北の魔人は侵略者
その夜、部屋に戻るとドラクの様子がおかしい。
「どうしたドラク?」
「クゥーン」
見るとドラクのお腹の上でマリーがスヤスヤと寝ている。どうやらそのせいで身動きが取れなくなってしまったようだ。
「ははは、寝床にされてしまったか、それにしてもSランクの魔物の上ですやすやと寝るとは、なかなか肝の座った赤子だ。ははは」
笑ったのなぞ何時ぶりであろうか、たまにはこうして腹から笑うのも悪くは無い。
「明日、俺たちは城を空ける。守りはゼルとお前に任せてある。頼んだぞドラク」
「ワン!!」
「それとマリーの面倒も見てやってくれ」
「クゥーン…」
「うー!!うー!!」
「マリーはお前の事が余程好きらしい、ははは」
ドラクは拗ねたようにそのまま横になった。
次の日、俺とイリス、ベールバティは王国へと向かった。
「へぇー、人間の国なんてじっくり見るの初めてだけど、なんか色々あるね」
「哀れなものね、いつ滅んでもおかしくない筈なのに、むしろ活気があるように思えるわ」
「お、あれなんだ?」
「ちょっとベールバティどこ行くの?」
「ねぇねぇ、お嬢ちゃん何持ってるの?」
「これは焼き鳥って言うんだよ、私これを売ってるの良かったら1本あげるね」
「僕にくれるの?」
ベールバティは少女から串を受け取るとそれを食らう。
「はむ、モグモグ!!美味い!!食べ物なんて久しぶりに食べたけど美味いなこれ、お嬢ちゃんが作ったの?」
ベールバティの尻尾はまるで犬のように左右へふりふりと揺れている。
「うん!良かったらもう一本いかが?」
「おーサンキュー」
「あ、アリスよしなさい!」
「え、でも、ママ」
その少女の、母親らしき人間が少女を抱き抱えるとすぐにその場を去っていった。
「何だ?」
「我らは魔人だ、忌み嫌われても仕方あるまい」
よく見ると周りは避けるように隠れてこちらを見ている。その表情は明らかに怯えているように見える。
「全く無礼な奴らですね、ベールバティもよくそんな物、摂取できますね」
「んー?でもこれ美味しいよ、イリスも食べる?」
「い、いりませんそんな物、汚らしい、それよりもうすぐ着きますよ」
城に入ると国王らしき人物の所へと案内される。
「おぉ、よくぞおいで下さった。マリオン殿、話はバランから聞きましたぞ」
「こんな弱そうなのが国王なのですか?全く持って理解できません」
「まずはこの国の長として、民を代表して礼を言わせてもらう」
「礼など要らぬ、俺は俺の目的のために協力する」
「そうか、では早速で悪いのだが、北の魔人は既に隣町を焼き払いこちらに進行中だ。こちらの兵力は1万弱、奴らはその数を次々と増やしながら今では100万を超えてるやもしれぬ」
「問題ない、俺に任せておけ」
「なんと心強い、しかし、たった3人で大丈夫であるか?」
「は?人間ごときがマリオン様の心配をするなど100兆年早いのだけれど」
「っひ」
「心配は要らない、既に手筈は整っている。お前達はその兵で城の守りを固めているのだな、取りこぼしが向かうやもしれぬからな」
「わ、分かった」
「全く、無礼にも程があります。もっと人間は自分の立場と言うものをわきまえて話すべきだわ」
「まぁまぁいいじゃん久しぶりに暴れれるんだし、僕楽しみだよ」
「見えたぞ」
空を移動して数時間、草原の向こうから、まるで何かの1つの巨大な生命体のようにこちらに向かってきているのが見える。
「スケルトンの軍勢ね、アンデットも混ざっているかしら」
「恐らく途中で襲った村の人達だろうね」
「まずは数を減らすか」
「マリオン様あれを使うの!!?」
マリオンは集中し、辺りの魔力を吸い上げ始めた。それと同時に巨大な魔法陣が出現する。
「メギドフレア」
空から放たれた一筋の光がアンデットの軍勢の中央に落ちると次の瞬間、落下地点から一瞬にして大地を揺るがすほどの大爆発が起きる。
ドッッッッッゴーーーーーォォーン!!
「あぁぁぁ、なんと美しい魔法でしょう!!流石我が主ですわぁ」
「ヒュー、さっすがぁ」
地面を覆い尽くすほどいた軍勢は7割がた消滅した。
「イリス、魔物を召喚せよ」
「かしこまりました」
「我が眷属、偉大なるマリオン様のためにその命を捧げ敵を駆逐せよ」
地上に数々の魔法陣が出現し魔物が現れる。それはアンデットの群れに突っ込むと次から次へと殲滅していった。
「ちぇー、これじゃ出番ないじゃない」
「そうでもなさそうだぞ」
ドズーン、ドズーン
地鳴りとともに森の中から巨大な何かが姿を現した。
「巨人の死骸ね、Bランクと言ったところかしら」
「あはは、じゃああいつは僕がいただきー」
ベールバティは急降下し、ビッグフットの前に立ち塞がった。
「ショーの始まりだァ」
ザクザグザク
自分より大きな鎌が出現するとそれを軽々と振り回しながら巨体を切り裂いた。しかし、腕が取れても首が跳ねられてもすぐにそれを拾い上げると再生していく。
「グオオォォ」
巨人もその巨大な腕を乱暴に振り回しながら襲ってくる。
「おっと、いいねぇ僕興奮してきちゃったよ、少し本気出そうかな♪」
ベールバティの持っている鎌に蒼白いオーラが宿り始める。そのまま再び腕を上げ切り離すと今度は再生することなく消滅した。
「彼女はソウルイーター、対象の魂ごと喰らう事によって、例え不死者であろうともその身は滅びるわ」
「アハハハハ、これでおしまい!!」
巨人の体を真っ二つにすると、巨大な体は跡形もなく消えていった。
「はぁ、お腹いっぱい。久しぶりに食べる魂は格別ねぇ」
あれだけあったアンデットも全て片付けたようだ。
「マリオン様、敵の残数0、こちらの被害も0です。まぁあの程度の下級アンデット、私の眷属相手では少々酷だったでしょうか」
「このまま元あった境界まで行くぞ」
元々の境界に行く途中焼かれた村がいくつか目に付いたが、どうやら生存者はいないようだった。
「呆気ないものですね人間は、あの程度のアンデットに為す術もないのですから」
「まぁ、あの巨人もいたし多少はね?」
「もし我ら魔人より遥かに強大な力を持った相手がいたらどうする?その時はあの村の人間のようになっていたのやもしれぬ」
「それこそ絶対に有り得ません、私たち魔人より強い存在なんて、太古のドラゴン位ですわ」
「世の中に絶対などない、所詮この星という中に閉じ込められた1生命体に過ぎない、この星の外にはまだ知らない生き物や魔人より強い生命体がいるのかもしれない」
「ねぇイリス、マリオン様って時々変な事言うよね」
「マリオン様は私たちには到底、想像も及ばない考えをお持ちなのよ」
「マリオン様、着きました。ここが北の魔人と人間の境界付近です」
「中央大陸にあったのは確か人間共の帝国だったか?」
「はい、魔人には及ばないものの、かなりの戦力を持っているとか、まぁ私たちの敵ではありませんが」
「その境界付近まで結界をはる」
マリオンは地面に手を当てると僅かに亀裂が入る。それは地平の彼方まで割れると、そこから虹色の光が湧き出てくる。
「これで奴らも迂闊には進行してきまい」
「流石ですマリオン様これ程の結界、Sランクの魔人でさえ突破するのは困難でしょう」
「戻るぞ」
「どうだった、奴らはどうなった?」
「その前に言うことがあるんじゃないかしら」
マリオンはイリスの前に手をやる。
「アンデット及びスケルトンは全て駆逐した」
「おおぉ、信じられん」
周りからはそんな声が漏れでる。
「それと、奴らの境界辺りに結界を貼っておいた。これでそう簡単には侵入してくることも無いだろう」
「おぉ、誠か!流石だ東の魔人殿、私が代表して礼を言おう」
「要件は済んだな、俺は失礼する」
「精々マリオン様の寛大なるお心に感謝する事ね、人間」
「じゃ。まったねー」
「何という凄まじい力、あれ程の力が我らの配下に加われば向かうところ敵無しではないか」
「味方のうちはな…、いつ裏切るとも限りません、何せ奴らは悪逆非道な魔人です」
「しかし、上手くいけば手駒として使えるかもしれませんぞ」
「ふむ」
「ねーマリオン様、もう終わりなの?もう少し暴れたかったな」
「あ、さっきのお姉ちゃん」
「おー、お嬢ちゃん」
「お姉ちゃん達が悪い奴ら追っ払ってくれたの?」
「そだよ、あんな奴ら小指でひとひねりさ」
「すごーい!はい、これお礼に1本あげる。ママには内緒ね」
「おぉー、分かってんじゃねーか、それじゃ遠慮なく頂く」
「はむっ」
「ありがとうお姉ちゃーん」
「またなー」
「随分と仲のいい事ですねベールバティ」
「ん?そうか?はむっモグモグ、人間はともかくこの焼き鳥ってのは美味いな」
「全く貴方って人は」
「そんなに美味いのかその焼き鳥とやらは」
「うん、マリオン様も食べる?」
「ほう」
「待ちなさい!そんな物、マリオン様に食べさせるわけにはいきません」
「大丈夫だ、この俺は毒はもちろん呪いやその他の状態異常は全て無効だ」
「どうしてもと言うなら先ずは私が毒味してからです!」
「んな事言ってイリスが食べたいだけでしょ」
「はむっ、何を言っていふのでふか、モグモグ、マリオン様にもしもの事があったふぁどうふるのでふ」
「ゴクリ、マリオン様異常はありません、どうぞお召し上がりください」
「お、おぅ」