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悪役令嬢の未来を変えてやる!

作者: 伊藤@

 

 思い出したのは9歳の時。


「幼子に精霊の加護と祝福を」


 司祭様が杖を振ると銀色のキラキラした光が自分に降り注いでそれはそれは幻想的だった。


 キラキラキラキラキラキラキラキラ、キラキラで目眩がする。


 目眩が収まると、『あーもう!めっちゃ綺麗これでCGじゃないんだから凄すぎる!!』って考えが浮かんだ。


 ん?

 CG?

 めっちゃ?

 あれ、何を考えているんだろう。

 その瞬間前世の記憶を思い出して気絶した。



 前世はバツいち子なし、両親は早くに亡くなって天涯孤独、派遣社員で働いてる40代後半に婦人科の病気で死亡。

 ラノベが好きでよく読んでたな、悪役令嬢なんかも好きだったっけ。

 なんて思いつつ目を覚ますと。


「セシリアお嬢様!」

「ターニャ?」

「旦那様!奥様!お嬢様が!」


 バタバタと侍女のターニャが人を呼びに出ていってしまった。


「喉渇いた…」


 きゅうううとお腹も空腹を訴える。

 実は2日眠りっぱなしで、私が目覚めて我が家はお祭り騒ぎ。

 そう、私はセシリア・ルミアイ伯爵令嬢に生まれ変わった、生まれ変わったここは『愛と魔法とバルハラの彼方へ』という小説の世界。


 残念な事に私は悪役令嬢だ。

 小説の私は、婚約者が愛してしまった健気なヒロインを苛めつくして婚約破棄される、修道院へ送られて流行り病であっさり病死、10年後にはこの世とさよならだ。


 酷くない?


 と言うわけで私は死なないようにフラグを折ります!


 折れると思ったんだよね、この時は。


 私10歳、内政チートしようと領内を見てみれば、下水道完備、衛生面ばっちり!どこの近代国家よこれ、あ、お父様の領地です、はい。医療も識学もかなりの水準で、私が出る幕なんかこれっぽっちもなかった。

 と言うより、もう少し後になって思ったけど内政チートがあってもお父様は領地経営を10歳の子供には絶対させないはずだ。


 私11歳、ならば飯チートだ!と意気込めば、塩、味噌、醤油、砂糖に酢…料理の分野は既に開拓され尽くされてました。

 お陰でポテチ食べながら大好きなコーラ飲めてます。


 私12歳、最後の望みで魔法チートや肉体チートに期待する、冒険者になって無双か!と思ったら、これが、やや多い魔力と属性は草木。

 草木って…これはもしや!超・錬金術師・爆誕かっ!!なんて小躍りしたら、なんてことはない草木の状態が少しわかる程度。

 ぶっちゃけ虫が苦手だから草木とかも微妙。


 私13歳、小説通りに私は貴族が通う学園へ入学、勉強は中より上。日本語の文法が全く違うのと、右から読むのが中々骨が折れて、マナーに乗馬やダンスどれをとっても、それなりに出来る程度。


 容姿?目が二重でくりっとしてるけど、鼻がもう少ししゅっとしてたら可愛い部類、要は不細工でもなければ、可愛い訳でもない、まだ前世のが綺麗だったよ、本当。


 なんだか物凄く残念な生まれ変わりだけど、健康で両親は愛してくれるし兄も弟も仲良しで、それだけは本当良かったと思ってる。


 断罪の日まであと5年、じわじわと焦りと不安で心が押しつぶされる。どうやってフラグを折ればいいのか全くわからない。


 よくあるお話なんかだと、子供の頃に貯金して家を買ったとか資産運用したなんてあるけど、普通に無理。

 未成年に家は売らないし、領地経営もさせない。

 当たり前だと思う、どこの世界に子供に資産運用させる馬鹿がいるのか、領民の命や生活がかかっているのに経験の浅い未熟な子供にやらせる訳がない何かあっても責任とれないのに。

 家は伯爵家でそれなりに資産はあるけどそれは伯爵家の資産、私個人のお金なんてないのだ。

 欲しい物は頼めば購入して貰える事もあるけれど、子供に宝石なんて買い与えない。

 考えれば考えるほど、本格的にヤバイかもしれない。 


 私14歳、小説なら今年婚約者が決まる。

 サイラス様は私より1つ上の15歳。


 そのサイラス・ダグシー侯爵家のお庭で、只今ガーデンパーティしてたりする、あ、私だけじゃないですよ、めぼしい侯爵家と伯爵家の令嬢や子息集められて交流中。


 婚約者にならない作戦を実行中、ひとりテーブルで美味しいケーキを堪能しててなんだか平和で申し訳ない。

 これぐらいしか思いつかなかった自分。

 いやだってあの人の輪に入るの嫌だもん。

 視線の先には、ミニ社交界が出来てた。

 侯爵家の嫡男達が集まって牽制し合ってたり、侯爵家だけど次男三男と伯爵嫡男がまったり会話してたり、他にも小さいグループが幾つか。

 兄はそつなく侯爵家の牽制しあうグループに紛れ込んでて本当尊敬しちゃう。

 今日の主役のサイラス様は令嬢が群がってて正直怖いです。


「ねぇそれ美味しい?」

「っ!」


 いきなり声をかけられ、ビクッと体が跳ねた。

 ちょうどケーキを口に入れたタイミングで喉に詰まり。


「お、おいひいですよ!んぐっ!」


 声の主は、音もなく隣に座ると物凄く視線を感じる。


「良かったらどうぞ~」


 そっと、取り分けてもらった桃のムースを差し出し、それとなく相手の顔を見たら…この国の王子様やないかーい!

 金髪碧眼で少しぽっちゃりした体型は上品で優しい雰囲気を醸し出している。


「ありがとう、やさしいんだね」

「いえ、そんな」


 小説だと、サイラス様が仕える主とさらっと書かれていた、この国の第2王子様だ。

 確かサイラス様の1つ上だから16歳だっけ。


「あ、美味しいねこれ」


 優しい笑顔になる王子様にとても癒される。


「そうなんです、物凄く美味しくて」

「なんか君とっても美味しそうに食べてるから気になっちゃって」

「いえ、滅相もない」

「あれ?僕が誰か知ってたんだ」

「はい第2王子様と」

「そっかなら、改めてアルフォンス・コッサニア・ガーランド宜しくね」

「セシリア・ルミアイと申します」

「僕のことはアルって呼んで、君のことはリアって呼んでもいい?」

「は、はい!アル様宜しくお願い致します」

「ふふ、固くならなくてもいいよ、今日はお忍びで来てるんだ」

「そうなのですか?」

「あのサイラスが見合いって言うから、面白そうだなって来ちゃった」

「な、なるほどー」


 あのサイラス?疑問に思ったけど、にこっと微笑んでおく。


「そうだ!あっちに綺麗な薔薇が咲いていたから見に行かない?」

「はい、喜んで」


 自然に手を繋がれ薔薇が咲き乱れる庭園にエスコートされ、まるで自分がお姫様になったような扱い、夢のような時間ってこんな事なんだなと噛み締める。

 そんな私達の後ろ姿を、サイラス様がじっと見ているなんて知らなかった。



 □□□


「え?!サイラス様の婚約者ですか?」

「そうなのよ!良かったわね!セシリアちゃん!!」


 母は大興奮できゃらきゃらと騒いでる。

 目の前が真っ暗になる、やはり当日欠席すべきだったか。

 後悔が押し寄せるが、それこそ馬から落ちて怪我でもしない限り侯爵家の招待なんか断れない。


「お母様、サイラス様とは一言もお話ししませんでした、何方かと間違えられているのでは?」

「ちゃんとセシリアちゃんにって侯爵家からお話が来たのよ、きっとサイラス様がセシリアちゃんに一目惚れしたのよ」


 素敵ねぇ!とうっとりしてる母、あかん何言っても駄目なあれだ。

 ぶるっと寒気がする、これが強制力?なんて恐ろしい。

 どんどん修道院が近づいて来てるじゃないですか。


「そんなわけで5日後に両家の顔合わせなのよ、そのつもりでいてねセシリアちゃん」

「はい、お母様…」


 部屋に戻り吐きそうになった、うう、怖い、未来が怖い。

 人間って、極限になると何かが振り切れるようだ。

 そう!まだ、まだ終わってない!!

 諦めたらそこで試合終了だ!!

 藁にでもすがる思いで、私は急いである方に手紙を書いた。



□□□□



「「じぁ後は若い二人でね!」」


 お互いの両親が私達二人を庭園に置き去りにして、部屋に戻ってゆく。えー丸投げとか困るー、控えてる侍女や執事がいますけと、ちょっと距離あるし。

 両親達が居なくなるとサイラス様が急に話し掛けてきた。


「お前さあ、第2王子と仲が良いのか?」


 え?お前?お前?って私?

 というか、凄いさっきまでと全然人が違う。


「なんとか言えよブス」


 え?ブス?うわあ、ドン引きですがな。


「あの日、開かれたガーデンパーティで初めてお会いしました」

「ふーん、初めて会って手とか繋ぐんだ?」

「え?ご覧になっていたのですか?」

「ちげーよ、ブス!たまたま見えたんだよ!なんだよお前とんだアバズレだな!」


 うわ、何だろう喧嘩売ってるのかな、とてもじゃないけど15歳とは思えない暴言、こんなのが侯爵家のご令息なんだぁ。


「私の事がお嫌でしたら婚約はしない方が宜しいと思いますわ」


 満面の笑みを浮かべて言い放ち、スタスタと両親のいる部屋に戻ります、後ろで何か騒いでるけど、どうでもいいや。


「お父様、お母様、ダグシー侯爵様、侯爵夫人様」

「あら早かったのね」

「お帰りなさい」

「私サイラス様から嫌われているようなので、この婚約は無理です」

「「「「は?」」」」


 念のためにと勧められ、ポケットに録音水晶入れておいて良かったわ、録音水晶を再生させ室内に流れたサイラス様の声。


『お前さあ、第2王子と仲が良いのか?』

『なんとか言えよブス』

『ちげーよ、ブス!たまたま見えたんだよ!なんだよお前とんだアバズレだな!』


 室内がピシリと固まり、いつも寡黙な父が立ち上がった。

 本来なら格下の我が家から格上のダグシー侯爵家へ断りを入れるなんて無理な話だけど、流石にこれはね。


「この話は無かった事に、私共は帰らせて頂く」

「ル、ルミアイ伯爵!!」

「さ、帰りましょうセシリア」

「はい、お父様お母様」


 帰りの馬車の中お父様が聞いてきた。


「セシリアいつ録音水晶を用意したんだい?」

「お母様から顔見せの話を聞いて、サイラス様をよく知ってる方に相談したら録音水晶を貸して頂きました」

「よく知ってる方?」

「はい、第2王子様のアルフォンス様です」

「セシリアちゃん!いつの間に!」

「あの日のガーデンパーティです、お母様」

「あらあらまあまあ、旦那様お礼しませんと」

「そうだな、感謝してもしきれないな」


 そうあの日直ぐさま、アルフォンス様に手紙でサイラス様の性格を質問したところ、


『聞くより見るのが早いかな、それと会うときはこれを絶対持っていくようにね』


 という手紙と録音水晶が送られてきた、アルフォンス様は私の命の恩人だ、もう父の言う通りに、感謝してもしきれない。


 後日、私はアルフォンス様の婚約者となった。


 アル様曰く、私の幸せそうに食べてる姿に惹かれて話し掛けてみたら、アル様の体型を嗤わなかった事や傍にいて離れたくないなと思ったら完全に惚れたそうだ。


「サイラスって僕の事見下してるんだよねぇ」

「え?!見下すですか?」

「うん、そうサイラスって子供の頃かなり太ってたんだよね」

「え?!」

「その頃は優しい思いやりのある子だったけど、鍛練して痩せたら嫌な人間になってたよ」

「そうだったのですね」


 サイラス様が私を婚約者に望んだのは、アルフォンス様から私を取り上げたいだけだったんだなと納得。

 もう小説とは全く違う未来が開けたのもアルフォンス様のお陰です。


 優しいぽっちゃりした私だけの王子様、とっても大好きです。




□□□□



 それは、ただの好奇心だった。




 サイラスとは一応幼馴染みだ。

 子供の頃はサイラスは太っていて結構気にしていたようだ、僕は今とあまり変わらなくぽっちゃりした体型だ。

 サイラスはひとり勝手に劣等感を募らせて、鍛練して痩せると何を勘違いしたのか僕に対抗したり見下したり、かなり面倒臭い奴になった。

 将来は側近として傍にいるとサイラスは思っているようだけど、僕にはさらさらそんな気はない。


 僕の兄は王太子、少し病弱だけど執務をきちんとこなして、努力されて、そんな兄を僕は尊敬している。

 兄は、僕の四つ上で今年二十歳。

 去年の春に、長年の婚約者であるナタリア令嬢と成婚され先月僕の甥っ子が生まれた。


 何が言いたいか?要は兄の地盤を磐石なものにしたいのだ。


 自分で言うのもあれだけど、僕は天才だ。

 人が十、努力したものを、僕は一や二の労力でこなしてしまう。


 でもね、短所もある。

 兄は地道な事を飽きずに必要だと思えば向き合ってやりこなす、反対に僕はすぐ飽きてしまうんだ。

 もし僕が王様になって、国の運営に飽きたら国民が不幸になるからね、何としても兄にはこのまま王様になってもらわないと。


 そんなわけで、僕はなるべく後ろ楯がない者を側に置きたい。

 側近もそうだし、僕のお嫁さんになってくれる人も。

 性格が良くて一緒にいてほっとする人が好きだ。


 サイラスは、侯爵家で結構な力を持つ家だ。

 頭の回転も悪く、何より性格が悪い。


 そんなサイラスが見合いをするんだって。

 気になるよね!あのサイラスと婚約者になる人物、サイラスがどんな人間を選ぶのか、本当ただの好奇心だったんだ。





 セシリアは、日溜まりにいる暖かい春の妖精だ。

 くりっとした緑の瞳に、ミルクチョコレート色の美味しそうな豊かな髪、何故か彼女は自分の評価が低い。

 

 初対面でも、柔らかなユーモアを持って相手の気持ちを優しく和ませる。

 サイラスの庭園で薔薇を見ながら散策した僅かな時、彼女は僕の話す様々な知識を吸収して自分の中で咀嚼していた。

 また十四とは思えない、落ち着いた雰囲気に僕はすっかり惚れてしまった。

 

 そして、サイラスが彼女を婚約者に推すと予想した、なんてったって僕がエスコートした女の子だ、横からさらって僕の悔しがる顔が見たいだけの愚か者だ。


 ま、そうは絶対させないけど。


 僕って時世や物事はすぐ飽きちゃうけど、気に入った人なんかは執着する性質なんだよね。


 だから彼女に別れ際言ったんだ。


「サイラスで困った事があったら、必ず僕を頼って。力になれるから」


 てね。


 思った通りサイラスは、彼女の前でいつもの傍若無人な態度をとったようだ。

 

 馬鹿な奴だ本当に。


 セシリアとの毎日が幸せすぎてどうしようもない。


 可愛い僕だけのセシリア、一緒に幸せになろうね、大好きだよ。

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