見てるの?」
彼女はそう、隣でカメラを構える彼に問う
「ビルとビルの間の風景、そっちは?」
ふと、ファインダーから目をそらし彼女を見る。彼女は少し唸りつつ、ピントを合わせていく。うまく定まらないようなので、
「オート使いなよ、いつまでたっても合わないよ?」
親切心からの言葉だったが、彼女の心を逆なでしたようだった。彼女はファインダーをまだ覗いている。
「オートは使いたくない。携帯じゃないんだし。…うん、いい感じ」
シャッターをようやく押した彼女は、満足そうに、カメラのディスプレイに写る風景を眺める。彼もそれを覗き込んで見る。彼はそれを見た後、すぐに自分のカメラを構え、シャッターを切る。
「全部にピントが合ったらどうなるんだろうね。」
彼は何枚か同じ風景を撮り続けながら問う。
「そんなことしたらきっと疲れるよ、見えなくても、それを見ようと頑張れるから」
「出来れば頑張りたくないな、その場で、見たい」
ようやく満足したのか、ファインダーから目を離し自分の目で風景を見る。カメラをバックにしまいその場に腰を下ろす。
「気にせずにどうぞ。」
まだカメラを構えている彼女に、少し疲労感を感じさせるような。声で彼は言った。
「じゃあ、遠慮なく。」
彼女はカメラを、広大な風景から、隣の彼に向ける。シャッターを押せば、少し驚いた顔の彼が、写りこんでいた。