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悪役皇女は二度目だけど溺愛ENDに突入中  作者: 人参栽培農園
皇女やり直し編
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9話・秋の大感謝祭に参加します

 

 秋になりました。

 そろそろ、誰か私に救いの手を伸ばしてください。


 食欲の秋とも言われ更に楽しみな朝食の時間。

 それが、何が悲しくてこんな気まづい空気の中食事をしなければならないんだ。

 見るからに不機嫌ですって顔でお互い向かい合うように、更に反対側の一番遠い席へ座り朝食をとっているノアとユーリ。


 紅葉が美しく際立つ時期へ移ろう季節に合わせて衣替えをする邸は毎年、慌ただしくも楽しげな雰囲気を醸し出していた。

 今年もそうなるはずだったのだが……

 犬猿の仲にも程がある。昨日の今日でなんでこんなに仲が悪いわけ。

 さすがに食べ終わるまでここにいるのは精神的不可が大きいと判断したので、最終手段、逃げの一手を取ろうと思います。


「私、朝ごはん自分の部屋で食べるね」

「何故だ。お前がそんなことをする必要はないだろう」

「そうですよ。そこにいるバカが出ていけばいいのですから」

「は?俺じゃなくてお前が出ていけばいいだろ、この居候」

「それは貴様も同じだろう」

「俺はラヴィニアに魔法を教えるという役割を担っているからな」

「私も専属騎士として陛下から直接命を受けて──」


 売り言葉に買い言葉を繰り返し、一向に止まる気配のない言い争い。何が原因なのか聞いても教えてくれないので私にはどうすることも出来ないのだが、メイドの皆も困っているので邸の主として何とかしないと!


(と言っても何も思いつかないんだが……ん?あれは──)


 リディの持つ数枚の手紙の中に記入されていた城下町の話題。

 その中には『秋の大感謝祭』と書かれている物があった。


「そうよ。皆でお祭りに参加しましょう!」


 その時の二人の顔は皆さんのご想像にお任せします。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「おお!すごい盛り上がり!」


 片手をかざして眩しい太陽の光を遮断する。

 街では目立つ赤髪を隠すためフードの着いたマントを着るようにした。

 ノア曰く、「赤髪は裏商売で高値で売られているから危ない」だそうです。


 街はお祭りを楽しみに来た人達で溢れかえりどんちゃん騒ぎで朝早くからも盛り上がりを見せていた。

 煉瓦状の家の最上階からは<秋の大感謝祭>と垂れ幕で大きく表示され、家と家を繋ぐロープには幾つもの小さな三角旗が垂れ下がっている。


 太鼓を鳴らす人、楽器を吹く人、中央の噴水の周りで異国のアラビアンな踊りを披露する人、それに混ざって変な踊りを踊る人。


 しかしこの楽しげな雰囲気に似つかわしくない人物が約二名。

 言うまでもなくノアとユーリである。

 ノアはあからさまに嫌そうな顔をしユーリは笑顔がどことなく黒い。そして二人揃って美形な為、返って孤立しているというか。

 ちなみに今回リディはお留守番。邸でのお仕事がまだ残っているそうだ。


「ちょっと二人とも!せっかくお祭り来たんだから楽しもうよ!ほら、あそこの屋台行こ」

「……はあ、わかったわかった」

「姫様が行きたいと言うなら」


 最後は私の意見を聞いてくれるところは似てるんだよな。嬉しい共通点を見つけてついにやけてしまう。

 素直じゃない二人の腕に手を回し「仕方ないなー」と笑いながら目的地の屋台まで走って引っ張っていく。

 初めこそ私の急な行動に驚いていた二人だけど、文句も言わずしっかりついてきてくれる辺り私に甘いと思う。


『……おい居候。今日だけは休戦だ』

『いいだろう。姫様の為に』


 引っ張られている二人が後ろで休戦協定を結んでいるとはつゆ知らず、美味しそうなパンやお菓子を貪る自分を想像して楽しむ私。


 邸にいる限り物には困らないけれど、こうやって実際に体験して楽しむことはできない。

 街へは一度来たことがあるれど、その時は迷子になっちゃって、ノアに助けられたっけ。何ヶ月か前の話なのについ最近のように感じてしまうのは、それだけ日々が忙しく刺激的だったからだろう。


 パンの屋台で購入した私たちは近くのベンチへと腰を下ろした。できたてほやほやのパンを口いっぱいにほうばって心の底から思う。


(秋の大感謝祭バンザーイ!)


 私を挟んだ両隣ではまた別の種類のパンを食べる二人がいる。

 ノアはの買ったパンは外はサクッ中はふわっな見ているだけで幸せになれそうなメロンパン。

 自分の分がまだあるにも関わらず、口端からヨダレを垂らし、キラキラ輝く瞳でノアの口に運ばれるパンをみていると、「食べるか」と突然目の前にパンが差し出される。

 普通の女子なら「いいの?」とか「え、でも」とか悩む素振りを見せるが、私は違う。

 そんな素振り欠片も見せずに私は即答した。


「食べます」


 ノアがパンを口元に固定してくれているので、そのままかぶりつく。


おいひふぎて(美味しすぎて)なみははへへふる(涙が出てくる)

「ふっ……それは良かったな。欲しければまだやるからゆっくり食え」


 珍しく柔らかい笑顔を見せるノアにいつもとは少し違う居心地の良さを感じた。

 しかしその空気は直ぐに壊れた。

 ユーリと目が合ったノアが私にパン()をやりつつ、見下すような笑みを向けたからだ。

 もちろんこんな顔をされてユーリが黙っているわけもなく、静かにパンを食べていた口を止め黒い笑顔を向ける。

 こ、これは少し不味いのでは?

 何故ユーリが怒っているのか、それはきっと……


(友達の私が嫌いなノアのパンにかぶりついたから仲間外れにされたと思ったのね!)

 ※半分正解で半分ハズレです。


 また罵り合いが始まる前に、ユーリの手に持つクロワッサンにパクリとかぶりつく。


「──っ」


 結論。想像を絶する美味しさだった。


「なにこれ、すごく美味しい!」

「ひ、ヒメ、サマ……その……」


 片手の甲を口元にやり顔を真っ赤にして歯切れ悪く声を発するユーリ。

 きっと勝手に食べて怒っているのだろうと考え私はパンの入っている紙袋の中からまだ残っている自分の分のパンをユーリの口元へ差し出す。


「ユーリの分を食べてしまったから、はいお返し」

「いや、あの……」

「美味しいよ?」

「し、かし……」

「──食べないのなら俺が貰う」


 パクリ


「「あ……」」


 私の手首を掴んで自分の口へと運び、本当に食べてしまった。

 ノアにも後で上げるつもりだったけど、そんなに早く食べたかったのだろうか。

 ユーリは下を向いて何やら呪文のようなものを唱えて始めた。

 そしてガバッと立ち上がり腰に刺していた護身用の剣に手をかざし、氷のように冷たい瞳でノアを見下す。


「貴様、やはり一度死ね」

「パンが欲しいのなら俺の分をやるよ。それとも、ラヴィニアに直接食べさせてもらいたかったのか」

「言いたいことはそれだけか、では死ね──


「「「オオオォォォォォオオオオオ!!!!!!」」」


「「!!?」」

「え、何?なにごと!?」


 臨戦態勢に入っていた二人もその巨大な叫び声、と言うよりも雄叫びが上がった方へ注意を向けると発信源は中央広場だった。

 街の人は「いよいよだね」とか「楽しみだ」とか言ってるので、どうやらこれから何が起こるかご存知のようだった。


(さすがにこれは気になるな。何が起こるんだろ)


「おや、嬢ちゃんたち祭りの参加は初めてかい」


 声を掛けてきたのはそれはもう大きな巨人のような男だった。八歳の私から見れば大人は皆巨人なのだけど、それとは比べ物にならないくらいの巨体だ。

 うちのシェフのジャスティンといい勝負かも。

 なんて思っていたらノアとユーリが素早く庇うようにおじさんと私の間に割って入る。

 ユーリは警戒心むき出しだけど、ノアは警戒しつつも話を進めた。


「これから何が起こるんだ?」

「この祭りの名物─()()()()()─だよ」

「「「大喧嘩祭り?」」」

「はははっ!仲良いなお前ら~」

「「仲良くない!」」

「照れてるだけなので気にしないでください」


 大喧嘩祭り。

 おじさんも去年参加していたようなので解説がてらルールを教えてもらった。


 一つ、年齢に一切の制限はない。自分の意思で参加すれば赤ん坊でも出場可能。

 二つ、武器の使用は指定のものならば使用可能。

 三つ、魔法での攻撃は禁止とする。あくまで拳で戦うこと。

 四つ、喧嘩をしても運営に慰謝料の請求は求めてはならない。

 五つ、以上を守って明るく楽しく喧嘩をしよう。


 大丈夫か、この喧嘩祭り。武器の使用許可って、赤ん坊でも参加可能って……

 ルールを聞く限り問題しかないような気がするんだけど。


「まあ毎年数人の負傷者がでるけど、参加者多いから人気なんだよこの企画」

「……しっかり負傷者出てるじゃん」

「坊主達も出てみたらどうだ?まだ受付締め切ってないと思うぞ」


 おじさんっ!それは!言っちゃダメなやつ!

 心の中で、そうあくまでも心の中でおじさんの頭をハリセンで叩き全力で抗議した。

 だってそんな事をこの二人に言ってしまったらどうなるかなんて決まっている。


「はっ、そこでさっきの決着付けようじゃねーか」

「いいだろう。貴様に勝ち目など一片もありはしないがな」


 お決まりのセリフを言い捨てて広場へと向かう二人の闘志はこれまで以上に燃え上がっていた。

 それは歴戦の勇者のように見える変な錯覚を起こさせる程にやる気に満ち溢れていた。



 もうどうにでもなれ。



 最後に残されていたのはやはり諦めの一手であった。


次回は二日後に投稿します。

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