スレイブ応用編
手は小刻みに震えていた。
それでも、表情は凛として強く歯を食いしばっていた。
不安など見せる気はみじんもないようだ。
「大丈夫?」
僕は声を掛けた。
「なにがですの?」
もうすぐ、昼休みが終わる。
誰も助けに来てくれる様子はない。
「旭さん、僕の手を……」
「聞きませんわよ」
力強い翡翠の瞳。
僕は諦めた。
「じゃあ、助かるための話なら?」
「それなら、聞いてもよくってよ」
「一度だけ、踏ん張って僕を持ち上げることは可能?どうにか這い上がってみるけど?」
「イエス。と言いたいところですけど、体力的に無理ですわ。失敗したときのリスクが大きいと思ったので、助けるが来る方を期待して体力を使ってしまいました」
「いや、いいんだ。僕も体力あるほうじゃないから。助けを待った方がいいと思ったから。一緒だよ」
冷や汗を流しつつハルは笑った。
「それに助けも来てくれそうだよ」
その言葉に旭は目を見開いた。
「えっ?」
「ほら、君の親衛隊?みたいな人達の声が聞こえるもの」
「よかったですわ。でも、問題は時間ですわね」
「そうだよね」
このままでは、二人とも真っ逆さまだ。
「旭さん?は、スレイブって使える?」
「こんなときに何の話ですの?」
「助かる確率の話だよ」
「勿論、私は旭稜楓ですもの。すでにスレイブはマスター済みですわ」
それを聞いてハルは少しほっとした。
「このままだと、ほんとに二人共屋上から落ちると僕は思うんだ」
静かにハルは話始めた。
「私は離しませんよ」
「そうはいっても、君の手から血が滲んでる。これ以上は時間の問題で旭さんの手がフェンスから滑るか、二人で落ちるかって話になると思う。そこで、僕は思い切って落ちてみようと思うんだ」
「あなた変わってますわね」
「そうかな?」
「で、スレイブの話に戻るけど。僕は最近、スレイブでバリア?シールド?みたいなものを作ることに成功したんだよね。すぐに割れちゃうんだけどね。あれをクッションにしたらいいかと思って」
「物理攻撃体系のスレイブの応用ですわね。なかなか優秀ですわね。でも強度が予測できませんわ。怪我をしますわよ」
「でも、そのまま落ちるよりはましだよ」
「助かる確率の話ですわね」
「そうそう」
「だから、私も手を離してスレイブを放てと?」
「そうそう」
「間違っても、一緒に落ちてこないでね。あと、できれば強度の高いシールドでお願い。あと、枚数も多い方がいいな」
「三枚が限度ですわ」
「僕は一枚が限界だから。あとはお願いします」
しばらく黙り込んだあと、ハルは苦笑いをした。
「あと、落ちた瞬間、気が動転するかもだから。やっぱり君の三枚だけかも……」
旭もしばらく黙り込んだあと、苦笑いをした。
「私も焦って、二枚になってしまうかもしれませんわ。妹さんに会いたいなら、根性出して一枚はご自分でなんとかしてくださいませね」
彼女と僕は目を合わせて、タイミングを計った。
そして、僕は心の中でカウントを打った。




