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ゲイン  作者: 渡邊裕多郎
第二章
16/46

その8

「毛むくじゃらで、角が生えて、牙がすごい」


 エルザが呆然とつぶやいた。


「それが、ゲインの、本当の姿なの?」


 俺は苦笑した


「あんまり見てくれがよくないから、できればこの姿にはなりたくなかったんだがな。いまのこれは、どうしても戦わなきゃいけないときの姿だ。俺の姿は嫌だったか?」


「ううん」


 エルザが首を横に振った。


「確かに怖いけど、声はいつもの、やさしいゲインだもの」


「いつまでその娘としゃべっている?」


 ドラゴンが俺に声をかけてきた。


「何か勘違いをしているようだから言っておこう。私は、その娘をつれてくるようには言われたが、ほかのものを傷つけるなとは言われていない。貴様を殺すことなど――」


「ああそうかい」


 言いながら俺は振りむき、持っていた小箱をドラゴンの顔にむけて力まかせに投げつけた。ドラゴンの顔に小箱がめりこみ、ドラゴンが絶叫をあげる。


「さすがに効いただろう。槍や甲冑をつくる鉄鋼の塊だからな。ついでに言うなら重量は一〇〇ポンドだ」


 あらためて俺は足元の小箱を拾い上げ、ドラゴンを見つめた。


「大砲の弾を直撃で食らったら、城壁だって崩れ落ちる。ドラゴンはどうだろうな?」


「――貴様、この私を怒らせたらどうなるのかわかっているのか?」


 ドラゴンが自分の頬を前脚で押さえながらにらみつけてきた」


「私がその気になったら、炎の吐息で、貴様など、丸焦げになるんだぞ」


「そんなことしたら、ここにいるエルザも丸焦げになるぞ」


 俺の言葉に、ドラゴンがおとなしくなった。


「いま、おまえは言ったな。『私は、その娘をつれてくるようには言われたが、ほかのものを傷つけるなとは言われていない』――誰に言われたのかは知らないし、どうしてそんな命令をドラゴンが聞いているのかはわからないが、そういう状況だって言うなら、おまえはエルザを殺すことはできない。つまり、ブレスは使えないはずだ。というか、使えるなら、とっくに使ってるだろう」


 ドラゴンの眼光が倍増しになった。痛いところを突かれたって感じだな。


「それでも、私がその気になったら、貴様を噛み殺すことも」


 言いかけたドラゴンが顔をのけぞらせた。俺のぶん投げた、鉄鋼入りの小箱がふたたび直撃したのである。今度はあごだ。ドラゴンが顔を押さえてのたうつ。


「その割には噛み殺せないな。獣人の冒険者の実力に驚いたかい?」


 第三の小箱を拾いあげながら、俺はドラゴンに声をかけた。


「これに懲りたら、二度と俺たちに関わろうとしないことだな。俺は、その娘をつれて、都に行こうとしてるだけだ。おまえがちょっかいをかけてこなければ、やり返したりもしない」


 小箱をかまえながら俺は宣言した。ドラゴンがのけぞらせた顔を、あらためてこっちへむける。


「ほら、どこへかは知らないけど、とっとと帰りな」


 俺の言葉に、ドラゴンが無言で翼を羽ばたかせた。バッサバッサ音をたてながら、幌の失せた馬車から離れる。


 このまま行ってくれるか。ほっとなった俺の見えている視界の果て――まだかすかに見えている、エルフと吸血鬼がすくっている街から、何か光のようなものがキラリと見えた。ヤバい!!


「伏せろ!!」


 俺がエルザに言った直後、俺の腹を強烈な衝撃が駆けた。見ると、俺の腹から槍みたいな棒が生えている。街から超音速で飛んできたらしい。くそ、不覚をとったな。まだ街から見える視界の範囲内だったか。だったら、何者かが遠距離飛行系の補助魔法を使えば、槍でも弓矢でも自在に届く。


「しくじったな」


 独り言のつもりだったんだが、同時に口から鮮血が漏れた。立っていられなくなり、膝をつく。


「ゲイン!」


 エルザが驚きの声をあげると同時に、さっき、飛び去ろうとしていたドラゴンが降りてきた。このまま殺されるか? 考えている俺の前で、ドラゴンが急に視線を逸らせた。街のほうを見る。


「この娘をつれてきてほしい、頼むなどと言っておきながら、ほかに伏兵も用意していたとは。あの男、結局は私を信用していなかったのだな」


 事実、一匹じゃ、何もできなかっただろうが。――軽口を言ってやろうと思ったが、声の代わりにでたのは血塊だった。


「まあいい。この娘をつれて行けば、それで私の仕事は終わる」


 ドラゴンが言い、前脚でエルザをつかんだ。


「離して!」


「そうはいかん。これも約束でな」


 悲鳴をあげるエルザをつかんだまま、ドラゴンが翼を羽ばたかせた。そのまま幌馬車から離れる。


「本当なら噛み殺してやるところだがな。いまは槍つきでまずそうだし、やめておこう。大急ぎで医者に診てもらえば助かるかもしれんぞ。チャンスをやる」


 ドラゴンが俺に言い、背中をむけて、街のあるほうまで飛んで行った。

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