13話・薬草採集は魔物とともに①
あの事件からおよそ一ヶ月。
父からは全く音沙汰は無い。
シェリーはだいぶ邸にも慣れてきて私のドジもフォローしてくれるようなしっかりした性格になっていった。というか本来の性格がそうなんだと思う。
今日の朝食はとても美味しそうな匂いのコーンスープとフレンチトーストだ。
しかもなんとこれ、シェリーの手作りなんです。
彼女がなぜ調理場にいるのか。特に強制している訳では無いのだけど、邸に住まわせてもらっている身分だから、と自らメイドの仕事を引き受けたのだ。
全くあの二人にも見習って欲しい。
「ラヴィニア様、お口には合いましたでしょうか」
「ええ!特にこのコーンスープ!トロッとしている上にコーンの甘みも十分に詰まっていて、一流レストランで調理を任せられるんじゃないかしら」
「そうなのよ~。シェリーちゃんね、手際も良くてもうほんとに凄いの。いっそうちで雇っちゃおうかしら~」
顎に手を当ててジャスティンは本格的に考え始めた。
シェリーも「いいんですか!?」と満更でも無さそうな顔をしているので、近いうちにジャスティンに弟子ができるかもしれないわね。
そんなシェリーをじっと見つめているノアは警戒心がむき出しの状態で、その目はユーリに向ける瞳に似ていてかなり怖い。
そういえば、いつも騒がしいはずの朝食がやけに静かだ。これが普通であっていつもが異常なのだろうけれど慣れてしまうと物寂しいよな気もする。
なぜ今朝はこんなにも静かに感じるのか、それはユーリとノアが喧嘩をしていないからだ。
ユーリを見るとスプーンで掬ったスープを口へ運ぼうとしているのだが、口には入ることなく微妙に右にずれた所へ運ばれていた。目もなんだか虚ろで心ここに在らずと言った感じ。
「ユーリ大丈夫?なんだか顔色が悪いけど」
「……は、い。平気、です、よ」
笑顔を向けて返事を返してくれるけれど、いつもより反応が遅いし、返事も途切れ途切れにかえってくる。
とても平気そうには見えない。
なんとか食べ物を口に運んで食べているのでとりあえずは様子を見ることにしたのだが、次の瞬間。
ユーリはバタリと椅子から倒れ落ち、持っていたスプーンが地面に落ちる高い音が響く。
「──ユーリ!!?」
「ひ、めさま……」
その場にいた全員がユーリの側へと駆け寄る。普段口喧嘩をして仲の悪いノアですら血相を変えて駆けつけた。しかし、その時にはもうユーリの意識は途絶えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ユーリを自室のベッドまで運んだ後急いで医者を呼びすぐに診察を始める。
冷や汗を浮かべて息苦しそうに寝ているユーリを起こさないよう診断の結果は別室で聞くことにし、その場に居合わせた私とリディとノア、そしてシェリーは私の部屋へ移動した。
「症状は高熱に頭痛、そして嘔吐ですね。おそらく一ヶ月ほど前から街でも流行り始めている流行病だと思います。もう既に薬の調合に成功してはいるのですが」
「……が?」
「実は先程も言ったように、街でも流行っているためもう在庫が残っていないのです。この王都をでた先の森に調合に必要な薬草があって今とあるギルドに依頼しているのですがまだ薬草は届いておらず……」
「なるほどね。王都の外にある森ってそれなりに強い魔物も多いから並大抵の冒険者じゃ返り討ちにあうでしょうね」
(そう、並大抵の冒険者なら、ね)
教わってきた魔法を試すために近々森へ探検に行こうかなって思っていたので冒険者用の道具なら一通り揃えてある。
もちろんリディやほかのメイドたちには内緒でこっそり揃えました。前に平民になるって言ったら凄い腰を抜かしていたからね。
早速冒険用のリュックを取りだし中に色々と詰めていく。
「なんの準備だそれは。まさかとは思うが……」
「そのまさかだよノア。私、その薬草を取りに行くから」
「し、しかしっ、薬草のある場所はかなり危険な地帯で魔物も多く、恐れながら姫様では大変危険の伴うものとなってしまいます」
「そうだこのバカ姫。お前さっき自分で『並大抵の冒険者じゃ無理だ』って言ってただろうが。プロの冒険者が無理ならお前が行ったところでどうにもならないだろうが」
「だからノアにもついてきて欲しいの。ノアが行きたくないって言うなら私一人で行く」
「なに言って──」
「ラヴィニア様が行くのなら私もついて行きます」
「っ、お前も行くっていったらこのバカは後に引かなくなるだろうが。そのせいでラヴィニアが怪我してもいいのかよ」
「させないために行くんです。それにノアさんも心配なら一緒について来ればいいじゃないですか」
「………ユーリも、シェリーも、勿論ノアだって私にとってもう家族みたいな存在だよ。ノアがユーリみたいに苦しんでいたら、私は一人でも絶対に助けるために行動するよ」
怒涛の話し合いの末いよいよノアは頭を抱えて振ったりくしゃくしゃにしたりとかなり悩み出した。
しばらくその様子を見守っていると先程まで慌ただしく動いていたくせに急にピタリと止まってため息をもらした。
「だいたいラヴィニアが行くって言った時点で俺が行かないって言う手はないわけだ」
「断ればいいじゃないですか~」
「ちょっとシェリーさん。俺に対して当たり強くないですかね?」
「気のせいですよ」
「この野郎……ああもうっ!行ってやるよ。あの居候があんなだと夢見が悪いしな」
「ありがとうノア!」
やっぱり最後は私に甘いノアだった。
でも普段いがみ合っているユーリの為に何かしようとするノアの心遣いが私は何よりも嬉しく感じた。
照れ屋なノアは絶対にこのことをユーリには言わないと思うから私が知っておこう、そう思った。
こうしてラヴィニア探検隊が結成されユーリのために王都の外に位置する魔物の森へと薬草採集へ行くのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都を出て森の入口付近に着いた。
魔物の森と呼ばれているからもっと恐ろしいダークな感じのを想像していたけど、見たところ普通の森だ。
しかし何人もの冒険者がここで挫折しているのだからよっぽどの魔物がいるのだろう。
ゴクリと生唾を飲み込み緊張を高める。
怖くて引き返したいとも思ったけれど、ユーリの辛そうな顔が脳裏を過り深い森の中へと一歩を踏み出した。
ノアを先頭に私とシェリーは横並びになって森を進む。
医者によると森のかなり深い所に生えていているらしい。その薬草自体、自然に生えているのがかなり珍しいらしく、そこら一帯はかなり高い魔力が溜まっているという。それによって薬草が本来持つ効力を何倍にも引き伸ばされたものが育っているらしい。
それを調合して飲めばたった数日で治ると言われた。
街の人達のためにも必ず撮って帰らないと!
『グギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
「ぎゃああああああっ!?」
「人喰い花!?下がれラヴィニア!!」
突如草むらから飛び出した巨大な花のモンスターの鳴き声に私も色気のない叫び声を発してしまった。
だって私の真横から出てきたんだよ?
しかしノアもシェリーも何故か冷静で驚いた。シェリーに関しては今回初めて森に入ってモンスターに遭遇したはずなんだけど。
ノアが私を庇うように前に出て<火炎魔法>で燃やし尽くした。
人喰い花は悲鳴に近い鳴き声を上げだんだんと萎れていき、ついに灰になって風に吹かれてしまった。
どうやら倒せたらしい。
魔法陣を閉じ勢いよく私の肩を掴み怪我をしていないかチェックされた。
ノアくん君は私のオカンか。
「それにしてもびっくりしたー。モンスターてあんなに大きいんだね」
怪我がないことを確認し私たちは先へ進んだ。けれど進む度に何故か私が真っ先にモンスターと遭遇し襲われるのだ。
かなり恐怖である。その度にノアに守ってもらっちゃってるわけだから、ただの足でまといっていう事実が辛い。
その落ち込みを隠すようあえて明るく言うと、意外にもシェリーから返事が帰ってきた。
「あのサイズのモンスターはそうそういません。きっと薬草の生えている場所に溜まっている高密度の魔力の影響だと思います」
「シェリー頭いい……それに巨大モンスターにも動じないし、もしかして冒険者としての才能が!?嫌よ!シェリーは私の邸で雇うって決めているのだから!」
「安心してください。ラヴィニア様を置いてどこにも行きません。それに才能ではありませんよ。こういうのは慣れているので」
意味深なシェリーの一言に?を浮かべる私に対してノアは一瞬敵意のようなものをシェリーに向けた気がしたけれど、気のせいだよね。
シェリーはご両親に虐待されていたって言っていたからきっとそれのせいで恐怖への耐性がついてしまったのね、と勝手に解釈してしまう私。
奥に進むにつれモンスターの数が増えていき、私とシェリーも微力ながらノアの手助けをした。
だんだんと増えていく大量の人喰い花に囲まれ私たちは背中合わせになる。
ノアもここまでずっと私たちを守ってくれていた為、大分疲弊していている。
そして一向に減らない敵に私たちはついに───逃亡しました。
「足がとれちゃう……」
「それは大変ですラヴィニア様!ここは私がお姫様抱っこを──」
「お前にさせるくらいなら俺がする」
『グギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
「ノアが変なこと言ってるからまた敵が増えたじゃない!」
「俺が悪いのか?なあ、これ俺が悪いのか?」
「──汝、我の前に立ちはだかる敵に風を巻き起こせ!」
『グギャッ』
「やった命中……ってまた増えてるんだけどおおおおおお!?」
「逃げの一択だな」
「賛成です」
「だから私の足もげる!」
「私がお姫様抱っこを──」
「いや俺が──」
足も口も止まらない私たちは後ろに大量の敵を引連れて、最早どこを走っているのかさえわからず進んでいる。
時々後ろに魔法を放ち敵を減らそうと試みたが、さらに増えて終わった。
ノアの<転移魔法>を使うという手も考えたが、できないらしい。<転移魔法>は<魔力感知>を応用して使うらしく、間違えてモンスターの魔力の元へ転移してしまったらそれこそ絶体絶命のピンチだ。
場所の構造がわかれば使えないことも無いけれど、初めて行く場所だと危険が伴うため使わないと決めているとの事。
ひたすら全力疾走を続けていると隣に生えている木々の向こうからカサカサ物音が聞こえた。
後ろにもモンスターがいる為止まることは出来ず、走りながら戦闘態勢に入る私たち。
木々がだんだんと減っていき隣を走る何かの姿が見えてきた。
「やあ!」
「「「………」」」
木々を抜け私たちの目に映ったのはモンスターではなく冒険者だった。それも大喧嘩祭りでノアと対戦していたあのチャラチャラしたカイデンという男。
それを認識した瞬間、私とノアの時は色を失うようにして止まった。
その数秒後再びガサガサと木々が動き、「ぷはっ」と顔を出す人達が数名。
「なんだカイデン。この嬢ちゃん達と知り合いか?」
「この前王都へよった時に出会ってね。ドミニクもノア君の強さを見たら驚くと思うよ」
「えっ!何この子達!か~わ~い~い~!私はメグミっていうの、よろしくね~♪」
「おいメグ。そんなデレデレしてると嬢ちゃん達にひかれるぞ」
「おっさん黙って」
うるさいのが増えました。
『ギャ ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア』
敵も増えました。
何だこの状況は。脳の処理が追いつかない。
メグミと呼ばれた女性とおじさんはどうやらカイデン率いる冒険者パーティーのメンバーらしい。
さすがチャラ男カイデンのパーティーと言うだけあって騒がしい面々だ。
けれど騒いでいる暇も与えないかのように敵は目の前の草むらから姿を現し私たちの前にたちはだかる。運悪く一番敵の近くにいた私が標的となり、胴体から伸びる触手で私の右足首を掴み空高くへ持ち上げ逆さまにぶら下がるような体制になってしまった。
ここで問題が発生した。
女の子用の冒険服はなぜかミニスカートが主流で私もそれを着用している。
逆さまになっている今、スカートの前も後ろもおさえなければ見えてしまうのだ。私の下着が!
「お嬢さん!今助けるか───」
「待て!」「待って!」
「え?」
「もう少しで見えるんだ」
「あと少し待ちましょう」
「……君たち、鼻血と共に醜い欲望が出ているよ」
「ノアもシェリーもバカ!早く助けてよ!」
私の訴えも寂しくあろう事かあの二人は揃って鼻血を出しスカートがめくれる瞬間を凝視しているのだ。ノアはわかるけれどまさかシェリーまで……人は見かけによらないということがわかった。
しばらくすると触手がガクンと下がりだしその真下には人喰い花の口が待ち構えていた。
いよいよ死を覚悟し目を瞑る。
「──っ!」
気がつけば私はノアの腕の中に収まっており人喰い花はノアとカイデン、そしてメグミによって粉々にされていた。
目に浮かぶ涙をノアは苦笑して拭い「ごめんごめん」と軽く謝る。
「怖かったんだからね!死ぬかと思った」
「俺がいてラヴィニアが死ぬわけないだろ」
「それ、鼻血出して放置してた人のセリフとはとても思えないね」
「それはそれ、これはこれ。結局助かったんだから許せよ」
助けてくれたのには感謝するけど邪な気持ちで私を上空に放置したのはさすがに許せない。助け合いの精神!これ大切。
しかし敵はあの一体だけではない。
後ろからはその何十倍もの人喰い花が走ってきて地鳴りのような振動が私たちのすぐ後ろまで届いている。
「こうなったらもう自分と仲間を信じてひたすら前を進むしかなさそうだな」
「たまにはいいこと言うじゃないカイデン」
「俺も協力はする」
「ノア君が協力してくれるなら頼もしいね」
カイデンは剣を握り締め、ノアとメグミ一歩下がったところでサポート魔法の準備をする。ドミニクさんは守りが専門のようで私たちの周りに盾を生成してくれた。
盾の中でシェリーは私の足首の怪我に触れ詠唱を唱える。
「汝、我が主の痛みを消し去りたまえ」
淡い金の光とともに痛みはすぐに消えて何事も無かったかのような状態へ戻る。
「シェリーは<回復魔法>が使えるのね!」
「ほお、かなり手馴れている上にこんなハイレベルな<回復魔法>を使えるとなればAランクの冒険者にもなれるんじゃないか?」
「いえ、そんな。この力はラヴィニア様のために使うと決めているので」
「ありがとうシェリー。そういえばドミニクさん達は何ランクの冒険者なの?」
「一応Aランクの冒険者さ。だからそんな不安そうな顔をするな。安心しろ。ああ見えて実力は本物だ」
顔を前へ向けカイデン達を見る。
ドミニクさんの言う通りあの少人数で敵をなぎ倒しどんどん数を減らしていく。
それをじっと見つめ今自分に出来ることを考える。足でまといはもう嫌だ。
一度目を閉じて集中し、覚悟を決める。
「嬢ちゃん?どうしたんだ、ここにいれば安全だぞ」
「ううん。それじゃダメなの。自分の危機は自分で脱しなきゃ。私ももうこのパーティーの一員なんだから」
「ラヴィニア様、援護は私がします。だから遠慮なんてせずに全力で!」
「うん!後ろは任せたわよシェリー!」
そうして私はノアのいる場所まで向かうため目の前の敵を魔法で次々と吹き飛ばしていく。
そんなラヴィニアの後ろ姿をドミニクは信じられないと言った表情で見守る。
「あの嬢ちゃんは本当に子供か?あんなモンスターに囲まれた状況の中で仲間のために命を張る人間はそうそういない。いや、できないのが普通なんだ」
「ラヴィニア様はただの子供ではありません。私を救ってくれた、たった一つの希望なんです」
シェリーの瞳はラヴィニアを信頼する気持ちで溢れていた。
自分たちが子供の頃、こんなにも信頼し、守り抜きたいと思えるような人物にあったことがあっただろうか。
この子達は子供であって子供ではない。
そう思わざるを得なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「汝、我が敵を竜巻の如く巻き上げろ!」
『グギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
カイデンたちと残り数メートルまで近づくともう一度詠唱を唱え魔法陣を顕現させながら駆け寄る。
ちょうど私の魔法は背後からノアへ攻撃しようとしていた人喰い花に命中した。
背中合わせに戦い四人でだいぶ敵を倒したとは思うけど、その何倍もの敵がまた現れてしまう。
ノアもカイデンもメグミもとうの昔に限界を迎えているというのに押し寄せる敵の数は未だ計り知れない。
この時期は植物系のモンスターは基本冬眠の準備を始めるはずなのに魔力量が増えたことによって季節のリズムが崩れたのだとノアは言っていた。
カイデンは片膝をつき持っていた剣を地面へ突き刺し体を支えた。
ノアも自分にかけていた<身体強化>の魔法の効果が切れかけていて体から発していた淡い光が消えかけている。
私は元の魔力量が多いらしくそれほど疲れてはいないけれどまだ魔法も未熟でコントロールと言っても素人と同じレベル。到底戦いの最前線に立つなど出来るはずがない。
『ギイイイイイヤァァァアアア!!』
「──っ!」
パリン!
慌てて生成した盾は呆気なく破壊されたものの棘の触手は頬をかすめただけで済んだ。
ノアの私を呼ぶ声がどこか遠くに聞こえる。
人喰い花は私を木の幹まで追い込むと更に数体の人喰い花が周りを囲む。一人一人確実に殺す算段なのだろう。
「ラヴィニア!!──邪魔だ。どけ化け物共」
『グギャッ』
『ギイイヤァァアアアッ!』
冷たく冷酷に言い放ち敵を残り少ない魔力で圧倒する。人喰い花が怯んだその隙に駆け寄ろうとするが増え続ける敵が前をたちはだかる。
それでも私を助けようとするノアをカイデンが両脇に腕を回し体を持ち上げて止める。どんなに天才的な魔道士だろうとまだ子供のため簡単に持ち上げられてしまう。
「ノア君無理だ!」
「こんのっ、放せっ……!」
「ダメだ、今行ったら君まで犠牲になってしまう!」
盾の中で待機しているシェリーはノアがカイデンに引き止められるのをみて盾から出ようと立ち上がる。
「ラヴィニア様っ」
「待て嬢ちゃん!」
「ここから出して下さいドミニクさん!ラヴィニア様が、ラヴィニア様がっ!!」
「嬢ちゃんが行ったところでどうにもならないのは目に見えているだろう」
「だったらラヴィニア様を見捨てていいってことですか?ラヴィニア様のいない世界なんて死んでいるのと同じです!……っ、ラヴィニア様っ!!」
涙を流しドミニクの張った結界を素手で叩きわろうとする。その手は赤く腫れ上がり痛々しかった。
二人とも必死に私を助けようとしてくれているのに当の本人である私はそれをどこか他人事のように見ている。
人喰い花にやられた傷口から出た血液が頬を伝いポタリと地面に一滴垂れた。
その瞬間、私を中心に地面が水面に円を描くようになめらかに揺れ、森全体が淡い光を放っていく。
『彼女に触れることは許さないよ』
「!?」
『ギャッ──!』
『ギッ──!』
『グギィッ──!』
「な、にが起きているの?」
突然謎の声が聞こえたと思ったら人喰い花達は次々に体の内側から破壊され呻き声をあげて消滅する。
人喰い花たちの血飛沫が顔に飛び散る。
声は脳に直接響いてきて女でも男でもあるような声音だった。
何が起きたのかと呆然と突っ立っているのは私だけではなくノアやシェリー、カイデン達も目を丸くして固まっている。
『初めましてだね。僕の名前はオリジン。君たち人間には始まりの精霊と呼ばれているんだ。よろしくねラヴィニア』
よく分からないけれど、どうやら私はこの始まりの精霊オリジンに救われたようです。
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