サイレントナイト
遅くなった。
自分の班に戻ったときには、すべて終わっていた。私もクラスメイトとカレーを作ったりテントを張ったりしてみたかった。
あわよくば、もう少し女子達と仲良くなりたかった。
自分の果たすべき使命と学生生活は、うまく両立できないようだ。
「おかりえ」
穏やかな声を掛けてくれたのは君だった。
「ごめんね、カレー先に食べちゃったんだ。これ神崎さんの分」
お皿に盛ったカレーを私は手に取った。ご丁寧にスプーンも添えられてた。それはカレーというよりスープだった。
「ちょっと慣れない設備だったから、しゃばしゃばになっちゃった」
「有り難う、碧くん」
私はそれを受けとる。
「どうしたの?疲れてる?」
彼は首を傾げてくる。
「おっ、ずるいぞ。神崎さんは俺がカレーを渡したかったのに」
男子からブーイングが巻き起こる。
「いいんだよ。調理担当の特権だろ。秋山は、バスの席が近かったじゃん」
「う、それは」
「だろ」
碧ハルは有無を言わせなかった。
「ほら、あそこ席空いてるよ。食べ終わったらテントに行きなよ。女子がトランプして待ってるから」
「ごめんさない。まだやることがあって、キャンプファイヤーの打ち合わせもあるし」
「そっか」
ハルと近くいた男子達は残念そうに、そして大変そうだなという顔をした。
一度受け取ったものの、冬子はカレーを返す。
「ごめん。食欲ないし、急ぐから。せっかくのカレーだけど」
それに私は、何も手伝ってないのに食べるのは気が引けた。
「そ、そう」
碧ハルにお皿を返して、冬子は踵を返した。
なんだかとても落ち着かない。
行く前はとても楽しみだったのに。いざ、宇宙船の近くにいると。計画の失敗は許されないと思うと。そして、神崎冬子として。オリエンテーション実行委員として普通に接しなければいけない自分の違和感で吐き気がする。
まだ先生達との打ち合わせの時間には早かったが、冬子はクラスの輪から離れた。時間まで星を見ていたかった。
ジャージが汚れないように、倒れたちょうどよい木の上に冬子は腰を掛けた。
まるで音のない暗闇だった。星は輝いているのだが、遠すぎて届かない。
私はこれからどうすべきだろう。
仲間をかき集めて、この地球で静かに暮らすべきか。それとも仲間と共にどうにか星に帰る手段を模索すべきか。
しかし、後者の道は険しい。危険をみすみす犯して、仲間の命を再び危険に晒すなどもうしたくない。だか、本当は神室などはシリウスに帰りたいだろう。親思いのやつだ。
だが、帰れたとして。そこはもう私達の居場所はない。
すべて兄上のもの。
そして、私の王位も剥奪されている。クーデターの罪を着せられて。
どう考えても諦めるほかはない。
私は、神崎冬子という地球人として生きるほかはない。
冬子は暗い星空を見上げる。
現実を受け入れろと自分に言い聞かす。
僅かな希望など捨ててしまえと。
私は神崎冬子。普通の学生なのだからと。
もう忘れてしまえ。未練がましい。
私は、神崎冬子。
本当の名前なんて忘れてしまえ。




