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マリオン様赤子を拾う

この世界には、主に2種類の人種が存在している。1つは最も多くいる人間、一人ひとりは差程強くはないが集団で行動する事で時に強者を打ち取ることもある。また、たまに強い力を持った者も存在する。


もう1つは魔人、古くから人間と対をなし存在する人の亜人種、あまり集団で行動することはせず、人間と比べると一人ひとりの力は強い。外見は人間とは似ても似つかない姿をしており、人間からは恐れられている。


この両者はいつの時代もいがみ合い時に戦い争ってきた。この戦いは止むことは無く現代に至るまで続いている。


~東バルド森林魔人領域~


ここは魔人が占拠する地域、1人の強力な魔人を筆頭にその地を占領し、収めていた。その城内には2人の人影があった。


1人は、中央の椅子に深く腰掛けている男、一見普通の人のようにも見えるが、頭には角が生えており瞳は赤く染まり、手足は鱗のようなもので覆われている。


もう1人は、長く伸びた黒い髪が特徴的な魔人、左右の瞳の色は赤と青色をしており、背中には白い羽が生えている。


「マリオン様、我らが占領している森林地帯に族が侵入したとの事です。如何しましょうか」


「適当に追っ払え、どうせ迷い込んだ人間だろ」


「もしかしたら、我らの領土を奪いに来た輩かもしれません」


「そんな人数でもなかろう、奴らは少数では大したことは出来ない、捨て置け」


「しかし」


「イリス、俺の命令が聞けないのか?」


針を刺すような殺気、その殺気が空気を伝いイリスの体を震わせた。


「承知しました」


イリスと呼ばれた魔人は1つお辞儀をすると部屋を出た。


「はぁーーんマリオン様いつ見てもカッコイイわァ、それにあの心臓を握りつぶされるような殺気、私、おかしくなりそう 」


「やれやれ、貴方はこのバルド森林の防衛を任されている身、もう少し気品を持って下さいませ」


「ゼルね、余計なお世話よ。マリオン様のあんなのを見せられたら、誰だって興奮するでしょう」


ゼルと呼ばれる初老の魔人は、やれやれといった表情を浮かべた。


「ところで、侵入者はどうされるのですか?」


「追い返せとのご命令よ」


()()ではなくてですか」


「ええ、そうよマリオン様は寛大なお方だわ、虫けらのような人間にも慈悲を与えて下さるお優しい方」


「しかし、あまり手緩いと奴らに舐められますぞ」


「確かにそうね、でもこれはマリオン様のご命令、ならば私はそれに従うまで」


「数百年前は、あちこちでその名を知らぬものなどいないほど悪逆の限りを尽くしてきたマリオン様ですが、このバルド森林に陣を敷いてからというもの、ここ数十年は何もせずにじっとしておられる。何かお考えなのでしょうか」


「あの時のマリオン様は凄くかっこよかったわよねぇ、思い出しただけでもゾクゾクしちゃう」


「私もこう何もしない日々が続きますと、体がなまってしまいますな」


「そうねぇ、たまには人間の村の一つや二つ焼きにいきたいわ」


「ホッホッホ、貴方なら村と言わず国一つは滅ぼせましょうぞ」


「とにかく、ご命令がない以上、勝手な行動はマリオン様のご機嫌を損ねます。私はマリオン様が愛してくださるだけで満足ですわ」


「それにしても、賊ごときに貴方が出られることも無いでしょうに」


「だめよ、他の奴にやらせたら抑えられずに殺しちゃうもの」


「それもそうですな、さてとこの老いぼれもそろそろ持ち場に戻るとしましょう」


「私は賊を追っ払ってきます。マリオン様の警護は任せましたよゼル」


「承知しました」


「ワープホール」


イリスがそう唱えると目の前に2メートルはあろうかと言う穴が出現した。イリスは躊躇うことなくその穴に入る。


「眷属の情報によると、この辺りのはずなんだけど」


イリスは一瞬にして人間と魔人の境界辺りに移動していた。眷属には、侵入者がいた場合はまず直ぐに報告せよと命令してある。なのでマリオン様の領地では魔物に出くわしても直ぐに攻撃してくることは無い。


「お、ぉぎゃぁ、ぉぎゃぁ」


「何かしら…これは」




「只今戻りました」


「早かったな、奴らは追い払ったのか?」


「いえ、もう既に逃げた後でした。しかし…」


「どうした」


「こんな物が落ちていました」


イリスが乱暴に持ち上げたのは布に包まれた赤子のように見える。


「我が魔人の領土にこんな()()を捨てるなど、下賎な人間共ですね」


「見たところ赤子のようだが」


「私が処分しておきましょう、今夜の()()()の餌にはなりましょう」


「ふむ、待て、この森にある物は全て俺の物だ、その森に捨てられてあったのであれば、そいつは俺の物だ。俺が預かろう」


「し、しかし、この様な物、マリオン様にお渡しするわけには」


「構わぬ」


「…っく」


イリスは嫌々ながらその赤子をマリオンという魔人に手渡した。





「何故なのです!あの様な汚いものマリオン様に持たせる訳にはいきませんのに!!」


「人の子ですか、この森が我々魔人の領土と知って捨てていったのであれば、看過できませんな」


「私、もう一度マリオン様の所に行ってきます」


「そうですな、私も行きましょう」


「マリオン様!!」


マリオンの部屋に入ると何やら赤子を空中にフワフワと浮かせその姿をぼーっと見ている。赤子は先程まで泣いていたが、今はスヤスヤと眠っていた。


「やはり、その赤子人間の領地に捨てて参ります」


「何故だ?」


「我らは誇り高き魔人、その魔人の中でもマリオン様は上位に位置されるお方、そのようなお方が人の子と戯れているとあっては他の魔人に笑われてしまいます!マリオン様の名にも傷がつきます」


「もはや私にとって名声などなんの価値もない、今はこうしてひっそりと暮らしていたいのだ。しかし、こうして何もしないのは退屈でな、この赤子は私の暇つぶしにはなろう」


「どうして…あれほど残虐で無慈悲なマリオン様は何処へ行ってしまわれたのです!?」


「この世は力こそが全てだ、あらゆるものは力さえあれば手に入れられる。俺は全てを手に入れた。だが、その先にあったものはなんだ?地位も名声も栄誉も所詮はまやかしだ、私の心は満たされぬ」


「でしたら、もう一度私共と一緒に、人間共を焼き払いましょう、マリオン様の力を再び世の中に知ら締め、我ら魔人がこの世界を支配するのです。マリオン様がご命令下されば、このイリスすぐにでも出陣致します」


「お前の忠誠は高く評価するぞイリス」


「でしたら」


「人間共を支配する、それこそ無意味だ。奴らと我らは決して交わることの無い言わば水と油の様なもの、そんな奴らを支配した所で意味はなかろう」


「でしたら奴らを一匹残らず根絶やしにするのは如何でしょうか」


「ゼルか、根絶やしにしてその後はどうする?奴らがいない世界こそ、真につまらない世界ではないか?奴らは気にくわないが、全く居なくなってしまっては、もはやそこには戦う意味も存在しなくなるのだぞ?」


「…確かに」


「魔人と人はそうやって上手く共存している」


「しかし、ではそれとその赤子となんの関係がありましょうか?」


「これはただの暇潰しだ。そう言っただろう。それと、ふむ、あえてもう一つ理由を付けるとしたら少し興味があるからだ」


「興味ですか…?」


「あぁ、今まで人間なぞ俺の力に押し潰されていくだけの有象無象だと思っていたが、奴らの生態を知れば魔人とは何なのか、人間とは何なのかが見えてきそうだからな、その先に俺の乾きを癒すものがあるやもしれぬ」


「ではその赤子は、マリオン様がお育てになると?」


「あぁ」


「分かりました、マリオン様がそこまで仰るのでしたら従います」


「イリス、お前は俺が一番信頼する側近だ。お前の言いたいことも分かる。だが今は俺の命令に従え」


「はい、このイリス例え全世界が敵に回ってもマリオン様に忠誠を誓います」

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