大変なことが起きました
「も…」
りこは血の気が引いた顔になった。
「どうしたんだ?」
神室は落ちたメガネを拾い上げながら、立ち上がった。
「もっ、戻して」
絞り出すような声だった。
「なんでだ?人手は多いほうがいいだろう?こいつなら、すばしっこいし役にたちそうだ。それに常々、喋らない生物なのでコミュニケーションが取りづらいと思ってたんだ。我々の叡知の爪の垢でもさずけてやろうと思ってな」
「叡知じゃないし。迷惑だし。いいから戻してよ」
「ところで…」
「なによ」
「なぜ、俺は後ろ回し蹴りを喰らったんだ?」
「もう一発お見舞いしてあげましょうか?」
二人の間に独特の沈黙がながれた。
「もしかして…」
神室は無駄にかっこよく髪をかきあげた。
「ああ、感謝されこそすれ。怒られるとは思ってなかった」
「じゃなくて、もしかして…」
「ああ、戻せないぞ。あっ、いや星にかえれば、戻せるがな。材料的に」
「ざっけんな!!!!!!!!!」
りこは神室の胸ぐらを掴みあげた。
「何してくれてんのよ。猫は普通喋らないないの。便利とか関係ないの。ハルちゃんがこんなのみたら卒倒しちゃうでしょ!!!!!!」
「待ってあげて、りこちゃん」
それは、オリオンの声だった。
「ごめんね。りこちゃん」
「そんなに大変なことだってわからなくて。僕、りこちゃんやハルちゃんと話せたら楽しいだろうなって。ごめんなさい」
「オリオン」
「いいのよ、オリオンのせいじゃないわ」
りこは少しうつ向いて考えた。
「でも、私はハルちゃんが一番大切だから心配させたくないの」
今度は、オリオンがうつむく。
しっぽを悲しそうにたらして。
「僕、家を出るよ。猫、喋ったら変だよね」
そして、後ろ向いて歩き出す。
「待って、オリオン」
「りこちゃん」
「ハルちゃんの前では話さないって約束できるならいてもいいわ」
「ほ、ほんとう?」
キラキラ、宇宙のように光る目でオリオンが見つめる。
「ええ、どうにか私が元に戻るように方法を探すわ。だから、それまでの辛抱ね。このメガネにも責任とってもらうしね」
「りこちゃん。でも、その人完全に堕ちちゃってるよ」
「えっ?」
いつの間にかプロレス技をかけてしまい、りこの腕の中で神室は泡を吹きながら白目をむいてした。




