18話・冬の季節になりました①
「──ハックショイっ!」
自室に私の大きなくしゃみが轟く。
ちょうど五連発の快挙を成し遂げた所だった。
日を追う事に気温はどんどん低下していき、つい先日降った雪が庭に積もっている。
最近では毛布を片時も手放せず、邸の中を共に徘徊するくらい仲良くなった。今ではあのリディをも差し置いて一番の相棒となっている。
「姫様、もう少し厚い素材の服をお持ちしましょうか?」
「大丈夫よ。ズズ………は、は、ハックショイ!!」
大丈夫と言いつつもくしゃみや鼻水を出してしまうものだから、リディは呆れた顔で部屋を出ていった。多分掛け布団か何かを持ってきてくれるのだろう。
今でも十分に暖かい服装をしているというのに鼻水が止まらない。ついには鼻を啜りすぎて真っ赤になってしまった。
どれくらいひどいかは、すぐ近くにセットしたゴミ箱から大量に溢れ出るゴミの山を見てくれればわかるだろう。
「ははっ、オヤジみたいなくしゃみだな」
「オヤジって……せめてそこはオバサンにしてよ」
「それでいいのか」
「人間は誰しも歳をとるものなんです。それに今のくしゃみ、とても姫様らしくて私は好きですよ」
「ユーリ、フォローになってない。それ全然フォローできてないわ」
本当に本心で言っていたのか、ユーリはキョトンとした顔で首をかたむけてしまった。
ユーリのこういう私に甘すぎるとこ、嬉しいけどよくないと思うんだよね。
どんな失敗をしても許されてしまうから罪悪感が薄れていく。
それに慣れる事が一番怖いと実感した瞬間だった。
再び鼻水とくしゃみを連発させていると、部屋をノックする音が耳に入る。
「どうぞ」と短い返事をしたあと、湯気の出ているマグカップを両手に持ったシェリーがひょっこり顔を出した。
「ラヴィニア様~、暖かいココアをお入れしましたので、飲んで体を温めてくださいね。ちなみに砂糖は大目です」
「ありがとう。ちょうど暖かい飲み物を飲みたいと思っていたの。ふぅ、ふぅ……。っ、美味しい!味も私好みだし、さすがシェリー」
「ふふ、ありがとうございます」
ここまで完璧なココアはそう誰にでも作れるものでは無い。まして他人の好みに合わせて作るのは至難の業だ。
それだけシェリーが私を思って一生懸命に作ってくれたのだということが伝わった。
顔を綻ばせて熱々のココアをちびちびと飲み進めていたら、ノアがベッド近くの床からムクリと立ち上がりこちらへ歩み寄って来た。
そして万遍の笑みで言い放つ。
「ココアでだいぶ体は温まっただろう。だったら今度はその脳みそを温めるための勉強を再会しようか」
ココアを飲む口が止まった。
マグカップを両手で持ったまま化石のようにカッチカチに固まる。
ここで口答えをしようものならあの万遍の笑みがブリザードの如く冷たい物に変わるだろう。
これは「はい」か「いいえ」で聞かれているのではない。初めから私にある選択肢は「はい」一択なのだ。
諦めて言うことを聞こうと決心した時、ノアがジト目で核心を突いてきた。
「見るからに嫌そうな顔だな」
「だ、だって、昨日も勉強頑張ったし?」
「お前も何ヶ月か前にアウロラから貰ったパンフレットを読んだだろう。学院への受験資格が得られる年齢は十二歳から、つまり残された時間はあと四年しか無いということだ」
「うっ……」
今私たちは全員八歳。
私からしてみれば後四年もの余裕があるって話なんだけど。
確かに四年で数千種類はいるモンスターについて熟知しろって言われても、魔法を全て習得しろってって言われるのと同じくらい難しい。
抵抗することを諦め毛布を引きずりながら席につく。
「──クシュっ!」
背後から私ではない別の誰かのくしゃみが轟いた。
まだ可愛げのあるくしゃみが誰のものなのか気になりついつい後ろに顔を向ける。
くしゃみの主はシェリーだった。
良く考えればこの邸に来てからシェリーの服は私のお下がりか着回しの様に交互に使っている物が全てだった。
「私のくしゃみなんかでラヴィニアのお勉強を邪魔してしまって申し訳ございません。部屋の外に出ていますね」
そう言って外へ出ようと歩き始めるシェリーの肩は少し震えていた。
片手で二の腕を抑えているのは寒いからだ。
いい加減自分の服だって欲しいだろうに、何も言わずただ笑顔を見せてくれることが無性に心苦しかった。
「待ってシェリー」
「え?」
「もう勉強なんかしている暇はないわ………」
カタッと椅子から立ち上がり赤い瞳に闘志を燃やす。
その隣でぎょっとした顔をするノア。
何をするつもりだ、と警戒体勢に入ったノアが私の肩に手を掛けるよりも先に言い放つ。
「シェリーの冬服を買いに行きましょう!」
「やはりな。言うと思ったんだよ俺は……」
「えっと、今日ですか?」
「もちろん。今日、いいえ、今すぐ行きましょう!」
「いいと思います。たまには息抜きだって必要ですからね」
ユーリとシェリーが賛成してくれたおかげでノアも折れたので、本日のお勉強は社会勉強に決定です。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私とノアは相変わらずフードを着用。
この髪の目立ち具合と言ったらそれはもう半端じゃないからね。
街は以前来た時よりもコートを着て出歩いている人が多くなり、街を灯す街灯は夜だけではなくいつの間にか昼間にも灯るようになっていた。
降っている雪と街灯の光が反射して幻想的な空間が生まれる。
「この街に来るのも随分と久しぶりね」
「三ヶ月以上は来ていないからな。にしても、わざわざ街で服を買わなくても陛下から贈るられてくるんじゃないのか」
「あのお父様が私なんかのために服を用意していると思う? お父様の事だからきっと用意していないに決まってるいるわ」
「むしろ贈ってくれない方が好きな服を選べていいと思いますよ」
今日のユーリは異様にポジティブシンキングね。
後ろで歩いていたシェリーがスキップで駆け寄った。
私の肩にポンと手を置いて顔を覗き込みながらにっこりと天使のスマイル。
何気ない笑顔だけれど、シェリーは美少女の部類に入るのでこんなにこやかに微笑まれては心臓に悪い。
シェリーは口元に人差し指を当て「んー」と何やら悩み始めた。
「ラヴィニア様なら白いレースが裾についているふんわりとした服とか、敢えて濃い赤色で黒いリボンのワンピースとかが似合うと思いますよ」
「いや、姫様でしたら黒をベースとしたドレスに青い刺繍を施した物が一番合うと思います」
「俺はミニスカ一択で」
「ノアの案は却下でお願いします。うーん、そうね、どれも素敵なデザインだと思う、ノア以外は。もういっそみんなで作った方が理想的な完成度になるんじゃない?……って、違うっ!シェリーの冬服を見に来たのに、なんで私のドレスコーディネートに目的が変更しているの!?」
危うく話がそのまま別の方向へ向かうところだったのを寸でのところで引き留めた。
それも見事なノリツッコミで周りに居る人達もこのノリを作った本人共もパチパチ拍手を送る。
送られたところで全く嬉しくはなかった。
思ったよりも大勢の人が私たちに注目していてかなり恥ずかしくなり、真っ赤になった顔を隠すため俯きながら三人の背中をグイグイ押してその場を離れる。
ある程度離れた所までやってくると、見覚えのある場所に到着した。
大きな噴水とその周りに木製のベンチが設置されているそこは、以前秋の大感謝祭に参加してできたてのパンを食べた場所だ。
「祭りの時のパン、美味かったな」
ノアも同じ事を考えていたようで、数ヶ月前の出来事を思い出して懐かしそうにベンチを眺めた。
「貴様がせっかく姫様が私にとくれたパンにかぶりついたのもしっかりと覚えている。そういえばあの時の決着、まだ着いていなかったな」
腰に差している護身用の剣の鍔を親指でピンッと上へ弾く。
今日のユーリはやっぱりテンションが高い。
まあ喧嘩するほど仲がいいとも言うし、ノアもノリノリだし、放っておいていいだろう。
しかし、この話に混ざること無く笑顔に影を落としてたっている人物が一人。
思い返してみれば、シェリーはその時誘拐されそうになっていたのだ。
そりゃあ確かに思い出したくも無い日に違いないだろう。それを掘り返すような真似をしてしまった。
「シェリー、あの」と宥めるように話し掛けると、両手をガシッと掴まれて「へ?」と間抜けな声が出た。
シェリーは左右にゆっくりと揺れ俯いていた顔を勢いよく上げた。
可愛らしい桃色の髪の束を少し口にくわえ、目は落っこちそうなくらい大きく開ける。
そこら辺のお化け屋敷やモンスターよりも恐怖を感じた。
「……ラヴィニア様」
「な、なぁに?どうしたのシェリー?」
「ノアさんがラヴィニア様のパンにかぶりついたというのは本当の話なんですか」
「ま、まあ。本当はユーリにあげようと思ってたんだけど、ノアが食べちゃって」
「そうですか。わかりました。 ラヴィニア様のパンを食べようとした時点であの二人は同罪。執行対象よ……ふふ、ふふふふふ」
ユーリもそうだけど、どうしてうちの子たちは皆時々サイコパスもどきになるのかしら。
でもシェリーが誘拐未遂の件で落ち込んでいるのではなく、パンをみんなで食べれなかった事にショックを受けているのだとわかって少し安心した。
鬼の形相で更に背中から鬼を出す勢いでノアとユーリの喧嘩に混ざりに行くその後ろ姿は勇ましいものだった。
(今のうちにシェリーに似合う服を探そうかな。随分と前にリディと来た時に見たはずなんだけど)
「先に服を探しに行ってくるねー」
盛り上がっている三人に水を刺すのも悪いと思って一声かけてから服屋の看板を探しに行く。
声をかけたところで既に戦争は始まっていたため、こちらの声など届いてもいないようだった。
八歳の体に戻って直ぐにリディと街へ来た時の事を必死に思い返すけれど、あれから半年近く経っているからか、記憶が曖昧だ。
「確か……」と霞みがかった記憶を伝って大通りを真っ直ぐ突き進む。
時々街の人にお店の特徴を言って思い当たるところを教えて貰い、手当り次第見て回った。
何軒か訪ねたけど全部ハズレで、いよいよ最後の一軒となった。
赤い屋根がトレードマークの店は何となく見覚えがあった。しかし何度か街へ来た時にたまたま目に入っただけかもしれないから、自分の記憶は宛に出来ない。
街の人の情報通り看板にはしっかり服屋の紋様が描かれており、ドアノブに手を掛けるとチリンチリンとベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませ~」
店内で服の整理をしていた女性店員が笑顔で出迎えてくれた。
今は一人で店番をしているようでこの店員さん以外は店内に見あたらない。
整理していた手を止め「どんな服をお求めですか?」とゆるく一つに結んだ髪を揺らして歩み寄る。
その時店員さんの視線は私のフードに止まった。
さすがにお店の中でフードを被り続けるのもどうかと思いフードを脱いで店員さんの顔色を伺う。
「あの──
「すっっっごく綺麗な赤髪ですね! 真っ直ぐでクセもなくて、すごく綺麗です!」
手を合わせて興奮しながら顔を近づけられから驚いて後ずさりしてしまった。
目を輝かせてハキハキと食い気味に話す店員は出迎えてくれた時の人と同一人物なのか疑ってしまうくらい別人と化していた。
その場に立ち尽くす私と目が合い、ようやく我に返ったのか、急に顔を赤くして小さくなってしまった。
「す、すみません!お客様の前でこんな醜態を晒してしまって。お恥ずかしい限りです……」
「ふふ、気にしなくて大丈夫ですよ。この赤髪珍しいですよね。私も自分以外に見た事ありませんから。でもこの髪のせいで、街を歩く時はフードを被り続けなくてはいけないから少し面倒な髪なのよね」
「それは勿体ないですよ!せっかく神様からそんな美しい赤髪を授かったのですから、存分に生かせる服をご用意させていただきます!」
「………ん?」
そこで気がついた。
この話の流れだと私が服を選びに来たという事になる。確かに一人で店に来れば誰だってそう思うだろう。
けれど、訂正するために店員に話しかけるも、
「いや、私の服じゃ……」
「お任せ下さい!!」
「これ、友達の……」
「服屋の誇りにかけてとっておきの服を見繕わせて頂きます! この赤髪だったら黒に赤のアクセントを加えたワンピースドレスが……いや、敢えて黒と白のマーブルで──」
「…………」
すっかり自分の世界に入り込んでしまった。
こういう時は誰が何を言っても聞いてはいないだろうから言うだけ無駄だと今までの経験で学んだ。
時間はまだたっぷりあるから気長に待とうと店内に設置されてある椅子に腰掛けた。
「あっ!そういえば最近隣国から輸入されてきたミニスカート型ワンピースが……」
「ミニスカだけは却下でお願いしますっ!」
声を荒らげて言ったため、店員もビクッと肩を震わせて驚いてしまった。
私がミニスカート型ワンピースなんて着ているところをノアが見れば鼻で笑って「馬子にも衣装だなぁ」とか言いそう。
うん、やっぱり却下で。
すぐに帰るつもりで一人でここまで来てしまったから、ノア達の様子が少しだけ気になる。
でもあの三人の事だからどっかで雪合戦でもやってそうだな、と想像して笑ってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方その頃、噴水前ではラヴィニアの予想通り、激しい雪合戦が行われていた。
初めは普通の雪合戦だったのだ。
丸めた小さな雪を投げ合うだけのシンプルな雪合戦。
「必殺、あの時の恨み百倍返しいぃぃいい!!」
「はっ、あまい!積雪ガァーーード!!」
「詰めが甘いのはそちらですよ、ノアさん。行きなさい、ガード崩し雪だるま!」
それが今では小さく丸めた雪の中に器用に石を詰め込み更に外をカチコチに硬め殺人ボールを作ったり、魔法を使い一瞬で何メートルもの壁をその場に作り出したり、その細い腕からは想像もつかない程の怪力で人間何十人分程もの巨大雪だるまで壁を破壊したりと、めちゃくちゃな雪合戦となっている。
最早これが雪合戦と呼んでいいものなのか、見ている誰もが疑問に思う激しさたった。
ドゴオオオォォオオオン。
バゴオオオォォオン。
ズドオォォオオオオン。
通常の雪合戦では決して聞こえるはずもない爆発音が連発し、噴水の周りの店からは人が溢れるようにでてきた。
「なんだなんだ」「祭りか?」と顔を見合わせて騒ぎ始める街の住人達に気づくこと無く雪合戦は続いていた。
「この雪合戦、なんか面白そうだな」
「そうだな。いっそ俺達も参戦するか!」
「僕もやりたいー!ねえ、兄ちゃんもやろうよー!」
「ここら辺にいる友達連れてみんなでやるか」
こうして老若男女問わず多くの人が三人を中心として雪合戦を始めた。
これが後の、冬の雪合戦祭りに繋がることを三人が知るのは季節がかなり過ぎ去ったあとのお話。
「……ちょっと待て。ラヴィニアはどこにいる」
「「………。」」
周りの騒がしさに気づきハッと我に戻され雪を投げる手を止める。
その騒々しさの中にラヴィニアの姿は見当たらなかった。
ラヴィニアが立っていた場所では子供たちが雪を丸く固めて笑顔で投げあっている。
「まさか、誘拐……?」
シェリーの言葉で三人の間に緊迫した空気が流れ出す。
ラヴィニアに何かあったらという不安と恐怖のせいで思考が悪い方へと進みその場に立ち尽くす。
不安を振り切り最初に行動に出たのはシェリーだった。下唇を血が出る程に噛み締めて苦々しい顔付きで走り出す。
「っ……、どこに行くつもりだっ!」
「ラヴィニア様を探しに行くに決まっているでしょう! もしも本当に誘拐なら、今度は私が守らなくちゃ」
「闇雲に走ったところで姫様に会えるとは限らない。スレ違いになることだってあり得る」
「っ、じゃあユーリさんは大人しくここに残っていればいいじゃないですか。私は探しに行きます。何があっても。」
揺るがぬ決意を持った瞳を向けられほんの一瞬、ユーリは表情を曇らせた。
しかし次の瞬間、その顔は何かを決意したような表情へと変え、くるりと後ろを振り返り噴水の方へ真っ直ぐ歩いていく。
ベンチの上に立ち上がると雪合戦を楽しんでいた人達の視線がユーリへと一心に向けられる。
その人たちの視線を受止め息を吸い込み大きな声で語り始める。
「雪合戦を楽しんでいる最中にすみません。実は私の知人の行方がわからなくなってしまい、もし出来ることなら手伝って頂きたいのです。もちろん手伝っていただいたからには報酬を差し上げます。どうか、どうかお願いしますっ!」
深々と頭を下げる。
後半は声が震えて上手く伝わったかどうか不安だった。
ユーリが話している間、街の人は誰一人喋ること無く黙って聞いていた。
小さな少年が頭を下げてまで自分以外の誰かを助けたいと願う姿にただ呆然と見守ることしか出来なかった。
ノアとシェリーもユーリのこの突拍子もない行動にラヴィニアを探しに行こうとする足を止め複雑な心情でユーリを見ていた。
誰も何も言わないシンとした状況が生まれる。
そんな中、一人のガタイのいい男が話しかけてきた。
「おっ、この間の坊主どもじゃないか。そこの嬢ちゃんはこの前一緒にいた嬢ちゃんじゃねーな。ってことは探してんのはあん時の子か」
よく見ればその人物は以前感謝祭の時に喧嘩祭りについてのルールを教えてくれた男だった。
男の発言を初めに次々と「俺も」「私も」と捜索に協力してくれる人が現れる。その光景を目の当たりにし、ユーリは感謝の言葉を口にしながら特徴を伝える。
「探しているのは赤い髪と瞳を持つ女の子です。髪は腰くらいまであるクセのない真っ直ぐな髪ですが、おそらくフードを被っていて一見しただけでは彼女だとわからないと思います」
「おーい皆!聞いたか!!赤い髪をしたフードを被っている女の子だ!! おい坊主、他に身長とか見た目の特徴はあるか?」
「年齢は八歳で、小さくて可愛らしい方です」
「……。」
キリッとしたキメ顔で言い放たれた言葉にさすがの男も何を言えばいいのかわからず黙り込んでしまった。
そこへフォローに入ろうとベンチへ上るノア。
「小さくて可愛らしい、で通じるかこのバカ居候!」と頭をグーで小突く。
頭を両手で抑え涙目になりながら痛みに耐えるユーリを放置し、代わりに詳しい特徴を伝える。
「身長は俺よりも拳一個分程小さくて、子供ながらに大人な雰囲気を持つ可愛らしい女の子だ」
「……最後の必要か?」
「は?ここが一番大事だろう」
「……仕方ねーな。──皆、追加情報だ!身長はこのフード被ってる坊主よりも拳一個分小さい可愛い女の子だ!!」
「可愛いって」「特徴かそれ」と困惑する人たちを前に、やっぱりそう思うよな、と自分で言っていて疑問に思った。
しかしこの二人は本気でそれを一番の特徴だと思っているらしく、質問する気にはなれなかった。
「そこのおっさん。俺はノア。こいつはユーリ。で、そこの女がシェリー」
「俺はデリックだ」
「デリックおっさん。街の人たちに呼びかけてくれてありがとな」
「感謝の言葉は嬢ちゃんが見つかってからにしな」
子供らしからぬ大人びた態度で感謝を伝えるノアに、こういう人助けも悪くは無いな、と笑顔になるデリック。
ノアとユーリの頭に軽く手を置き「行くか」と一言言うと「ああ!」「はい」と素っ気ないけれどやる気に満ち溢れた返事が返ってきた。
次回は22日投稿です