表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/121

クイーン




 昼休みの教室は、ざわついていた。


 購買からに戻ると遠坂と目が合った。彼は窓枠にもたれ、空をみながら昼食を取っていた。向こうもこちらに気がつく。


「やるよ」

 パンがいきなり空中を舞う、それを僕はキャッチした。


「いいの?」

「こないだの詫び」

 返したいところだがその通りだ。僕はパンの争奪戦の敗北者だった。ありがたく頂くことにする。


「有難う」

 素直にクリームパンとサンドイッチをいただく。


「借りは返すよ」

「きにすんな。それより珍しいな、いつも弁当だろう?」


 そうなのだ。考えていたら珍しく寝坊をしてしまってたのだ。なんとか妹にはおにぎりを持たせたが、僕の分まで作る余裕などなかったのだ。


「座れよ」

 ちょうど、遠坂の隣人は外出中。食堂か屋上かは知らないがいなかった。

 僕は素直にその席に座って、昼食を取る。



「どうだった?」


 神崎冬子のことだろう。


「振られそこなった。これから振られるところだ」

「忠告してやろうと思ったんだが、余計なお世話だったな」

「そうだな。あいにく手遅れだ」


 僕は静かにサンドイッチを食べた。

「俺も告白して振られたんだよ」

「はっ?」


 僕は遠坂をはじめてマジマジと見た。



「いや、だって美人だろう?スタイルもいいだろ?」

「それで、好きになったのか?」

「好きかどうか聞かれるとそうなのかもな?まぁ、とにかく美人がいればお近づきになりたいと思うだろ?でも、あれは無理だわ」


「なんで?」

 素朴な疑問だった。


「顔だけの女だと思ってたんだよ。それが男顔負けの運動神経、学力、その他諸々。あっという間にトップの座に君臨しやがった。あんなすごい奴だとわかってたら手を出さなかったぜ」


 

「ほら、クイーン様のおでましだ」

「クイーン?」

「あいつのあだ名だよ。みんなそう呼んでる」

 知らないのか?と怪訝な顔で相手を示す。 


 そこには彼女がいた。

 神崎冬子だ。


 ちょうど教室に戻るところだろうか、廊下を歩いている。その後ろには控えるように親衛隊がついて歩く。


「見ろよ、あの親衛隊のメンバー」

「なに?」

「学校でも、選りすぐりの優等生達だ。将来有望。未来の国の官僚候補ばかりだぜ」

「そうなの?」

 ただポカンと僕は聞いていた。


「あのそうそうたるメンバーを束ねるのが、神崎冬子。ただ者じゃないってこと。この学年のクイーンだ」

「クイーン……」

 小さく僕は呟いた。



 世界が違いすぎて、告白する勇気がくじけそうだ。







 その日、僕は公園のベンチで夜空を眺めていた。

 神崎冬子は、昨日僕が奇行に走った後もかわらずに優しかった。特に何も話したわけではないが、クラスメイトとして笑いかけてくれた。


「クイーンか……」

 手が届かないな。

 満天の空の下で僕は決めた。

 告白はやめておこう。


 たとえこの気持ちで潰れそうになることがあっても、彼女とのクラスメイトとしての関係を壊したくない。そう思えてきたんだ。


「心の中がぐちゃぐちゃする」


 もう笑ってくれ。

 とんだピエロだ。




 


家への帰宅途中に俺はコンビニに立ち寄る。



 恒例のスイーツコーナーを物色する。シュークリームにプリンにスフレ。ゼリーにティラミス。生チョコやロールケーキもある。今日はどれにしようかな?


 経済的には、それほど裕福ではない。だが、これくらいの贅沢は許されるべきだと僕は思う。僕には、好きなことが二つある。

 綺麗な星を眺めるが好きだ。そして、妹に美味しいものを食べさせてあげるのが好きだ。妹の嬉しそうな顔を見ると、嫌なことでもどこかに行ってしまうんだ。

「よし。今日はスフレにしよう」

 チーズの香りいっぱいのふかふかのケーキだ。

「そして、あとは妹への言い訳だな。うん」

 お会計を済ませてレジ袋を持ち、僕は足早にコンビニを後にする。






 玄関を開けると、妹のいつもの声が聞こえた。

 「ハルちゃん、おかえり」

 「ただいま、妹よ」



 神様どうか、このささやかな幸せだけは壊れませんように。



 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ