55話
電車とバスに揺られること1時間半、徒歩約20分の少し離れた自然豊かな所に私は学校を休んで来た。
なぜならここにはお母さんと沙那ねぇが眠ってる場所だから。
来る途中に見た窓から流れる景色、雲一つない澄んだ青空、そしてまだ暑い日差し。これらが私を出迎えてくれた。
鳥の鳴く声や虫の鳴き声、近くに川があるから川のせせらぎも少しだけ聞こえる。
人の声なんてほとんどしない。それが今の私にとっては一番落ち着く。
ここに来るのはやっぱりまだ勇気がいる。でも2人に伝えたいこともあった。だから今日私はここに来た。
「お盆ぶりだね。ただいま........なのかな?まぁいいや。ヤッホお母さん、沙那ねぇ。お盆から今日までの短い時間で色々あってね、それを話に来たんだ」
カバンの中から線香を出して火をつける。これくらいは私にだってできるんだからしないとね。
「ん。ちょっと、ね。私1人じゃ決めれないというか、これで合ってたのかな、って思ってね。つまらないかもしれないけど聞いてくれると嬉しいな」
本当は返事を聞きたいけどそれは叶わない。だからこうやってここに来て聞いてもらうだけでもしてほしかった。
「お母さんも沙那ねぇも知ってる私の大切な友達の美咲とね喧嘩したわけじゃないんだけど、ちょっと傷つけること言っちゃった...........。」
「もちろん後悔なんてしてない。今の私、というかもうこの人生においての工藤陽凪にはもったいない人だからね、私なんかに構ってなくて自由に幸せに美咲には生きてほしかったんだ」
「上から目線だし、誰目線だよって言われるけど私はそう思ったの。こんな私を堂々と友達だって、私を何よりも優先するって言ったのは美咲が初めてだし、美咲しか言わない」
「こんな人間として壊れてる私をそう言ってくれるんだよ?私なんかに構ってたら絶対幸せになれない。私が美咲を不幸にしてしまう。だからこの前ね突き放すようなこと言ったの。でもね、今になってすっごい苦しいんだ」
「美咲を傷つけたのは紛れもない私なんだって、私のエゴなんだって分かってる。でも、でも!それでも痛いの!苦しいの!辛いの!!私が美咲を傷つけたんじゃないかって!もうこれ以上話してくれないんじゃないかって!..............私のワガママがこんなことにつながったのは分かってる。でもね、それでもね私は美咲とは友達でいたい」
「普通に話して遊んで、時には愚痴を言いあったり喧嘩もしたい。でも私は美咲に依存したくない。このままだと私は確実に美咲に依存してしまうからそれだけは嫌だった。私のせいで、私という重りのせいで美咲の足を引っ張りたくなかったの」
「それにもう学校は始まっててほぼ毎日美咲と顔を合わせないといけないの。...........明日会って他人の振りをされたらどうしよう、嫌われてたらどうしよう、そんなことしか考えられなくてここに逃げてきちゃった」
................よし!言いたいことは言えた。本音も語れた。
誰もいない、誰にも聞かれないこの場所だから言えたこと。
少しだけ声に出すことで楽になった。まだまだ痛いし辛いけどさっきまでよりかは多少はね。
こんなこと聞かされるお母さんと沙那ねぇには申し訳なく思ってる。こんな風に育ったしまった私の姿を見せるのは心苦しいけど、これが今の私なんだよ。
捻くれてて、本音を誰にでも隠してて、そのくせこうやって追い詰められることが多くて、そして何よりも私は身勝手なんだよ。
.............こんな風に育ってしまってごめんなさい。あの頃の私はもういない。昔お母さんが抱きしめてくれた私はもういない。昔沙那ねぇが手を引いてくれた私はもういない。
ここにいるのはお母さんと沙那ねぇを見送った私。愛する人をなくして何かを失った私。
それが今の私。
だから、その、ごめんなさい。
でもねたしかにここに来て、話して少しだけ楽になったのは本当。
...................やっぱり私って幼いなぁ。お母さんと沙那ねぇに頼らないと何もやっていけないんだから。
.............................うん。今日はありがとうね。もし何か言いたいことがあれば夢に出てきてね。そしたら私はまた、お母さんに、沙那ねぇに、その、抱きしめてもらえるかもしれないから、ね?
高校生になったからってこの性格だけは変わらない。お母さんに笑われたって、沙那ねぇにからかわれたって変わるはずがない。
だってこの性格もお母さんたちが遺してくれた大事な物だから。
それじゃ今度こそバイバイ。次来るのはいつになるか分からないけどまた来るから。
次に来るときは笑顔で来れるようにするからさ、優しく見守っててほしいな。
ずっと大好きだよお母さん、沙那ねぇ。




