イケメンとエンカウントして即気絶しました
「君っ、今すごい音がしたが大丈夫か!?」
なんと、森の陰からイケメンが飛び出してきた!
混乱した末に私が出した第一声は……!
「ご、ごめんあそばせぇ?」
――正気か?
城で育てられた乙女の姿か? これが。
素手で薪を割り、魔物をしばき倒し、森でサバイバルしてなお、お嬢様ぶるこの所業……まさに恥知らずなのでは?
普通にこんにちはでいいだろう! もしくはごきげんよう! なーにが「ごめんあそばせ」だ! なににごめんあそばせだ! 魔女ムーブすればよかっただけなのに! どうしてそんな簡単なこともできないのか……!
……と自己嫌悪してぐるぐるしている間に、イケメンは困ったように笑った。
シトリンのような透き通る金色の瞳がへにゃりと歪む。ひえっ、顔面が良い。心なしか鳥肌が立っているような気さえする。
森でサバイバル生活ニ年目に突入したゴリラのような女に対してその微笑みはもったいなさすぎる! 金一封の価値すらありそうなその顔面力が眩しすぎて直視ができない……!
「すごいな、ここで生活しているのか」
「え、ええ」
曖昧に返事をする。残念ながら動揺は顔に出ない性質なので淡白に返すしかないのだけれど。
イケメンはしばらく興味深そうに周りを見渡してから、喜色を浮かべてこちらを見た。
「もしやと思ったが、最近噂の森の魔女とは君のことだな? それはちょうど良い! 道案内をしたり、森で困っている人を助けて回っているそうじゃないか。今、ぜひ会いたいと思っていたところだ!」
シトリンのイケメンはざくざくと土を踏み締めながら勢いよくこちら側に接近してくる。朗らかで快活そうで、健康的なイケメンだ。身体能力も高そうで、肉体の全てにおいて天賦の才能というやつを与えられているとしか思えない。
「国民の礼も言いに来たかったことだし……」」
そんな、顔面天賦が、わ、私の目の前まで……!?
あまりの出来事に、私の耳は機能停止して彼の言うことのほとんどのことが頭に入らず、真っ白になっていく。
「――だから、君に会えて良かったぜ」
顔面天賦の吐息がかかるほど近くに寄り、手を取られる。
あ、だめだ。だめだこれは。気絶してしまう。
出会って即気絶。
なんとまあ失礼な。
でも止められない。
仕方のないことなのだ。
だって、今気がついた。
私、勇者のせいで、イケメンがトラウマになっている。
さっきの鳥肌は気のせいなんかじゃなかった。背筋が凍る。見つめられただけでまるで石になってしまったように身動きができない。心配そうに眉を八の字に下げる彼を見て、勇者様とは全然違うと分かっていながら目の前がふっと暗くなっていく。
「……? どうしたんだ?」
耳をくすぐる優しいテノール。
「君、本当に大丈夫か? 顔色がこの上なく悪いぞ!」
そして、美しいシトリンの瞳が私の姿を映したとき、ぷっつりと、意識が闇の中に溶けていった。
顔面天賦
→意味・顔面600族の同義語