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赤子の名は

とは言ったものの、この赤子どうしたものか今はスヤスヤと寝ているようだが、もうじき腹も空こう。魔人と違い、人間は毎日栄養を摂取しなければ死ぬらしいしな。


「イリスいるか」


「はい、こちらに何なりとご命令ください」


「お主、母乳は出るか?」


「はい?今なんと」


「母乳は出るかと言っている」


「ぼ、ぼぼぼ、母乳ですか?あいにくですが、私まだそういった経験がありませんので、マリオン様の寵愛を頂けるのでしたらすぐにでも!!」


「そうか、下がるがよい」


「はい…シュン」


「困ったな」


赤子の栄養は乳と聞く、それが無ければこの赤子は死んでしまうか。


「ゼル」


「はい、こちらに」


「魔人の中に身ごもっている者はおらぬのか」


「恐れながら、我ら魔人は人間とは違い大気中の魔力をエネルギーに変えることができます。よって人間のように口から栄誉を摂取するという方法をあまりしないのです。それは赤子であろうと例外ではありません、よってそもそも母乳というものは出ないものかと」


「そうなのか?それは困ったな」


「それでしたら、ヤックルの乳などどうでしょうか?あの魔獣は子育てをする際、子に乳を与えます」


「成程、ではその乳を持ってこい」


「はっ、仰せのままに」


それにしてもなんとも無防備で呑気な寝顔だな、この位の赤子なら自分の身を守る為のバリアくらいは張れるものだが。魔人基準で考えても意味はないか。


「グルルル」


突如、マリオンの背後から大きな影が現れる。それは唸り声を上げて赤子に近寄り何かを確かめるように匂いを嗅いでいる。


「ドラク、そいつは食べ物ではない我慢しろ」


ドラクと呼ばれるそれは、まるで巨大な犬のようだが口には鋭い牙が幾つもあり、前足には長い爪が伸びていた。


「キューン」


「いい子だ」


そう言えば、これの名前を決めていなかったな。いつまでもそれやこれでは愛着もわかないか。


「あーあぅーー」


「起きたか、そうだな…フォン・ファルケンハイン・デリー・マリネットでどうだ」


「クゥーン」


「なに、長いだと?では…マリーネットでどうだ」


「あぅ、あぅ」


「ワン!!」


「気に入ったか、ではお前は今日からマリーだ」


マリーの成長は著しく1ヶ月もしないうちに四つん這いでウロウロし始めた。魔人は長生きだがその分成長も遅い、俺も今のこの体になるのに300年以上はかかった。しかし、少し気がかりなことがある。


ゴツン


「あー!!ぁー!!」


よくこうして頭を何かにぶつけては泣いてしまうのだ。もしや…。


「ゼル」


「はい」


「マリーの事だが、もしかして目が見えていないのではないか?」


「なんと、少しお見せくださいませ」


ゼルはマリーを抱えると注意深く観察する。


「あぅーー、あぅーー」


一方のマリーは抱っこされたかと思い喜んでいる様子。


「見たところそのようでございます、恐らくそれもあって捨てられたのでしょうな」


「そうか、分かった下がれ」


「はっ」


生まれながらに視覚を奪われたか、だが今のこの状況を考えればその方が幸せかもしれぬな。マリオンはマリーを宙に浮かすと手元に引き寄せる。


その体は柔らかく少し力を入れただけで壊れてしまいそうなくらいだった。


「あぅーー」


ここまで脆弱で生まれながらに視覚を奪われてなお生きようとするか、貴様の生には一体なんの意味がある?その体で一体何が残せるというのだ。


この世は力こそが全て、力を持たないものは強者に蹂躙されるのみ、それがこの世の全てだと思っていた。ならばこの者の命は何のためのものだ、俺にはまだその答えが分からぬ。


「マリオン様、定期報告のお時間です」


「イリスか、分かった」


数ヶ月に1度、現在の世界の状況を報告する定期報告、世の中は常に動いており、いくら今は静観しているとはいえ無知ではいざと言う時どんな強者でも滅んでしまう。だからこうして各国に眷属を忍び込ませ情報を得るのだ。


「現在、東にある我がバルド森林地帯はその統治領域に変動はなく、維持を続けています。先日の侵入者の案件以外では特に変わった行動はありません」


「南、西にある魔人領域に関しては特に異常はありませんので、説明は省きます。人間の国や帝国も現状維持を保っている様子です。問題は極寒の地、北の魔人が占領しているトール山脈です。奴らはその領域を少しづつ広げ一つ人間の国を滅ぼしたとか、その勢いは留まるとを知らずこのバルド森林地帯に接触するのも時間の問題かと」


「トール山脈と言うと、魔人デストールだな」


「おっしゃる通りでございます、かの魔神はマリオン様には遠く及ばないにしても、従えている魔物は我が軍の数倍に達します」


「確か奴はネクロマンサーだったな、死体さえあれば幾らでも兵を用意出来るわけだ」


「はい、我らのこの領域にもし進行するような事があれば如何しましょうか」


「そんなもの言うまでもない、我は進行するつもりは無いが、侵略されるのであれば容赦はしない、もし奴らが侵入してくることがあれば、即刻排除しろ」


イリスはニィっと薄ら笑いを浮かべる。


「はい、お任せ下さい」


???「はいはーい、その役僕にやらせてよ」


「ベールバティ、マリオン様に向かってその口の聞き方はなんですか」


ベールバティと呼ばれる魔人は、見た目は幼い少女のように見える、足まで伸びた長い髪とひゅるりと生えた尻尾が特徴的だ。


「いいじゃん別に、これが僕の喋り方なんだ、イリスにどうこう言われる筋合いはない」


「何ですって!?」


「よい、ベールバティ、奴らが侵入してきた際はお前に任せる」


「さっすがマリオン様、話が分かる。頭の硬いイリスとは大違い」


「あんたね…」


ゴゴゴゴゴ


「何?やろうっての?いいね、久しぶりにやろうじゃん!」


ゴゴゴゴゴ


「やめよ、身内で争ってどうする」


「だって、イリスがー」


「これにて報告は終了とする。引き続き周囲の動向を探れ」


「了解致しました」

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