53話
『明日学校に行くから放課後あの時の場所、屋上に来て。話があるから』
深夜美咲の家の私が借りている?住ませてもらってる?部屋から美咲にメッセージを送っている。
直接言う勇気なんてないし、今面と向かって話すとせっかく決めた覚悟が鈍っちゃうからこれでごめんね。でもどうせ美咲はもう寝てるはずだから丁度いいはず.............。
明日が私にとっての分岐点。
明日の私の選択次第で私の人生は大きく変わる。
でも、もう心の中では決めてる。
私は―――。
――――――
やっと放課後になった。短いはずなのにすごくすごく長く感じてしまった。
私が緊張しているからだろうなぁ........。
だって極力美咲とは会わないように、話さないようにしてたから朝は美咲が家を出るよりも早く学校に行って、休憩中はこれまでのことを未空に謝ったら泣かれてそれを対処してたし、お昼ご飯は教室から逃げて独りで食べた。
そんなことをしてたからだろうなぁ。でも美咲の顔を見たら私の決心が鈍りそうだもん。
この気持ちは絶対に隠し通すって決めたんだから。
「いきなり呼び出してどうした?今日1日全然話してくれなかったのとなんか関係あるのか?」
来た。
落ち着け私。いつも通り。いつも通り笑うんだ。
そうだよ、って軽い調子で笑い飛ばすんだよ。
「そうだよ?ちゃんと意味はあるよ」
「そっか.........。ならその意味ってのを教えてくれないか?あんたが私を無視するせいで少し心が傷付いてるんだよ」
ごめんね............。こうやって優しい美咲の性格を利用して本当にごめんね。
「........................この前ここで私に言ってくれたこと、病室で私に言ってくれたこと美咲は覚えてる?」
「当たり前だよ。忘れるわけないだろう。陽凪の泣きそうな顔だって覚えてるよ」
そっか........。やっぱり美咲はすごいな。そんな美咲だからこそ.........。
「そのことに対する答えを今ここで出そうと思ってね」
我慢しろ私。美咲を泣かすかもしれない。
でも我慢しろ。これがきっと一番の解決方法なんだから。
「.............美咲にはやっぱりこんな私を背負わせられないな、だから美咲はこれからは私に構わずに好きなことをしてほしいの。好きな人を作って幸せになってほしい。好きな人と結ばれて可愛い子供を産んでほしい。そしてその人達を私に自慢してほしい。良いだろぉ~、うらやましいだろぉ~ってさ」
「私にはもうそんなの望めないからせめて美咲にだけは幸せになってほしい。美咲の幸せは私の幸せでもあるんだから。だからお願い。もう私に構わないで。私と一緒に死ぬなんて言ったこと取り消して」
お願い。どうか私の言うことを聞いて...........!!!
「.........そんなの無理だよ。そう簡単に陽凪のこと見捨てられるかよ。私の大切な親友なんだぞ。陽凪が苦しんでるなら私も一緒に苦しむ。陽凪が楽しそうにしてたら私も楽しい。私だって陽凪と同じなんだよ。あんたの幸せが私の幸せ。陽凪、あんたをおいて私だけが幸せになるなんて私が許せない。自分自身が憎いくらい許せない」
なんで......なんで分かってくれないの!!
「私のことなんて放っておいてよ!!私は私で生きていくから.......!!美咲は美咲で生きていってよ!!」
「そんなの無理だ!私はあんたのことが心配なんだよ!!」
「なんで!?私なんて美咲に心配される権利なんてない!!こんな最底辺で暮らしてるような人間なんだから心配されても意味がない!!」
「私が陽凪を心配する権利はちゃんとある!!」
「そんなものはない!!仮にあるなら証明してみせてよ!その心配する権利の証拠を!!」
「陽凪のことが好きなんだよ!!それだけで十分理由になるだろ!!なぁいい加減そう自分を卑下するのはやめろよ!!!あんたは私にとってそんなやつじゃない!普通の人間だよ!!あんたはただの女子高生で私の親友の工藤陽凪なんだよ!!」
「..............っ!」
..........そう言ってくれるのは美咲だけだよ。でもね、だからこそ私はあなたを私から解放したい。
「............................ありがとう。そう言ってくれるのは美咲だけだよ。でもねだからこそ私は美咲を自由にしたい」
「...........どういうことだよ」
「だって、こんな私をそこまで言ってくれるのは美咲しかいないよ?昔からずっと私の側にいてくれた。一緒に笑って、泣いて、怒られて、時には盛大な喧嘩をしたりしたのは美咲だけ。だからこそだよ」
「.....................。」
「私にとって美咲の存在はなくてはならない存在なの。でもね同時に私がいなかったら美咲は今頃彼氏でも作って幸せになってたかもしれない。そう考えるとやっぱり私の存在って邪魔なのかなって」
「.........おい。あの時と同じことをしたら今度こそ私はあんたを離さないからな」
「大丈夫。さすがに今回はしないから安心して」
「ならひとまずは良いだろう」
「話続けるね?だから私はどうすれば良いか考えたわけ。その結果、美咲を私から解放する。すぐにはいかない。この関係になってしまったからには私と美咲は深く繋がりすぎてる。だからそれを私は絶ちたいだけ。美咲の行動決定の基盤である私をなくしたい。美咲は美咲の好きにして良いんだよ、私以外の友達としょっちゅう遊んでも良い、私をおいてどこに行っても良い、私のことなんか考えずに好きにしてほしい。それが私の願い」
「もちろん絶対にすぐにはこうもいかない。どんなに時間がかかっても良い。でもこれだけは絶対に許さない。今すぐ撤回してほしい」
「.............なにを撤回するんだよ?」
「私と一緒に死ぬこと。美咲にはやっぱりなにがあっても生きてほしい。私が死んだとしても私の代わりに、私の分までいろいろなこと見て、聞いて、感じて、それでいつか私に教えてほしいな」
「私は、もし私が死んだとしても美咲に追いかけてきてほしくない。私が死ぬってことは多分私は私の人生に満足して死ぬから、それなのに美咲まで巻き込めないでしょ?」
「............おいていかれる私はどうすれば良いんだよ」
「我慢して。ただそれだけ。私を過去の存在としていつか忘れるものとして、その時を生きる美咲の幸せな思い出で塗りつぶしてほしいな。それで私は報われるから。それに私だってできたんだよ?なら美咲でもできるはずだから」
「.........................分かった。それだけは撤回する。でもなそれ以外はやっぱりどう考えても無理だわ。私は陽凪が大切。目を離すと何をするか分からないあんたが心配」
「ほんとはね、もう不必要に私に干渉しないで、普通の友達に戻ろうって言いたいけど美咲は納得してくれないのは分かってるからこれだけしか言えない。でもね私はね、美咲のことが好き。好きだからこそこんなこと言うの。だからお願い、ね?」
「.................今日のところはこれで納得してやる。でもな、いいか?私はいつだってあんたを見てる。将来違う大学に行って、住む場所が遠くなっても私は陽凪を見続ける。もし仮に私が誰かと付き合っていようと結婚してようと私の中の優先順位は陽凪が一番。何があっても、どんなことがあっても連絡があれば絶対に陽凪の側に駆け付けるから。たとえ別れても、離婚してでも絶対に行くから。これだけは約束させてくれ」
............もう。そういうところが好きなんだよ。
でもねその優先順位が変わってくれることを私は願うよ。私の存在がいつか美咲の中でただの友達になれることを願ってるよ。
「分かった。でもね無理だけはしちゃダメだよ」
「無理せずに陽凪の友達できると思うか?」
「思わない。でもね無理してほしくないから」
「それは私だって同じ。陽凪にだけは無理してほしくない」
.............うん。これで良かったんだ。良かったはず。だから泣くな私。悲しくなるな私。覚悟してたことだろ。
こうやって私のせいで不幸せになる人を少なくしたいから深い関係を切ろうと考えたんでしょ。
だから、我慢しろ、私。
でもこれは良いよね?私、これまで頑張ったんだもん。これぐらいは許されるよね。
これをして美咲に嫌われても良い。むしろそっちの方が私の目的だと良いのかも?
「美咲ありがとね。こんな私と友達になってくれて。自己中でワガママで重い女なのに見捨てないでくれてありがとう」
「いまさら何言ってんだよ。そんなの私には関係ないよ。陽凪は私の親友。それだけの理由で十分だろ?」
ありがとう。そうやって笑って言ってくれて嬉しいよ。
もとから考えたことをいまからする。
................いくよ。最初で最後の私からの愛情表現。
失敗だけはするなよ。
ゆっくり美咲の目の前まで歩く。
私よりも背が高い美咲を少しだけ見上げる。
私はちゃんと笑っていられてるのかな?泣いてないかな?
多分大丈夫。これで大丈夫。
.............よし。
.....................................................チュッ。
少しだけ背伸びをして触れるだけのキスをする。一瞬しか触れ合わなかったけどそれでいい。
最低な行為かもしれない。でも思い出に残したくて。
せめて私の初めてを美咲にあげたくて。
ただの自己満足でしかない。でもこれでいいんだ。私にはこれしかないんだから。
ありがとう美咲。こんな私を拒絶しないでいてくれてありがとう。
そしてさよなら私の初恋よ。




