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悪役皇女は二度目だけど溺愛ENDに突入中  作者: 人参栽培農園
入学試験編
34/37

33話・乱闘騒ぎの前夜祭③

 

「一般生徒及び受験生はこの場から去れ。この件の関係者に該当するものはその場に残り我々の指示に従ってもらう。総員、直ちに行動に移せ!」


「「「ハッ!!」」」


 生徒会。そう名乗る彼らは命令を難なくこなし、あれだけいた野次馬も何事も無かったかのように消えていた。


「下手に動くと面倒が増えそうだな」


 私たちを地面に下ろし、生徒会の様子を伺う。


 意識の無い生徒が何台もの担架で医務室へと運び込まれていくところを見ると、今回の騒ぎはかなり大きなものだったのだと思った。


「お、俺………俺じゃない! 俺はやってない! 操られたんだ。そうだ。俺は操られたんだ!!」


 意識を現実へと引き戻したのはユーリにズタボロにされたチンピラ先輩の一声。

 いつの間にか川から救出されていたようで、魔法で陸地に運ばれている際もとんだ妄言を吐いている。


「………あの先輩。私の大切な家族を傷つけておいて、よくそんなことが言えるわね」


 チンピラ先輩に文句を言ってやろうと立ち上がると、ノアの手のひらが顔の前におかれ無言のストップがかかる。


「退きなさい、ノア。あいつの顔面にもう一発食らわせてやらないと私の気が収まらないわ」

「お前絶対魔力込めて思いっきり殺るだろ。今は我慢しろ。


 俺一人ならこの場くらいどうにでもできるが、あの生徒会の奴らにお前ら二人抱えてだとあまり現実的じゃない」

「こいつの意見に賛成するようであまりいい気分ではありませんが、私も今は耐え忍ぶ時だと思います。私のことは見ての通り大丈夫ですし。何より、たとえ殴るためとはいえ、あんな人間に触れるなんて、私の精神が崩壊します」

「………ユーリ。あんたいい顔して何言ってるの。傷と一緒に頭もイカれちゃったの……? やっぱりワンパン──」

「いやいや。こいつの場合はこれが正常だから気にするな」


 キリッと顔で何か言っているユーリにすかさず変なフォローを入れる。

「変な誤解されるだろ!」とノアを睨むユーリに対し、「ただの事実だろうが」と小声で応戦するノア。……うーん。成長しても中身は変わらないなあ。


 ギャーギャー騒いでいるのはこの二人だけではなかった。


「や、やめろっ! 俺は悪くない!」

「ガっくん!! やめてっ! ガっくんを連れていかないで!」


 生徒会役員の人達に両手首を後ろで拘束され連行されるチンピラ先輩。その隣には先輩の彼女さんが。


 一見、随分とラブラブな関係だけれど、そもそも今回の原因の発端は彼女さんの浮気なわけで………

 なんとも言えぬ複雑な気持ちを胸の内にとどめて行く末を見守る。


 先輩の目線の先には丸く穴が空いた空間。中は何処かの牢屋に近い構造だ。


 あの中に入れって言われたら、そりゃあ騒ぐわよ。


「元はと言えば、あいつが俺の女に手を出したからこうなったんだ。俺は悪くないっ」


 責任転嫁も甚だしい、が。先輩の言う、()()()()()というワードに引っかかりを覚え、一応念の為、確認を。

 連行される先輩を指さし隣に立つユーリを見やる。


「あんなこと言ってるけど。あの先輩の彼女さんに手を出したの?」

「だ、出してませんよっ! 姫様以外は全員ただの雌豚ですから」

「…………あ、そう…………」


 本音を言えば、こんな爽やかイケメンな顔した人間からそんな毒、聞きたくなかったわ。

 聞かなかったことにしてチンピラ先輩とその彼女へと顔を戻す。


 先頭に立ち指示を下すのは涼し気な灰色の髪と瞳をした中性的な人物だ。歳は十七、八歳くらい。多分高等部の先輩だ。

 髪を高いところで結っているため、余計に男女の判断が困難だが、ズボンを履いているから恐らく男だと思う。


 彼は先輩が空間に呑み込まれる最後の瞬間に、目を合わせ、言い聞かせるように言った。


「安心しろ。生徒であり、受験生を監視する役目を持つ貴方が、役目を放棄してまでこのような騒ぎを起こした理由を質問するだけだ」


「嫌だ! ここには入りたくな──」

「いやああっ! ガっくん! ガっくん!!」


「チッ、うるさい小バエ共が。そんなにその男といたいのならば」


「───え?」


「お前も一緒にいけ」


 トンっと背中を軽く押すと、彼女はすぐにバランスを崩し、先輩と共に独房へと姿を消した。


 暫く、何も無くなった宙を冷たく見つめていた。


 さて。そう呟き、その場にくるりと背を向けて美しい所作でこちらに歩み寄る。

 緊張を飲み込むように唾を飲み、喉が上下に動く。


「生徒からの通報にあったのは、お前か」


 顔はユーリで固定したまま視線の端で私とノアを捕らえ、再びユーリへと戻す。


「たった今独房送りにした中等部二年、ガストル・ララバイ。彼は初め川で発見された。意識はあったが、妄言ばかりでこちらの話がまるで通じない。………率直に聞こう。あの男を川へ飛ばしたのはお前か?」


「私です。彼は巻き込まれただけですので」


「………ほう」


「ッ、姫様………っ」


 ユーリを背にして立ち、二人の間に割って入る。

 事実を伝えただけなのに、ユーリは焦った声を出していた。大方、チンピラ先輩を吹っ飛ばした犯人である私の今後の待遇を危惧してくれているのだと思う。


 問答無用でチンピラ先輩とついでにその彼女さんを独房へと追いやった人物だ。

 きっとこの人が求めているのはそれまでの過程ではなく、結果なのだろう。


「貴様、名前はなんという」

「…………ラヴィニア・フローシスです」

「フローシス。赤い瞳に赤い髪………まあいい。名前の確認さえ出来れば問題は無い。たとえ()()()()()()()()()、学院にいる限り、規則は絶対」


 本当は言いたいことは山ほどあった。けれどら無駄に足掻いて痛い目を見るくらいなら、と体の力を抜く。


 今にも噛み付く勢いで睨みつけるノアに軽く首を振ってみせ、手を出さないよう目で指示を出す。


「………クソっ………」


 喉の奥から絞り出した声もほとんど表に出ることも無く、その口の中に留まった。


「………随分と聞き分けがいいな」

「私、痛いのは嫌なので。それに、話を聞くだけなのでしょう?」

「………では──」


「あ、あのっ!すみません。少し待ってください!」


「「!?」」


 たどたどしいけれど、はっきりと声を張り上げて、私の手を拘束しようとした目の前の男に()()()をかけたのは、ユーリが先程チンピラ先輩から庇った少女だった。


「ちょっと貴方。今は彼らと副会長が話しているのよ」

「は、はい、すみません。だけど、その。二人は私を庇って、助けてくれた恩人なんです!だからっ!」


「………」


 他の生徒会役員が止めるのも聞かず、ただ私達のために。このお父様を想起させる冷血で残酷で血も涙も無さそうな男に精一杯の勇気を振り絞って真実を告げようとしてくれている。


 しかし、副会長だという男は、やはり視線の端で彼女を捉えただけで、「その事については後で聞く」と構わず私の手を自身の片手で押さえ付け背中にまわし拘束した。


「ッ……」

「姫様っ」


「騒ぐな。軽く拘束しただけだ。──直ぐに転移の用意をしろ」


「ハッ」


 視界の一部が瞬きをするほんの僅かの間に歪み、独房への道は直ぐに作り上げられた。


「行け」


 耳元でそう指示され、自ら独房へと足を踏み出す。


(独房に大人しく入ったとして、他人の意見に聞く耳も持たない、自分の意見が全てだとおっているような、そんな男が私の話をまともに聞くはずもない。どうすれば……)


 考えている最中に「やめなさい!」「落ち着け!」と誰かを止めようとする声が聞こえる。


「生徒会だろうがなんだろうが関係ない。ラヴィニアから手を離せ」

「その人は私が唯一主と認めたお方だ。この命を懸けてでも御守りするのが騎士の役目」


 お互い不服だと言わんばかりの表情をしているけれど、武器を構え、陣を形成する。


 ヒュゥゥゥウウウウ。物凄い勢いで風を斬る音が聞こえたのは、二人が前へ駆け出した直後だった。


「──ヒュース。一旦ストップだ」


 声は私たちの真上、上空から聞こえた。

 そして空から落下する重力に身をまかせ、獣の爪で抉るように、空間を()()()()()


「ッ…………グレン…………」


 ストンと片足から華麗に着地し、その青みがかった黒の長髪を靡かせるグレンと呼ばれた男。

 身長180センチ程あるであろうグレンは、右手をズボンのポケットに突っ込みながら、左肩にふわりと揺れる桃色髪の少女を担いでいた。


 副会長─ヒュースは憎しみを込めた瞳で睨みつけると、腰に置かれた剣の十字鍔に指を添え、ゆっくりと動作を止めることなく真っ直ぐに引き抜き、その切っ先を突き出す。


「おいグレン。任務執行の邪魔をするということがどういうことか、学院の()()であるお前ならわかるだろう」

「そう殺気立つなって。事情は全部この手紙に書いてある。ついでにこれは、()()()()()だ」

「………わかった。話を聞こう」


 ハラハラしながら見守る中、未だ肩に担がれたままの少女とグレンを交互に見やり、大人しく剣を鞘に収める。


「あの。そろそろ下ろしていただけませんか」

「おっと、悪かったな。今下ろす──って痛っ、いてっ……あんま暴れるなっ」


 下ろせと言いつつも、自力で下りようと暴れ、挙句グレンの頬に蹴りをかます。

 少女が地面へと足をつけた頃には、グレンの綺麗な髪はボサボサに、猫にイタヅラでもされたようだった。


「ラヴィニア様………っ」


 その聞き覚えのある声で、少女は私の名を呼び、駆け足で近寄りその勢いのまま飛びつくように抱きついた。


「し、シェリー………痛い。腕が痛いわ」

「え、あっ………すみませんっ」


 直ぐに私の上から退くと、顔をヒュースへ向けて、


「これ、この手錠。解いて貰えますか」


 と、一言。なんて怖いもの知らずな……


 それ以上に驚いたのは、チッと舌打ちしながらも手錠を解除するヒュースの行動だ。

 あのヒュースが。あのヒュースが………っ!


 その態度の違いっぷりに、逆に背筋がゾッとした。


「………おい。今何を考えていた」

「いえ。別に、なんでも………」


 言いながら視線を横に流す。


(失礼なこと考えていたのバレてた~っ)


 手錠を乱暴に外し、そのままの足でグレンの胸ぐらを掴みにかかる。

 グレンとヒュースは互いに目を逸らさずに、主にヒュースが一方的に睨みつけ、「クソっ」と一言言い残すと手を離し、いつの間にかグレンから受け取った手紙を握りつぶし投げつけた。


「ラヴィニア様。手を、拝借させていただきますね」


 手錠が外されたまま背中に置かれた私の手に、シェリーが優しく触れると、暖かい自然な光に包まれ、直ぐに痛みも腫れも引いた。


「ありがとう、シェリー。やっぱりシェリーの治癒能力は神がかってるわね!」

「ふふふ。ラヴィニア様にお褒めいただけるなんて、超越至極です」

「ついでで悪いのだけど、ユーリの腕も治してあげて貰えないかしら」

「もちろん!他でもない、ラヴィニア様の頼みですもの。断る理由なんてありませんわ」


 すっと立ち上がりユーリの腕に触れると同じように光を発し、時間が戻るかのように傷が癒えて行く。


 その際。治療するシェリーと腕を差し出すノアが万遍の笑みを浮かべて、


「私の傷はかすり傷ですので、貴方に治してもらわずとも日が経てば勝手に治ります」

「ラヴィニア様の頼みを断るつもりですか?」

「………卑怯だぞ。貴様」

「貸しひとつ、ですよ」


 こんな会話をしていたことなど、私は知る由もなかった。




「さあラヴィニア様。そこで棒立ちになっているお二人も。院長室へ参りましょう」

「え? 院長室? でも、私、あの先輩吹っ飛ばしちゃって。今事情聴取の最中なのだけど………」

「大丈夫です。既に話は通してありますから。ね?」

「………ああ。アウロラ学院長直々の申し出だ。今回は見逃す。だが、次があると思うなよ」

「そんな怖い顔すんなって。眉間のしわ、取れなくなるぞ」


 からかうようにヒュースの眉間をつつくと、ヒュースの何かが切れたようで、再び鞘から剣を抜き出し、鬼の形相でグレンを追いかけ始めた。


 あの手紙に一体何が書かれてあったのか。内容が非常に気になるところだ。


「さ、今のうちにさっさと用事を済ませてしまいましょう」

「そ、そうね……」


 いつの間にやら逞しく育った彼女に少々ビビりながら、私たち四人は学院の中心部に聳え立つ王立ギルド学院─院長室へと向かった。


毎週金曜日に投稿します。

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