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ゲイン  作者: 渡邊裕多郎
第三章
20/46

その4

       2




「もし、この場で儂を殺しても、儂の部下たちが貴様を八つ裂きにするぞ」


 少ししてアンソニーが言ってきた。


「そのことがわかっているのか?」


 俺はアンソニーの前に右手をだした。


「その一、そういう脅し文句を言う奴は、もう後がないって遠まわしに言ってるのと同じだ。その二、俺は槍で腹を貫かれても生きている。簡単に言えば不死身なわけだ。その三、いま、あんたたちの部下は残らず出払って、外で吸血鬼の組織と大喧嘩をしている。かなり数は減るだろうな。俺を八つ裂きにできる部下が何人残るか。その四、俺はさっき言ったぞ。いまの時点では、俺はあんたを傷つけるつもりはない。OK?」


 アンソニー不愉快そうに俺を眺めた。


「儂を傷つける気がないのなら、何が望みだ?」


「何、ちょっと約束してほしいんだよ。俺はエルザを都までつれて行く。その邪魔をしないでくれ」


「儂がその要求を受け入れたとして、何か見返りはあるのかね?」


「あるぜ。傷つけないって言っておいて、ちっとばかし申し訳ないがな」


 俺は腰の長剣を抜いた。ダマスカス鋼の、かなり硬度をあげた奴である。その先端をアンソニーにむけた。同時にアンソニーの目に敵意が宿る。


「貴様」


「まあ聞きな。俺は槍で腹を射抜かれた。やられっぱなしではおもしろくない。本当だったらやり返してる。報復ってのは、冒険者や傭兵の世界では当然の行為だからな。つまり、俺はいま、あんたの腹を、この長剣でぶっ刺してもいいんだぜ? そうなったら、あんたも相当苦しむだろうな。下手したら死ぬ。あんた死にたいのか?」


「冗談ではない」


「なら話は簡単だ。俺はエルザを都までつれて行く。あんたはその邪魔をしない。この要求をあんたが受け入れたとして、その見返りが、いま、この場で剣を刺されない。だから、いまの時点で、俺はあんたを傷つける気はないって言ったんだ。これでいいだろう?」


「ふざけているのか」


「見返りとしては十分だと思うがな」


 言い、俺は長剣を腰に収めた。アンソニーが、敵意の宿ったままの瞳で俺をにらみつける。


「それは脅迫とどう違うのだ?」


「あんたがやった行為は不当な暴力とどう違うんだ?」


「儂は高貴なるエルフ族の長だぞ。貴様のような獣人の冒険者とは、立っている場所の違いを考えてもらおうか」


「偉そうにするんなら、罪もない子供をさらうような真似はするべきじゃなかったな。というか、気がついてないのか? いま、あんたの部下どもは外で吸血鬼連中と大喧嘩している。ここにいるのは俺とあんただけだ。つまり、俺はあんたを問答無用で始末して、こっそり抜けだすこともできるんだぞ。それをしないで話し合いで解決しようとしてるんだ。礼のひとつくらいあってもいいだろうに?」


 あらためて、俺は腰の長剣に手をかけた。ガチャ、と軽く鳴らす。これでアンソニーもおとなしくなった。


「じゃ、そういうことで。俺はエルザをつれて行く。もう邪魔はしないでくれよ。――ああ、どこにいるのかはわかってるから、教えてくれなくていい。扉や牢に鍵がかかってたら問答無用でぶっ壊すから、そのつもりでいてくれ」


 俺は左腕の腕輪を周囲にむけた。こっちか。


「そのまま行かすわけにはいかないわね」


 玉座から離れ、奥の扉へむかって歩きかけた俺に、聞き覚えのあるような、ないような声がした。振りむくと、兵士みたいな恰好をした女性が立っている。まずったな。アンソニーとの話に夢中になってて気づかなかったらしい。


 そして、その女性はエルフではなかった。美人なんだが、髪は赤くて額に角、背中には丸めた翼。頬にある魔道の紋様は絆創膏で隠されていたが、これはドラゴニュートである。


「驚いたな。この街にいるドラゴニュートって、シャイアンだけじゃなかったのか」


 なんとなく言ったら、そのドラゴニュートの女性が柳眉をひそめた。


「あなた、シャイアンを知っているの?」


「宿でいろいろ話をしたよ。君の親戚か?」


「シャイアンは私の妹よ」


「これはこれは」


 俺はわざとらしく驚いてみせた。妹は街でまじめに働いてるのに、姉はエルフ組織の一員――たぶん用心棒の類か。


「じゃ、自己紹介しておこうか。俺はゲインと言うんだ。彼女の友達だよ」


「妹と友達? 信じられないわね」


「チップで銀貨をやった。あとで聞いてみな」


 俺の言葉に、ドラゴニュートの女性が、少しの間、沈黙した。


「ずいぶんと金回りがいいのね。私はキャロルって名前よ」


「よろしく、キャロル。ところで、そのまま行かすわけにはいかないって、どういうことだ?」


「言葉通りの意味よ」


「ふーむ」


 俺は玉座に座ったままのアンソニーと、キャロルを交互に見た。――アンソニーの娘のメアリーが、俺を懐柔するため、シャイアンを人質にとったって話はするべきじゃないな。エルフの組織も意見が統一されてるわけじゃないらしいし、ここでそれを言ったら俺の期待とは違う形で面倒なことになる。それよりも言うべきなのはべつの件だ。


「なるほどな。だんだん読めてきたぞ」


 俺はキャロルを見すえた。


「昼間は悪かったな。痛かっただろ?」


 俺が言っても、キャロルの表情は変わらなかった。


「なんのこと?」


「昼間、幌馬車にいたエルザをさらったドラゴンは君だって言ってるんだ。君、本来の姿に戻れるんだろう?」


 質問の形式だが、俺は確認の意思をこめてキャロルに言った。

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