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58話

 もういいや。本音で紗耶香さんと話そう。


 今まで隠してきたけどもういいや。変に強がる必要もないし、なによりももう私には失うものなんてないんだから。


 そんな決意をして私は家に帰る。まだ仕事から帰って来てない紗耶香さんをご飯を作って待つ。いつもの日常を、あの頃と同じように過ごすために。


 今日ばかりは沙那ねぇにも聞いてもらいたいから沙那ねぇの分もお母さんの分もご飯作る。............後で紗耶香さんに食べてもらえば無駄にはならないから。


 だから思い出の味であるカレーを作る。私も沙那ねぇも学校に通いながら、料理が下手ながら作ったあの時のカレーを作る。多分それが今日にお似合いだと思う。


 ――――――


「やっぱり陽凪ちゃんだ。どうしたの?もしかして私のことが恋しくなったの?」


「おかえり紗耶香さん。.............ううん、紗耶香お義姉ちゃん」


「ただいま陽凪ちゃん。それよりも、なになに?いきなりどうしたの?今まで『お義姉ちゃん』なんて言ってくれなかったのに。もしかして熱でもある?」


 だって今日逃したら一生言えないんだから仕方ないでしょ?ある意味紗耶香さんと決別するんだから。


「あるわけないじゃん。もし熱があったらここに来れるほど強くない!家で寝てる!!」


「あはは、たしかにそうだね。それよりもなんか美味しい匂いするんだけど!?」


「晩御飯作っといたよ。紗耶香お義姉ちゃんが好きな甘めのカレーに私特性のサラダ!」


「やった!すぐ着替えてくるから待ってて!!」


 うん、待ってるよ。


 さて私はカレー温め直しますか。


 ...................今になって手が震えてくる。今までお母さんにしか見せたことないところを見せるんだから。沙那ねぇには見せれなかった私の弱い所を見せるんだから。もう私が強がらなくても良いんだから。


「着替えてきたよー!ご飯はーやーくー!」


 もう、小さい子じゃないんだから。...........でもこういうのもなんかいいな。『家族』って感じがする。


「あとちょっと待って!ぬるいカレーなんて嫌でしょ?」


「嫌!!!」


「じゃあ待って」


 うん、なんか楽しい。今までも同じことしたけどそれ以上に何か違うように感じる。


「................ん。これで良し」


 ご飯をよそって、そこそこ具材が入ったルーを入れて、おかわり分もちゃんと残して、サラダとドレッシングをテーブルに持っていく。もちろん沙那ねぇとお母さんの分もね。


 沙那ねぇとお母さんの写真をテーブルにおいてその前に小さな器に入れたカレーを置いとく。


「陽凪ちゃんご飯ありがとー!早く食べよ!」


「私もお腹空いてるから早く食べたい!..............いただきます」


「いただきます!」


 パクリと一口。


 うん、懐かしい味。あの時から食べてた味だ。あれ以来具材を変えたり、隠し味を変えたりして敢えてこうやって作ってなかったけど、やっぱり美味しいな。


 紗耶香さんを見ると口に入れたスプーンを咥えたまま固まってる。...........もしかして気づいた?


「どうしたの?もしかして、美味しくなかった?」


 答えは察せるけど敢えて聞いてみる。


「..........美味しいよ。ただ、ちょっとね、懐かしいなって思って。今まで陽凪ちゃんカレー作ってたけどこの味付けしてなかったよね?」


「うん」


「..........なんでか聞いても良い?」


 そんなの決まってる。


「沙那ねぇのこと思い出して辛くなるから作らなかっただけ」


「.............そっか」


 それから無言のままご飯を食べる。


 ほんとはこんなつもりじゃなかったけど仕方ない。このままご飯食べて私のことを話すしかない。


「...........紗耶香お義姉ちゃん」


「.............どうしたの?」


「こんなタイミングでこれ作ってごめんね」


「そんなことない!!久しぶりにさーちゃんのこと感じれて私は嬉しかったよ!でもね!どうしてもね!あの頃のことを思い出すんだ。さーちゃんと陽凪ちゃんと私の3人でいた頃を。だから、私の方こそごめんね」


「大丈夫...........。あのね、ご飯食べた後でいいから話したいことがあるんだ。こうやって4人で話したいんだ」


「分かった。...............ねぇ聞いて!!今日さ会社行く途中に猫見たんだけどそれがまだ子猫ですっっっっっっごい可愛かったんだよ!!」


 それからはいつも通りたわいのない話をした。正直何か別のことを話してたら落ち着くから嬉しかった。


 ............それにこうやって気軽に、適当なことを話せることが私にとっては一番嬉しかった。だから次こそはちゃんと話すんだよ私。


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