森でサバイバルを始めました
毎日必死だった。
魔物に関しては神聖魔法一発でどうにかなるけれど、問題は小屋の雨漏りとか風が入ってくる隙間とか……そういうのが非常に体に堪えた。
土魔法はそこまで得意じゃなかったけれど、小屋を建て直すのに土壌をしっかりさせる必要があったし、食べられると分かった雑草や、鑑定魔法で食用に向いているものを選別して栽培するのに畑も作った。
樹木魔法は聖なる魔法に分類が近かったので幸い得意だし、小屋を立派にするのに役立てて更に得意になったわ! 作物の成長にも関わるし!
それにそれに、私が魔物をやっつけていると次々と動物達がやってきて、建物の組み立てをお手伝いしてくれるようになったの! どうやら、魔物が動物達を襲って困っていたみたい。
魔物は普通の手段では滅ぼすことができないから、動物達が打ち勝つこともできないのだ。魔物は聖なる祈りのこもった魔法でないと、浄化してあげることができないから。
普通の人では対処が不可能で、剣でいくら切っても再生してしまうらしいから、聖なる力を宿した聖女や、神様に愛された勇者じゃないと滅ぼすことができないと、お城で教わった。清らかな心で魔物の救済を願う祈りが込められて、はじめて魔物を滅することができるのだとか。やはりお城で教わった知識だけは有用だと思う。
つまりはまあ、私じゃないと魔物は対処できないということ。
こうして動物達に囲まれながら建築を続けて約一年。
森の中に自然を取り入れた綺麗な建物を作り上げ、少しだけ開拓した私はひっそりとこの『魔の森』に迷い込んだ人間や動物達の案内役をし始めた。
やはり、お城にいたときのように魔法力がどこかに垂れ流しになっているような違和感もなく、潤沢に使うことができている。
もしかしたら、今頃アザレアちゃんが国の結界を張るための魔法力タンクにでもなっているのかもしれないけれど……そうだとしたら自業自得なので知らない。私は自由を満喫しているんだ。もう関わり合いになりたくない。
さて、森にはたまに魔族の子供も迷い込んで来る。最初は困惑したし迷ったが、魔族の子供を助けるようになると、助けた子達が後日お礼の品を森の前に置いていくようになった。
こうして自分のやったことが成果として返ってくるととても嬉しい。嬉しいから、森の中で迷い子の案内をするし、なんなら森を通る人の護衛をするようにもなった。
最初に私と共に捨てられた馬には『イグニエラ』と名づけ、可愛がった結果なんと、聖なる力を宿した。私と同じように、魔物を滅して人助けができるようになったときにはもう! 手を叩いて喜んだわ!
私は光の魔法に適性が大きく出て光の精霊と仲良しだけれど、イグニエラは炎の適性が強いみたいで、炎の馬のような姿になることができる。なんて素敵なの! なんて可愛い子なの! 私は誇らしいです! 小さくたって役立たずなんかではないのよ!
……なんて自慢してやりたい相手にはもう会わないって決めているのだけれど。
さて、そんな感じで一年を過ごし、いつしか私は森の魔女様なんて呼ばれるようになっていたのだけれど……『魔女』の名を訂正するつもりはない。私は魔物を滅することのできる聖女だけれど、森の魔女『フレアローザ』としての自分を誇れるようになったからだ。
聖女のフレアローザはみんなから嫌われた。役立たずの大嘘つきとして追放された。
だから、本当の意味で誇れるのは森の優しい魔女たる名前のほう!
もう、あんなところの思い出には蓋をしましょう。
そう考えつつ、私は蜘蛛の魔物をしばき倒して糸を採取する。さすがに布や糸なんかは街まで行かないと手に入らないものだから、自給自足生活が板について魔物の素材を利用することにも慣れきってしまった。
ああ、名も知らぬお父様にお母様。あの世で私を見ているのでしょうか?
宮廷育ちのお嬢様だった私はもはやどこにもおりません。あのとき、ただのフレアローザは確かに殺されてしまいました。
今いるのは人を癒す森の魔女フレアローザです。ちょっと色々と逞しくなっちゃったローザなのです。物心がつく前には亡くなってしまっていたお父様、お母様。そして女神ユリエル様。どうか、どうかこのローザをお見守りください……私、私頑張るわ! むん!
決意を新たに、私は魔法で硬化した素手で薪を割るのだった。
自給自足生活に淑やかさなんてね! 必要ないんだよぉ!!
「君っ、今すごい音がしたが大丈夫か!?」
「 」
なんと、森の陰からイケメンが飛び出してきた!
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|To be continued...… 》
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声を失って黙り込む。
なんてしてる場合ではありませんね!?
……待ってください。
確かに自給自足生活に淑やかさなんてものは糞食らえです。でも、待って。さすがに私、人様の、しかも異性の前で素手で薪を割るなんて魔物も真っ青なことしてるの見られたくない!!
いつもはピクリとも動かない鉄面皮が、このときばかりは引き攣れるようだった。