恒星
なんとなく帰りたくなくて。
ぼんやりと僕は寒空の中、星を眺めていた。
流れ星が一つ落ちる。
神崎さんはかっこよかった。
試合は逆転勝利。喝采と歓声に包まれてた。
大勢の生徒に囲まれ彼女は僕の視界から消えていった。とても近づけやしなかった。
本当は凄いよ。おめでとう神崎さんと僕も言いたかったけど。
なんとなく帰りたくなくて。
この気持ちを伝えたくて。
僕は家に帰れずにいた。
また星が落ちる。
今日はやけに多いな。
公園のベンチに座りながら、後ろに少しのけぞって夜空を見上げる。
「あれがアルタイル。ベガ。カシオペア」
意味もなく口に出す。
「そしてあれが……」
僕は上に手を伸ばして、星を指す。
僕の大好きな星。
でも、いつの間にか輝きが失われてしまった気がするのは気のせいだろうか?それとも、大気汚染のせいだろうか?
あの明るい星の名前は。
「シリウス」
凛とした声が聞こえた。
僕は隣を見る。
そこには長い水色の髪の美しい少女が立っていた。
青い瞳が僕を覗き込んでくる。
「あの星はシリウス」
「か、神崎さん?」
どもってしまった。
「隣、座ってもいい」
「うん」
彼女は静かにベンチに腰を下ろす。
「どうしてここに?」
「なんとなく……」
神崎さんは口を閉じて、しばらくしてまた口を開いた。
「ねぇ、流れ星ってなんで落ちてくるか知ってる?」
「えっ、なんでだろ?」
星は好きだが、そんなに詳しくはない。
「あれは星の命が終わり、散っていくから。このたくさんの星達は数百光年先で遠い場所で命を削っているの。ほら、あの星。シリウスだっていつかそうなる。だって、もう輝きはないでしょ」
淡々と神崎さんは話す。
微笑みは美しくとても冷たい。
「でも、僕はあの星が好きだな。あの明るい恒星の星。いつか輝かなくなったとしても、僕には明るく見えるよ。それにもしかしたらまた光り輝くかもしれないよ」
神崎さんは僕の顔を見る。
「碧ハル。君はやっぱりかわっているな……」
「そうかな。それより、神崎さんおめでとう。試合凄かったね。偶然会えるなんて僕ラッキーだったよ。おめでとう」
ちょっと興奮気味に僕は誉める。
「たいしたことはない」
「凄いよ。だって僕はいつも君の姿を見ると強くなれる気がするもの」
ただ黙って彼女は僕の言葉を聞いていた。
そのあと、二人で長いこと星を眺めていた。その時だけは、妹のこともオリオンのことも忘れていた。
「そろそろ帰らないと妹さん心配するんじゃないか?」
「あっ、ヤバイ」
ハッとして僕は立ち上がる。
「あっ、でももう遅いよね。神崎さん、家の近くまで送るよ」
「いい。気にするな」
「でも」
「大丈夫だ。私は強いだろ?」
僕は、神崎さんの握力を思いだした。
「明日また学校で」
その笑みは柔らかかった。
「うん、じゃあね。神崎さん」
冬子は碧ハルの姿が見えなくなるのを確認して。
まわりに自分一人しかいないのを確認して。
誰にも聞こえないように呟いた。
「偶然じゃなかったよ、碧ハル」
今日ここで会ったのも。
私がこの学校に来たのも。
君は知らないかもしれないけど偶然じゃなかった。




