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悪役皇女は二度目だけど溺愛ENDに突入中  作者: 人参栽培農園
氷の都編
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23話・氷の都③

 


「ねえ、シェリーは一緒じゃないの?」


 キョロキョロ辺りを見回して、いつも一緒にいるはずの親友であり姉妹のような少女の存在がないことに気づく。


「あいつは昨日から用事があるとかで、お前が邸を出て直ぐにどこかへ消えていったぞ。俺ももう少し早くこっちへ来ていれば、その後の地獄を味わわずに済んだというのにっ」

「そう。ロゼットによっぽど酷く扱われたのね」


 ノアはここへ来る前のことを思い出し、心底悔しそうな声音で、四つん這いになり雪の積もった地面へ拳を叩き付けた。


 私が思っていた通り、ロゼットに色々と雑用させられてきたのだろう。

 普段は面倒くさがり屋だけど、義理は律儀に守る性格だから邸でお世話になっているロゼットのお願い(命令)を断れなかったのね。ご愁傷さまです。


「一日がかりでやっと邸の大掃除が済んだと思えば、今度は買い出しを手伝えだなんだと<転移魔法>を休む間もなく使わされ……。齢八歳で屍になるかと思ったぞ俺は」

「た、大変だったのねえ」


 予想以上にロゼットに使われたようで、体から魂が抜けて真っ白の状態となったノアは天を仰いで今にも死んでしまいそうな勢いだった。


 ノアが苦労していたのは丁度、私がリケーネ(こっち)で優雅にティータイムをしていた頃だろう。

 そう考えると、なんだか相槌をうつのも罪悪感が生まれてしまう。


「一人でここに来ようと思っていたのに、そこの居候がいつの間にか紛れ込んでいたとはな」

「一人で抜け駆けなんてさせると思ったか?」

「お前ストーカーかよ」

「あんたがそれ言う?」


 ユーリにツッコミを入れたノアに更にツッコミを入れるテオ王子。

 なんだかんだいって持ち前の状況順応能力ですっかりに輪に溶け込んでいた。


 態度は大きいし口も悪いけど、上手く二人がフォローを入れて仲良くやっているみたい。

 ほーら、また楽しそうな会話が、


「てゆうか犯罪者もどきの方々はさっさとここからご退場願いたいんだけど。邪魔だしどっか行ってくれる?」

「このガキ態度悪すぎるだろ。どういう教育をしているんだ王国は」

「そうですね。口の利き方には気をつけるべきではないでしょうか。特に姫様にはもっと丁寧な言葉遣いで神と同等に接するべき──った!」

「いちいち大袈裟なんだよお前は」

「だからといって拳で頭を殴る必要は無いだろう!」


 前言撤回っ!!この人たち会話のレベルが低い上にめちゃくちゃ犬猿の仲だった!

 これはあれね。混ぜるな危険って表示されているものを全て混ぜてしまった結果を見ているようなものね。


 男子諸君から少し距離を置いた場所で一人うんうんと頷いている最中に、城の方からこちらへ向かってくる人影が見えた。

 多分セドリックだと思う。


(ん?今日は関係者以外この場所へは立ち入り禁止。ノアとユーリは関係者じゃないよね。てことは、見つかったらまずいんじゃ……)


 そこまで考えてようやく事の重大さに気づく。

 このままセドリックに見つかれば、この二人を友達と説明しても父やサミュエルに報告されるだろう。

 魔法を使える子供が立ち入り禁止区域に侵入した、とサミュエルの耳に入れば帝国の反逆だとか言われて同盟解除を宣言されなねない。

 和平交渉決裂の原因を作る。

 それ即ち、ノアの主である私処刑……


「ノア!ユーリ!来て早々悪いんだけど、今すぐ邸へ戻って!」

「?ひ、姫様?どうかしましたか?」

「説明している暇はないの!セドリックがすぐそこまで来てるから!」

「あー……、なるほどな。おい居候、今日は帰るぞ」

「なっ、え?は??」


 まだ小さくはっきりと見えないセドリックへ視線を向け目を細めて納得する。

 戸惑うユーリの首根っこを半ば強引に掴み、転移する時に現れる光がノアとユーリを包み込む。

 言葉足らずな私の意図をなぜか理解できたノア。……だてに天才を名乗るだけのことはあるわね。


「じゃあな。また来る」

「うん。……うん?え、また?」


 シュンっと音もなく光とともに一瞬で消え去ってしまった。

 また来るって、ここにまた来るの?

 その疑問の答えを聞く前に消えてしまったから、今更それを知る手段もないのだけど。





  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ノアたちが帰ってから少しして、城の方に見えるセドリックの姿が段々はっきりと目に映るようになってきた。

 その手には二つの袋が掛けられていて、中には王国で流行っているという遊びに必要な道具が詰まっていた。

 走ってきたのかここにつく頃には汗も大量にかいていて息切れしていた。


「ハア、ハアっ。た、ただいま戻りましたぁ」

「そんなに慌てなくても大丈夫だったのに」

「いえ、先程お二人の近くに知らない人影が見えた気がして、急いで戻ったのですが。……どうやら私の気の所為のようですね」


 あ、危なかった……

 執事やメイドは基本の運動能力も教養も備わっているから、動体視力が化け物じみていても納得できる。それも王子の専属の執事ともなれば、なにかしら突出した特技を持っていても不思議ではない。


 そこで私は気づいた。

 セドリックは本当に気の所為だと思っているみたいだけど、テオ王子がノアとユーリについて何か言ったらまずい、と。

 どんなに証拠を隠そうがこの世界は使える主が全ての主従関係の世界。


 ここはもう私の高等話しそらし術でなんとしても話の主導権を握らなければっ!


「せっかくセドリックが道具を持ってきてくれたのだし、早速遊びましょう!ね?テオ王子もご一緒に遊びましょう!さあ今すぐ!さあ!さあ!!」

「わ、分かったから。だから離れて。顔近い。……まあ、あんたの監視もしなきゃいけないし、しょうがないからつきあってあげる」


 生意気なのは変わらないけど、作戦的には大成功ね。やれば出来る子なのよ私は。


 早速、専用の靴を履き氷上へ向かう。

 普通の靴とは違って銀製の薄い板が靴の裏に刺さっている独特な形をしているため、バランスが取りずらく歩く度に左右に転びかけてしまう。

 テオ王子は王国の流行りの遊びと言うだけあって慣れた仕草で氷上へ向かう。


「ふぅー、大丈夫。大丈夫よ私。落ち着いてー。よし、あと一歩、──う、ギャッ!!?」


 ツルッと足を滑らして豪快にコケた。

 お尻を思いっきり氷上に打ち付けてしまい、あまりの痛さに骨が折れたかと思った。


「ちょっと!大丈夫なの!?」

「い、痛いです。めちゃくちゃ痛いです。お尻が軽く四つくらいに割れちゃうくらいには痛いです」

「いやお尻はそんな簡単に割れないから。でも、ははっ、あんな綺麗に滑って転ぶなんて……ふっふふ…、どんだけ運動音痴なのさ…はははっ」


(あれ、テオ王子、笑ってる? 初めて見る良い笑顔が私の派手な転び方に関してっていうのがちょっと気になるところだけど)


 深く考えれば考える程複雑な感情になっていく。

 監視だとか仕方がないからとか色々言い訳つけてるけど、このツンデレっ子、本当は思いっきり遊びたかったのだろうか。


 今まで「バカじゃないの」とか「常識でしょ」とか「僕よりも精神年齢低い考えしか出せないなんて能無しにも程があるよ」とかバカにされるわ鼻で笑われるわの繰り返しだった。


 でも本当は身体にこびりついてしまったツン属性が邪魔をして素直になれない普通の少年なのではないだろうか。


「ねえ知ってた?ここの湖は数年に一度、氷が全部溶けて地面には綺麗な七色の花々が咲くんだ」

「この氷が全部……」


 今目に映るのは一面の銀景色。

 真っ白な雪でここに一面の花畑が出来るなんて想像もつかない。

 テオ王子はまた懐かし思い出に浸り柔らかい表情を湖の中心へ向ける。

 それに合わせるように私の顔も自然と同じ方向へと向く。


「もしも氷が全部溶けたら、あんたも転ばなくて済むね」

「え……?心配してくれ──

「これ以上の恥晒しな行動は見ているこっちのいい迷惑だからね」

「………」


 不敵に微笑みスィーと氷上を滑り駆け巡るテオ王子。

 ここでこう来るとは油断した、と改めてテオ王子への認知を確認する。

 産まれたての子鹿の如く足腰をプルプル震えさせながら必死に立ち上がる。

 が、ステーンっと懲りもせず再びコケる。


「やっぱりその程度なんだね。はぁ~あ、もしかしたらって思ったのに、期待して損した」


 ブチッと何かが切れる音がした。

 テオ王子の心底期待外れだと言わんばかりの声が頭上から降ってくる。

 今までの生活がどうであれ、中身は結局テオ王子なのだ。


「ふ、ふふ。年上のお姉さんをバカにするのも大概にしなさい。クソガキ」

「え……、」

「こんな遊び、十秒あれば十分よ。ふ、ふふ、さあ逃げ惑いなさい!はい、いーち、にぃーい……」

「なんか怖いんだけど……、たかが遊びに何ムキになってるのさ!?」

「さーん、よーん……」

「ひ、ヒイィイイイイイ!!」


 数が増える事にゆっくりと氷上に立ち上がり恨みつらみを込めた瞳にテオ王子を映す。

 さすがに怖くなったのか片手を口元にやりわなわなと震わせ情けない悲鳴をあげながら猛スピードで距離をとる。


「……じゅーう。ふふふ、私をバカにしたこと、たっぷり後悔させてあげるわ」


 十秒あれば十分、その言葉に嘘偽りなく、十秒数え終えると同時に生死をかけた恐怖の鬼ごっこが始まった。


「嫌だあーーーーー!!怖い!さっきまで転びまくってたクセに、そんな急にプロ並みに滑れるようになるなんて、本当に同一人物なわけ!?」

「これでも私、運動神経には自信があるんです。それよりもそんなに喋っていると、……舌、噛みますよ?」

「だから怖いって!セドリック助けて!!──ってちょっと何一人でティーセット持ってくつろいでるのさ!!」


 助けを求めた先の執事はのほほんとした表情でいつの間にか用意されていたテラスに一人ティーカップを持ってくつろいでる。


 鬼の形相で追いかける私からついには涙目になって必死に逃げ惑うテオ王子の後ろ姿。

 私S(エス)ではないけど、なんというか、追いかけるっていい気分ね~。


 鬼の形相から一変、万遍の笑みで追いかけ続ける。


「ひいぃぃっ!笑顔で追いかけられても怖いってば!!スピード増してるし!!」


 こうして地獄の鬼ごっこは何時間も楽しく続いた。




次回6日に投稿です

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