12話
「陽凪ちゃん。今日夜ご飯食べ終わった後2人で話せない?」
紗耶香さんがお手洗いに行ってる間にそう言われた。
別に2人で話すことに抵抗はないし、何か大事なことかもしれないから全然大丈夫。でも紗耶香さん抜きってことに何か意味あるのかな?ってこの時は思ってた。
........その意味は合ってた。でもね、紗耶香さんにとっては地獄の時間がスタートしちゃったことが確定したことでもあったんだ。
今日の栞里さんは一段とすごかった。
一日中紗耶香さんをコキ使ってた。車の運転に始まって、観光地では引っ張りまわして、必要最低限な休憩以外は取らせないように全力で紗耶香さんを疲れさせてた。
そのおかげで私は今日一日平和な時間を過ごせたから良かったけど、明日帰るのに紗耶香さんを疲れさせて大丈夫なのかな?
あぁそうだ。夜ご飯になったらしきりに紗耶香さんにお酒すすめてたな。ビールに始まって日本酒に焼酎などなど。なんかすごい勢いで飲ませてた。
そのせいで今紗耶香さんもう酔いに酔ってすごいことなってたし、疲れが一気に出たんだろうね。すぐに寝ちゃった。
そんな状態にさせたはずの栞里さん。一緒にせわしなく動き回って、お酒もたくさん飲んでたのにいつも通りにしか見えない。
「いやー、お待たせ陽凪ちゃん。思ったよりも紗耶香が手強くて私も本気出しちゃったよ」
「..............あの、話しがあるって聞いてたんですけど栞里さんは大丈夫なんですか?紗耶香さんがあそこまで酔うまで一緒に飲んでましたよね」
「大丈夫大丈夫!!私ザルだから!!それよりも陽凪ちゃん固いよ!もっとフランクにいこう!!!!」
ザル..........?どゆこと???
「.................はーい。で、話しって何ですか?」
「いきなり本題かー」
「きりきり喋ってもらわないと私が寝れないんです!!」
今普通に12時超えてるからね。夜にお風呂入りに行こうって思ってたから早めに終わらせたい。
「んー、そうだね。陽凪ちゃんにとって私ってどういうイメージ?」
ぶっちゃけて言って良いのかな?
「見た目詐欺師のテンション爆発してる人って感じかな?」
「あはは、正直に言いすぎだぞ!!そんな悪い子には日本酒イッキしてもらうぞ☆」
「私未成年!!」
「大丈夫!!ルールは破るためにある!!!!!!!!!」
ダメだこの人。話が全く通じない........。
「まぁそんなことは置いておいて。実際私って見た目がこんなんだからさよく告白されてたのよ。特に学生時代」
見た目だけならたしかに物静かな清楚系美人だもんね。中身がアレだけど。
「何人かとは付き合ったこともあったよ。でもね、全然長続きしないの。相手の方が絶対本当の私のことを知ってドン引きして離れていくってのが定番」
予想はつくけど、それはそれで悲しい.......。
「そんなんだからさ。私って生涯独身なんだろうなーって思ってた」
「社会人になってからは特にそう思ってたなー。ていうか学生時代の方が絶対に良かった。だって今だと身体目当てなやつらしか私によってこないし」
...........そいつらってどこの誰なんだろう。もし私の身近にいたら絶対殴る。栞里さんはたしかにちょっとウザいけど、それでも沙那ねぇや紗耶香さんにとっての大事な親友なんだから。
「でもね、そんな私でも好きって言ってくれる人がいたんだ」
「そいつは高校時代のクラスメイトでね、この間久しぶりに仕事で会ってね、それから暇なときは一緒にご飯に行ったりしてたんだ」
「いつも私を大切にしてくれてる。私がそいつを振り回したって全然怒らないし引かないの。むしろ一緒に騒いでくれるヤツなの。それに2人きりでいる時も何もしてこないの。ずっと向かいの席でニコニコ笑いながら私の話しを聞いてくれて、私が酔いつぶれても介抱してくれるだけで何もしてこないの」
「理由を聞いたらね、『それじゃ俺はただのクズだろ。それに俺はお前が好きだからそんな一方的なことはしたくない』って言ってくれてね」
「あぁ好きになってくれるって良いなって。愛されるってこんなに心地良いんだって思えたよね」
「だから私はそんなアイツだからこそ付き合おうって思ったし、結婚もしたいなって今は思ってる。まぁまだ付き合って半年もたってないからまだまだ結婚は早いかもだけど、将来的にはできたら良いなって思ってる」
..............................栞里さんって彼氏いたんだ。最近は自分のことで精一杯だったから全然気づかなった。毎日連絡取ってたのに。
「えっと.....おめでとうございます!!でもねなんで私に言うの???紗耶香さんに言わなくても良いの???」
「.............................そこなんだよね」
そこって紗耶香さんに言うこと?
「私さ、私のことを好きでいてくれること、私のことを愛してくれることにすっごく嬉しく思ってるんだ。そんなアイツのことを私も好きだし愛してる。でもさ紗耶香にこれ言うのはしんどいなって」
「...............なんで???」
「だってさ................」
すっごい言いにくそう.........。でもそこまで気にする必要だっけ???
「だってさ、確かに私は今すっごく幸せ。でもさ、この幸せの感情をもう二度と紗耶香は感じることができないんだよ?最愛の人に好かれること、愛されること、そして自分が好きでいられること、愛していられること、そんな幸福をもう二度と感じれないんだよ。なのにさ、私が能天気にこんなことを話したら紗耶香は傷つかないかなって」
「もちろん紗耶香だって表向きは祝福してくれると思う。でもさ裏ではすっごい傷ついてるかもしれない。『私はもう二度と感じれないことを栞里は感じてる。ズルい』ってね。そう考えるとどうしても紗耶香に言い出せなくてね」
「私は幸せ。でも紗耶香のことを考えたら同時に幸せでいても良いのかなとも思う」
なるほど............。
「............私の意見でも良い?」
「良いよ」
「紗耶香さんなら『私のことを気にせず幸せになれ!!おめでとう!!!』って言うと思うし、彼氏さんには『私の親友泣かせたら容赦しないから』って言うと思う。だから大丈夫だと思う」
「でもさ...............」
「うん。栞里さんが心配に思うのも仕方ないと思う。でもさ、栞里さんの人生は栞里さんのものだから紗耶香さんは関係ないと思う。それにもう私達共依存になってるから心配ないよ」
「共依存.............?前に聞いたことあるけど..............」
「それなら話は早いと思う。私と紗耶香さんは今でもお互いの傷をなめ合いながら生きてるの。お互いまっとうな人生を送ってほしいと思いつつ、でも自分がいる最底辺に落ちてきてほしいとも思ってる。お互いそんなこと思ってるから私達はもう前に進むことを諦めちゃったんだ」
「大切な人を亡くした悲しみを背負いながら、お互いの傷をなめ合いながら生きていくって決めたの。新しい人生よりも今の人生を優先したの」
「それってさ............幸せになることを諦めたってこと?」
「うん、その通り。私達は幸せになることを諦めて心の安定を手に入れたの。自分と同じ境遇の人間同士がお互いに足を引っ張り合いながら、どうにかして今を生きようと決めたの。それが私達」
「あの日私達の幸せはなくなった。手の届かないところに行ってしまった。だから私達の幸せってものはもう存在しないの。だから多分紗耶香さんは逆に栞里さんのことを祝福すると思うよ。『私の分まで幸せになってね』ってね」
「............................。」
「ごめんね栞里さん、こんなこと言って。でもこれが今の私達なんだ。だからきっと大丈夫。私達はもう幸せにはなれないけど、栞里さんはまだまだ幸せになれるんだから。私達は栞里さんを祝福します。栞里さんが幸せになってくれることは私達も嬉しいからね。だから気にしなくても良いと思うよ。紗耶香さんにも早く伝えてあげてほしいな」
「.....................................ごめん。考える時間をくれないかな?」
思いっきり頭を抱え込んで悩む栞里さん。ごめんね急にこんなこと言って。でも今しかないと思ったんだよね。
「うん。でも私は言った方が良いと思うよ。それに私達の関係はあまり気にしなくても大丈夫。だってこれが今の私達なんだからね」
「......................うん」
「私また温泉に入ってくるからあとよろしくねー」
「.................うん」
明日栞里さんが紗耶香さんに言うかどうか。楽しみだなぁ。
とりあえず書きたいことは書ききった気がするので次の話しで終わりにしようと思います。おそらく次を最後にこの話は更新することはないと思います。




