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ゲイン  作者: 渡邊裕多郎
第二章
13/46

その5

「さて、都へ行く馬車を探すとするか」


 市場にくる馬車のなかに、一台くらいはそういうのがあるはずだ。後は頼みこめば、なんとかなる。――しばらく見まわしてると、四頭立ての大型だが、まるで豪勢には見えない農業用の幌馬車に、小さめの箱を重そうに積んでいるおやっさんを見つけた。ほかの連中と話している言葉を聞いても、あまり方言はない。


「よう、こんちは。この荷物って、なんなんだ? ひょっとして都に運ぶのかい?」


 俺が声をかけたら、おやっさんが妙な顔でこっちをむいた。


「これは、鍛冶屋がつくる槍や甲冑のもとになる鉄鋼でな」


「あ、なるほどな」


 四頭立てで、庶民にしては珍しいと思っていたら、重量が普通じゃないわけか。


「それがおまえさんに何か関係があるのかい?」


「もし都に行くんだったら、俺たちも馬車に乗せて、一緒につれて行ってほしいって思ってな。代わりに、この荷物を積むの、手伝うぜ」


「あ、そういうことか。かまわんぞ」


「ありがとよ」


 俺は心から礼を言った。吸血鬼やエルフのような、財を持っている連中とは違い、特にとられるものもない庶民というのは心が広くて助かる。妙な駆け引きもしないしな。おやっさんが俺の足元を指さした。


「じゃ、その辺の荷物、全部、荷台に乗せてくれ」


「任せときな」


 言って俺はエルザから手を離し、腕をまくった。


「好きにしていていいけど、俺の目の届く場所から離れたら駄目だぞ。ここは人さらいがでるからな」


「うん」


 エルザがおとなしくうなずいたのを確認し、俺は近くの箱に手をかけた。


「へえ、こりゃまた、大した力持ちだな」


 しばらく鉄鋼の入った箱を荷台に積んでいたら、おやっさんが感心したみたいに言ってきた。


「その鉄鋼、一箱で一〇〇ポンド(四三・三五九キログラム)もあるんだぞ。それをさっきから、三箱くらい、まとめてひょいひょいと。しかも、休憩もとらずに、平気な顔で何往復もして。なんでそんなことができるんだ?」


「実を言うと、俺は獣人でな」


「お、そうなんだ」


 おやっさんが、少し意外そうな顔をした。あ、まずったかな。


「獣人は嫌いだったか?」


 ちょっと心配になって訊いたら、おやっさんが慌てたみたいに手を左右に振った。


「あ、そういうことじゃなくてな。珍しいから、へえと思っただけだ。すると、夜には変身するわけか?」


「その気になったら昼間でも変身できるぜ。逆に、夜、おとなしくすることもできる。おやっさんのことを襲ったりはしないから安心しな」


「その辺は信用してるよ。本当に悪い奴は、自分が獣人だってことを隠しておくからな。それに、おまえさんは働き者だ。――ああ、もういいもういい。予定の分は積んだから」


 話をしながらも、鉄鋼を馬車に積んでいたら、おやっさんが制止の声をかけてきた。


「これ以上載せたら、荷台が陥没しちまう。それにしても驚いたな。普通なら、休み休みで、丸一日かけて荷物を積むんだが、昼前に終わっちまった。昼飯は、この街じゃなくて、弁当を買って、手綱を握りながらを食うとするか」


「じゃ、もう、この街をでるわけか?」


 馬車の荷台から降りて、両手についた埃をパラパラ払いながら笑顔で訊いたら、おやっさんも笑顔を返した。


「あと、積んだ分の鉄鋼代を払って、それから弁当を買うから、少し待っててくれ」


「わかった。じゃ、俺も弁当を買うとするか。おーいエルザ!」


 荷物を積みながらも、常に視界に入れておいたエルザに声をかけたら、地面に落書きをして遊んでいたエルザがこっちをむいた。


「ゲイン、都に行くの?」


 嬉しそうに言いながら駆け寄ってくる。


「その予定なんだけど、まずは、これからの弁当を買うぞ。何がいい?」


「私、ハンバーグ!」


「ハンバーグが好きなんだな。でも、それは弁当にならないぞ。一日で腐っちまう。ジャーキーにしろ」


「ジャーキーは硬いからいや。だったらパンとチーズがいい」


「わかったわかった。じゃ、そうするか」


 エルザのリクエストしたパンとチーズ、それから干し野菜にドライフィッシュを買った俺たちが馬車まで戻ると、おやっさんが笑顔で手を振ってきた。鉄鋼を積む作業が速く済んだので機嫌がいいらしい。


「おう、きたな。後ろの荷台の隙間に乗りな」


「ありがとうな。ほら、エルザ」


 俺はエルザを抱きあげて馬車の荷台に乗せ、つづいて俺も乗った。


「じゃ、行くぞ。ハイヨ!」


 ぴしいという鞭の音が響き、馬車がゆっくりと走りだした。


 これで、吸血鬼とエルフのいがみ合う街とはおさらばだった。

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