君を見つけた
勝ちたいなんて思ったことはない。
しかし、自分は他の者より優れている自覚は幼い頃からあった。
権力渦巻くこの場所では出来なければ叩かれ、出来過ぎても叩かれる。いつしか私は、うまく負けることを学んだ。少しだけ力を抜いて負ける。相手も気が付かない。むしろ、上機嫌だった。
それから、私はうまく負けるようにした。相手も満足げだった。きっといい勝負ができただろう。
そして、また負ける。
私の処世術のようなものだった。
ああ、また負けた。
負けてやったのだ。
本当に?
勝ちたいなんて思ったことはない。
負けるたびに自分に言い聞かせた。
いや、本当はただ勝てなかったのではないのか?
負けて、負けて、負けて、負け続けて本当に勝てなくなってしまったのではないのか?
本当の私は弱かったのではないか?
誰も私を見ない。
誰も応援などしない。
だから、勝ちたいなんて思ったこともない。
旭稜楓は、強かった。
自信に満ち溢れた態度に嘘偽りなどなかった。
いつのまにか私はラインの瀬戸際。あと、一本取られれば負けてしまう。上手に負けるどころか、無様な醜態を観衆の前にさらしてしまった。流石に惨めではある。この喝采、歓声はすべて旭稜楓のもの。
きっと私は勝てない。
負け癖のついた私は勝てない。
でも、そう。
私は勝ちたいなんて思ったことはい。穏便でいればそれでいい。
だって、誰も私を見ない。
一度だって、私は応援されたことがない。
だから私は。
君の声はよく聞こえる。
たくさんの歓声の中でも私には聞こえた。音にはならない君の声。
たくさんの人達の中、必死に叫ぶ表情を見た。
目が合った。
本当は、負けたくなんてなかった。
勝ちたいと思っていた。
君がそこにいるのなら。
私は、勝ちたいと思った。




