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処刑台のある国2

さて、ここで軽く自己紹介を致しましょう。

私はセレスティア・ラ・アネット、魔法使いです。かつては旅人でしたが、今はじめじめとした地下牢で処刑の日を待つ虜囚です。王様を殺した罪で捕らえられてしまいまいました。処刑の期日は明日の正午だそうです。


「ふぁ~~」と大きな欠伸をひとつします。本当に退屈です。荷物も取り上げられてしまいましたし、やることがありもせん。

そこで、私は暇潰しをすることにしました。私が呪文を唱えると、光の粒が私の周りに現れます。白く輝くそれは、暗い地下牢では一際幻想的に見えたことでしょう。


「何をするつもりだ、変な気を起こすんじゃない!」牢屋の外で番をしている兵士が、怯えたように言います。魔法を見るのが初めてなのでしょう。震えてらっしゃる。可愛そうに。


「別に、何もしませんよ。」光は私の手元に集まり、一冊の本の形になりました。黒い紙地に、頭蓋骨を基調とした装飾がなされたおどろおどろしい表紙をしていますが、これただの本です。魔導書ではありません。先週、とある国で買った娯楽本です。硬いベッドで横になって眺めます。兵士さんは一体、どんな魔法の儀式が始まるのかと様子を伺っていましたが、それは杞憂というものです。私は、いつの間にか眠りに落ちました。


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「むにゃむにゃ、もう食べられないよ~」


「おい、起きろ!時間だ!」気持ちよく寝ていた私は、乱暴に起こされます。少しばかり、殺意が沸きました。


「あと5分だけ。」朝日が目に染みて痛いです。


「だめだ!お前、自分の立場を分かっているのか!」どうやら、兵士さん達は、妥協という言葉を知らないようです。ここで兵士さん達をどうこうすることは簡単にできますが、それではつまりません。私は屈強な男達に囲まれながら、狭い通路を進みました。むさ苦しいです。


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ステージに立つ私の下には、群衆が集まっています。その理由はわたしの可憐な容姿に魅了されて…、ではなく勿論、王様の頭をぶっ飛ばしたからです。そして、群衆から放たれる声は歓声ではなく、怨嗟です。具体的には****とか、*****とか、******とかです。


「そこにいる魔女、セレスティア・ラ・アネットは偉大なる王、エイブラハムⅥ世を殺害した。よって、死罪となる。最後に言い残すことはあるか?」処刑人さんの台詞に思わず嗤ってしまいます。


「最後?私は死にませんよ。」


処刑人さんも嗤いました。


「せいぜい、強がるがいい。そう言っていられるのも今のうちだ。」



10分後

私はお風呂に入っていました。グツグツ煮え、大きな泡がボコボコ言っているお風呂です。もし、私が身体強化魔法を身につけていなければ、私は蛙のように湯であがっていることでしょう。


「どうだ?」処刑人さんは、嘲笑を浮かべながら私に問います。


「気持ちいです。」私はトロンとした表情で答えます。


「そんな馬鹿な!」処刑人さんは固まります。


しかし、泡は私と処刑人さん以外からは見えません。


「この森で採れる薪は良品とは言えませんからね。温度もさほどあがらないのでしょう。」私は群衆にも聞こえるように、大きな声で嘯きました。



30分後、私は牛に入っていました。意味分からないですよね。より正確に表現するなら、金属製の牛の置物に入っていました。その下では、火がごうごうと燃えています。もし、私が身体強化魔法を身につけていなければ、私はするめのようにこんがり炙られていることでしょう。


「どうだ!苦しいか?」処刑人さんは勝ち誇ったように言います。


「あの…、私の話、聞いていました?全然熱くないんですよ。」


「……。」



1時間後、私は椅子に座っていました。背もたれと座板が針のむしろとなった不思議なデザインをしてました。私が身体強化魔法を身につけていなければ、私は哀れな鶏とネギのように串刺しになっていることでしょう。


「痛いだろう?」処刑人さんの声は、どこか不安そうでした。


「いえ、全然です。むしろ、マッサージみたいで心地いいです。」


「そんなはずは…」



そして、処刑開始の宣告がなされた5時間後、いろいろな器具を一通り試された私は、結局ギロチンにかけられることとなりました。ギロチンが最後なのは、罪人に苦痛を与えるという目的が達成できないからでしょう。しかし、一つ問題があるようです。


「なぜだ!刃が降りないぞ!」レールに刃が突っ掛かったようです。まぁ、私が魔法でそのようにしたのですが。しかし、杖がないと体力の損耗が激しいですね。ちょっと疲れました。


この国の処刑には、ルールがあります。処刑の布告から6時間以内に、罪人を処刑しなければいけないというルールです。処刑人が罪人を苦しめることに固執して、牢屋に処刑待ちの罪人が入りきらなくなってしまったことに由来があるそうです。本来であれば、ルールを状況に応じて変えるべきなのですが、このルールを変えることができるのは王様のみ。世継が決まるまでは、このままでしょう。


30分後、つまり処刑の布告より5時間半後、とうとう処刑人さんはギロチンを直すのを諦め、斧を手に持ちました。それは私の首目掛けて勢いよく振り下ろされました。そして、宙を舞うものが一つ。私の首?いいえ、斧の刃でした。


処刑人さんの顔は真っ青です。もし、王様を殺した犯人を時間切れで処刑し損ねたとしたら…。まぁ、どうなるか予想はつきますよね。


処刑人さんは一旦台を降り、兵士さんが持っていた剣を受け取り戻って来ました。処刑人さんがそれを勢いよく振りかざし、刃が私に深々と刺さる…なんてことはなく、折れました。そして、また台を降り、剣を持って戻って、剣を折ってということを5回ぐらい繰り返しました。処刑人さんは、絶望しきった表情でへた込んんでいます。そんな処刑人さんに、ふふふと私は微笑みます。


「無駄です。この辺りの金属は、経年劣化ですぐだめになるのですよ。ほら、この通り。」私は見せつけるように、金属製の手錠を引きちぎります。群衆が縮み上がりました。


「こんなもので作られた、武器なんて玩具以外の何物でもありませんよ。」教会の尖塔から、鐘の音が聞こえます。


「さて、これでおしまいですね。では、さようなら。」私が呪文を唱えると、荷物が箒に乗ってやってきます。そして、私はそれに跨がります。


「待っ、待てっ!」処刑人さんと兵士さんが私を止めようとします。しかし地を這うことしか出来ない哀れな方達に、私を止めるかとなど不可能です。


私は華麗な曲芸飛行を披露した後、この国を去りました。いえ、去った振りをしました。さて、明日が楽しみです。

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